34 / 44
33
しおりを挟む
ぐるぐるとあの会話が頭のなかを回っている。
あれから俺はずっと上の空だっただろう。せっかくの木島のライブもそんな調子で、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。三咲にもそんな俺の様子はバレてしまっているだろう。物言いたげな視線を感じる。それでも今は何も言わないでいてくれる気遣いがありがたい。
自室のベッドに倒れ込むように寝転がって、自分の気持ちを整理するために、深く息を吐いた。文化祭の余韻で校内はざわざわとした空気を纏っている。今はその喧噪を遠く感じたかった。
真貴さんの言葉はとても嬉しかった。声が出ないのは事実で、それが不便なのは更に当たり前の事実だ。それに対して「不便じゃない。まったく問題ない」なんて言われてしまえば、俺はきっと、もっと複雑な気持ちになっていただろう。不便なことはあるけれど、それでも大丈夫なんだと言ってくれる真貴さんが心底好きだと思った。
でもそれ以上に今、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だって俺は元々声が出ないわけじゃないんだ。俺は中学の時のあの出来事で声を失った。いや、失ったと思っているだけかもしれない。そこにあるけれど、出せないだけ。きっかけはあいつの「声を出すな」という命令。俺はその命令に今も縛られたままだ。あの時、叫ぼうと思ったって声は出なかった。それにもう声なんて必要ない。人と関わることに消極的になってしまった俺はそんなことをずっと思っていた。
でも今は違う。
三咲と、木島と笑いあいたい。馬鹿みたいに騒ぎたい。
真貴さんと話したい。いろんなことをもっと、もっと。好きだって声に出して言いたい。
それに、真貴さんを同情の目に晒している自分が許せなかった。真貴さんはそんなことは全く思っていないだろう。でも、俺がこのままなら真貴さんはずっと“声の出ないパートナーを持ったDom”なんだ。
今日聞いた会話がまた脳内で再生される。
そんなのダメだ。あの人に余計なものを背負わせたくない。だってこれは本来なら背負う必要のないものだ。
そんな思いに押されて、俺は使い方を忘れた声帯を震わせてみた。浅く吸い込んだ息を音に変換する。だが、空気が音に変わるその一歩手前でストッパーがかかったように息が詰まって、咳き込む。
なんで、なんで、なんで……!どうして駄目なんだ。自分の気持ちは変わったはずなのに。声なんかもう出なくてもいいと思っていた以前とは違う。なのになんで!
もう1度、無理やり息を吸い込んで、叫ぼうとしてみる。だけどやっぱり、俺の体は無意識に声を出すことにストップを強いた。喉からは無様にヒュッと空気が漏れただけだった。
どうして……どうやったら俺はあの日、あの命令から逃れられる……
進めたと思っていた過去から俺はもしかしたら一步も踏み出せていなかったのか。
無理矢理に使おうとした喉から血の味がした。頭が割れるように痛い。視界がふっと狭くなる。
どうやら自分はSub Dropに落ちかけているらしい。
ゆっくりと目を閉じる。今寝てしまえばきっと悪夢しかみない。
それでも今は何もかも手放して眠ってしまいたかった。
あれから俺はずっと上の空だっただろう。せっかくの木島のライブもそんな調子で、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。三咲にもそんな俺の様子はバレてしまっているだろう。物言いたげな視線を感じる。それでも今は何も言わないでいてくれる気遣いがありがたい。
自室のベッドに倒れ込むように寝転がって、自分の気持ちを整理するために、深く息を吐いた。文化祭の余韻で校内はざわざわとした空気を纏っている。今はその喧噪を遠く感じたかった。
真貴さんの言葉はとても嬉しかった。声が出ないのは事実で、それが不便なのは更に当たり前の事実だ。それに対して「不便じゃない。まったく問題ない」なんて言われてしまえば、俺はきっと、もっと複雑な気持ちになっていただろう。不便なことはあるけれど、それでも大丈夫なんだと言ってくれる真貴さんが心底好きだと思った。
でもそれ以上に今、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だって俺は元々声が出ないわけじゃないんだ。俺は中学の時のあの出来事で声を失った。いや、失ったと思っているだけかもしれない。そこにあるけれど、出せないだけ。きっかけはあいつの「声を出すな」という命令。俺はその命令に今も縛られたままだ。あの時、叫ぼうと思ったって声は出なかった。それにもう声なんて必要ない。人と関わることに消極的になってしまった俺はそんなことをずっと思っていた。
でも今は違う。
三咲と、木島と笑いあいたい。馬鹿みたいに騒ぎたい。
真貴さんと話したい。いろんなことをもっと、もっと。好きだって声に出して言いたい。
それに、真貴さんを同情の目に晒している自分が許せなかった。真貴さんはそんなことは全く思っていないだろう。でも、俺がこのままなら真貴さんはずっと“声の出ないパートナーを持ったDom”なんだ。
今日聞いた会話がまた脳内で再生される。
そんなのダメだ。あの人に余計なものを背負わせたくない。だってこれは本来なら背負う必要のないものだ。
そんな思いに押されて、俺は使い方を忘れた声帯を震わせてみた。浅く吸い込んだ息を音に変換する。だが、空気が音に変わるその一歩手前でストッパーがかかったように息が詰まって、咳き込む。
なんで、なんで、なんで……!どうして駄目なんだ。自分の気持ちは変わったはずなのに。声なんかもう出なくてもいいと思っていた以前とは違う。なのになんで!
もう1度、無理やり息を吸い込んで、叫ぼうとしてみる。だけどやっぱり、俺の体は無意識に声を出すことにストップを強いた。喉からは無様にヒュッと空気が漏れただけだった。
どうして……どうやったら俺はあの日、あの命令から逃れられる……
進めたと思っていた過去から俺はもしかしたら一步も踏み出せていなかったのか。
無理矢理に使おうとした喉から血の味がした。頭が割れるように痛い。視界がふっと狭くなる。
どうやら自分はSub Dropに落ちかけているらしい。
ゆっくりと目を閉じる。今寝てしまえばきっと悪夢しかみない。
それでも今は何もかも手放して眠ってしまいたかった。
34
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
【完結】君の声しか聴こえない
二久アカミ
BL
伊山理央(24)はネット配信などを主にしている音楽配信コンポーザー。
引きこもりがちな理央だが、ある日、頼まれたライブにギタリストとして出演した後、トラブルに巻き込まれ、気づけばラブホテルで男と二人で眠っていた。
一緒にいた男は人気バンドAVのボーカル安達朋也。二人はとあることからその後も交流を持ち、お互いの音楽性と人間性、そしてDom/subという第二の性で惹かれ合い、次第に距離を詰めていく……。
引きこもりコンプレックス持ちで人に接するのが苦手な天才が、自分とは全く別の光のような存在とともに自分を認めていくBLです。
※2022年6月 Kindleに移行しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる