ラブミーノイジー

せんりお

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頬に冷たさを感じて目が覚めた。
ゆっくりと身を起こす。辺りを見回して、そこがいつもと変わりない自室であることを確認して長く息を吐いた。
頬を伝う水滴をこするようにして拭う。その手は自分が思っていたよりも冷たい。
バクバクと音を立てる心臓を宥めるように、もう1度深く呼吸して、ようやく夕焼けに染まる校舎からここに帰ってこられたのを感じた。

やっぱり夢を見た。あの日の再現。最近は見ないようになっていたのにと思うと、自嘲的な笑みが漏れた。
以前はよく見ていたこの悪夢。ただ今回は少し違った。俺は夢の中で声の限り叫んでいた。助けてと、やめろと何度も声が枯れるまで叫んだ。今までの夢は、命令されて声を出すことのない俺がいたのだ。この違いは俺の心情の違いにあるんだろう。
だが、結果は同じだった。必死に叫んでも助けは来ず、俺はあいつに嬲られた。
くそ、と口の形だけで呟く。
情けない。自分が心底惨めだ。

窓からの光が明るいので、不思議に思って時計を見ると、時刻はもう昼過ぎだった。Dropしかけて気絶するように意識を手放してから、今まで戻ってこれなかったらしい。
自分で目覚められたのはよかったが、どうにも思考が靄がかったようにぼんやりとしている。
だけどこのままここでこうしているわけにもいかず、シャワーを浴びて着替えると、少し意識がはっきりしたような気がする。とりあえず腹を満たすのにそのへんにあったパンを齧った。
ゆっくりとパンを飲み込みながら、ぼんやりと考える。
俺はどうしたらいいんだろう。どうしたら抜け出せる。

ふと、中学校に行ってみようかと思った。悪夢はいつもあの校舎だ。それならあえて現実に行ってみると、何か変わるかもしれない。


俺は学園を飛び出した。
俺が通っていた中学校はそこそこ遠い。電車を乗り継いで、たどり着いた頃には夕方だった。
あの日のような皮肉な綺麗な夕焼けだ。
ふらふらと校舎に入る。今日は休みの日だが、部活があるのだろう、校庭や体育館には人の気配があった。でも校内は静まり返っている。そのおかげで、すんなり校内に入れてしまう。
通っていた頃と変わらない廊下を何かに引き寄せられるように歩き、そして俺はあの教室の前に立った。
吹奏楽部の演奏が遠くから聞こえる。まるであの日の再現だ。
ゴクっとつばを飲み込んで、閉まっていた扉に手をかける。心臓がいやに静かだ。
意を決して扉を引き開ける。教室は今も使われていないのだろう。がらんと広い空間に、机が1つ、2つだけあった。
あぁ、ここだ。忘れるはずがない。何度も何度も悪夢の中で訪れた。
俺の、あいつの姿が見える。あいつの声が聞こえる。
咄嗟に蹲りそうになるのを堪えた。手が、足が震える。
震える手で耳を抑える。嫌だ、聞きたくない。
脳内で聞こえる声にそんなことをして効果があるはずがなく、下卑た、乱暴な声が響く。
やめろ……やめてくれ……!……助けて!!
無意識に叫ぼうとして喉がぐっと鳴った。
でも、結局声は出なかった。
だって、ここで助けてと言ったところで誰が来てくれるんだ。校内に人はほとんどいない。吹奏楽部は遠くで音を出しているから気づけないだろう。

あぁ、事態は何も変わらない。俺は何も変われない。

頭が真っ白になって、目の前は真っ暗になった。
何も見えない。何も聞こえない。
ただただ闇の中へ落ちていく。
深く深く深く。真っ暗な絶望の底へ。
どこまでも、孤独の中へ。



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