ラブミーノイジー

せんりお

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いつも通り誰もいない図書室。ここにくるのはなんだか久しぶりな気がした。
ここにくるように言ってくれた委員長は俺に詳しいことを説明してくれるつもりなのだろうか。せっかく恋心を自覚したばかりだというのに、事態に押されてドキドキが薄れている自分に苦笑する。
手近な本をペラペラと捲っていると静かに扉が開いた。委員長の動作は基本的に静かだ。無駄がないという感じ。するりと入ってきた委員長は俺を目に止めると軽く微笑んだ。それに思わず見惚れかけて慌てて意識を引き戻す。見つめすぎると変に思われてしまう。

「ごめん、待たせたな」

そう言いながら俺の向かい側に腰を下ろす委員長に首を振って答える。

「昨日は何の話もできなくてごめんな」

『いえ。あの人は大丈夫でしたか』

「ああ。大きな怪我もなく、特に異常もない。未遂でよかった」

それを聞いて安心した。別れる時も気丈な様子を保っていたから過剰に心配はしていなかったけれど、それでも安心した。俺みたいにならなくて本当によかった。

「木南こそ大丈夫か?昨日来栖に無理矢理巻き込まれたんだろ」

『びっくりしましたけど大丈夫です』

そこで一拍置く。俺自身まだ昨日の出来事が整理出来ていない。だってあの傲慢なDomがまさかSubを助けるなんて思いもしなかった。

『あの、生徒会長があの人を助けたんですよね?』

「ああ、そうだ。あいつの情報網にひっかかってくれて助かった」

『情報網?』

「あいつの親衛隊だよ。校内で何かあればあいつに情報がいく。まあその問題の原因があいつらだってことも少なくないが」

驚きに目を見開く。あのグループはそういった約目も果たしていたのか。
驚く俺に委員長は苦笑した。

「木南はあいつらに迷惑しかかけられてなかったろうからな。……そもそもあいつらの中には来栖に助けられたやつら、助けを求めるやつらが入ってるんだ」

助けられた人に、助けを求める人たち?どういうことだと首を傾げる俺に委員長は説明を加えてくれる。

「来栖の親衛隊に入ればある意味あいつの庇護下に置かれるってことだ。あいつはあんなやつだけどDomとしてはトップクラス。そんなやつの庇護下にあるSubには格下は簡単に手を出せないってわけだ。昨日の被害者も親衛隊入りするだろうな……まあ他の半分は単なるファンなんだが」

トップクラスのDomの庇護。それを求めて親衛隊に……?そんなこと考えもしなかった。でも確かに親衛隊はファンクラブのようなものだ。だから何かあれば、いわばアイドルの立場の人にも問題が降りかかることになる。なるほど、だから下手に親衛隊のメンバーに手を出せば学園内で高い地位に立つ人が出てくることに繋がるのか。だとすれば積極的にSubがDomの親衛隊に入る理由がわかる。そうすれば自衛になるんだろう。

「そもそも木南に来栖が声をかけたのもある意味それの打診だったんだろう。やり方が最悪だったけどな。だからあいつは馬鹿なんだ」

その委員長の言葉は俺に衝撃を与えた。あの発言にまさかそんな意味があったなんて思いもしなかった。Domに関わるものを徹底的に避けてきた俺だから知らなかったのだろう仕組み。もし俺があそこで頷いていれば俺は今頃生徒会長の庇護下にあったということか。苦い思いがこみ上げてくる。そうすれば委員長に、風紀に迷惑をかけることはなかったのかもしれない。でもどうしてもSubがDomに守られなければならないという構図に反発してしまう自分がいた。
そんな感情が顔に出てしまっていたのだろう。俺を見て委員長は困ったように笑った。

「おい、変なこと考えるなよ?俺は木南があいつを跳ね返した時、最高だって思ったんだ。お前のことを尊敬こそすれ、迷惑だとか思ったりは絶対ない」

まるで俺の考えていたことを全部見通したかのような委員長に目を瞬かせる。そもそもお前は大人しくあいつに従うなんてタマじゃないだろ、と笑みを溢す委員長の言葉は本心なんだろう。その笑みが演技ではなくて、仕方ねぇなと俺を理解してくれているようで心臓が跳ねた。
俺はどんな顔をしていたのだろう。俺の表情をうかがった委員長が一瞬、ぐっと何かを堪えたかのように止まった。そして言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

「なあ、木南」

そこでガラッと扉の開く音がした。



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