ラブミーノイジー

せんりお

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ぐるぐるとあの会話が頭のなかを回っている。
あれから俺はずっと上の空だっただろう。せっかくの木島のライブもそんな調子で、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。三咲にもそんな俺の様子はバレてしまっているだろう。物言いたげな視線を感じる。それでも今は何も言わないでいてくれる気遣いがありがたい。
自室のベッドに倒れ込むように寝転がって、自分の気持ちを整理するために、深く息を吐いた。文化祭の余韻で校内はざわざわとした空気を纏っている。今はその喧噪を遠く感じたかった。

真貴さんの言葉はとても嬉しかった。声が出ないのは事実で、それが不便なのは更に当たり前の事実だ。それに対して「不便じゃない。まったく問題ない」なんて言われてしまえば、俺はきっと、もっと複雑な気持ちになっていただろう。不便なことはあるけれど、それでも大丈夫なんだと言ってくれる真貴さんが心底好きだと思った。

でもそれ以上に今、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だって俺は元々声が出ないわけじゃないんだ。俺は中学の時のあの出来事で声を失った。いや、失ったと思っているだけかもしれない。そこにあるけれど、出せないだけ。きっかけはあいつの「声を出すな」という命令。俺はその命令に今も縛られたままだ。あの時、叫ぼうと思ったって声は出なかった。それにもう声なんて必要ない。人と関わることに消極的になってしまった俺はそんなことをずっと思っていた。

でも今は違う。
三咲と、木島と笑いあいたい。馬鹿みたいに騒ぎたい。
真貴さんと話したい。いろんなことをもっと、もっと。好きだって声に出して言いたい。

それに、真貴さんを同情の目に晒している自分が許せなかった。真貴さんはそんなことは全く思っていないだろう。でも、俺がこのままなら真貴さんはずっと“声の出ないパートナーを持ったDom”なんだ。
今日聞いた会話がまた脳内で再生される。
そんなのダメだ。あの人に余計なものを背負わせたくない。だってこれは本来なら背負う必要のないものだ。

そんな思いに押されて、俺は使い方を忘れた声帯を震わせてみた。浅く吸い込んだ息を音に変換する。だが、空気が音に変わるその一歩手前でストッパーがかかったように息が詰まって、咳き込む。
なんで、なんで、なんで……!どうして駄目なんだ。自分の気持ちは変わったはずなのに。声なんかもう出なくてもいいと思っていた以前とは違う。なのになんで!
もう1度、無理やり息を吸い込んで、叫ぼうとしてみる。だけどやっぱり、俺の体は無意識に声を出すことにストップを強いた。喉からは無様にヒュッと空気が漏れただけだった。
どうして……どうやったら俺はあの日、あの命令から逃れられる……
進めたと思っていた過去から俺はもしかしたら一步も踏み出せていなかったのか。
無理矢理に使おうとした喉から血の味がした。頭が割れるように痛い。視界がふっと狭くなる。
どうやら自分はSub Dropに落ちかけているらしい。
ゆっくりと目を閉じる。今寝てしまえばきっと悪夢しかみない。
それでも今は何もかも手放して眠ってしまいたかった。


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