ラブミーノイジー

せんりお

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35 真貴side

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三咲が俺の部屋に駆け込んできたのは、夕食を終えてしばらくたった頃だった。
部屋のチャイムが慌ただしく鳴るのに驚いて、急いでドアを開けると息を切らした三咲がいた。

「委員長!木南が……!」

半泣きの三咲と、その口から出た灯李の名前に何があったのかと構える。三咲はパニックになっているようで、その先が出てこない。

「灯李はどこにいる?わかるか?」

三咲が場所を知っているならとりあえず向かおうと思いそう言うと、すぐさま三咲は走り出した。その後を追う。向かっているのはどうやら二人の部屋らしかった。すぐに部屋にはたどり着いたが、そのドアの前で三咲が立ち尽くす。その体が寒さではなく震えているのに、コトの深刻さを感じた。

「ここに灯李はいるんだな?」

三咲が頷く。今にも泣きそうだ。

「わかった。教えてくれてありがとうな」

「……木南を助けてあげてください。お願いします」

ポロッと一粒涙を落とす。その言葉から察せられる事態に自然と表情が険しくなる。

「ああ。……落ち着いたら連絡する。お前は結城のところに行ってろ」

唇をギュッと結んで、三咲が去っていく。その背中を見送って、俺はドアに向き直った。
1つ息を吸う。
そしてゆっくりとドアを開いた。見える範囲、共有スペースに灯李はいなかった。
となれば自室か。焦る気持ちを押さえつけて、それでも足早に室内を進む。灯李の自室のドアは細く開いていた。
また1つ深く息を吸って、俺はそのドアをそっと開いた。

目に飛び込んで来たのは、床に蹲るようにして座り込む灯李の姿。
慌てて駆け寄って抱き起こす。そんなことをすれば絶対に反応があるはずなのに、全くといっていいほど動きがない。顔を覗き込めば、いつもの意志の強い光を湛えた目が、真っ暗に淀んでいた。

「Dropか……」

自分の表情が歪むのがわかった。三咲が尋常じゃなく怯えていた理由はやはりこれだったか。
Sub Drop。Subが怯えたり、強い恐怖を感じたりした時に陥る精神状態だ。Domからの望まない強い命令や、アフターケアをされなかった時に陥ることも多い。
Dropについてはこの学園ではDomは必ず授業を受ける。その時に体験談として聞いた話が思い出される。Dropは絶望なのだと、寒い闇の中でただ孤独と向かい合うしかないのだと、そう聞いたことがある。だが俺はDomだ。自分の体験としてそれを知っているわけではない。ただ、良くないものだと知っていただけだ。
それが今、現実となって目の前にある。指先がひどく冷たい。いつからこの状態なんだ。
灯李は大丈夫なのか。俺はどうすべきなのか。

「……灯李」

大きな声で呼んでいいのかわからず、そっと声をかけるも反応はない。

「灯李、聞こえるか?……灯李!」

目が合わないことに冷や汗が滲む。頼む。頼むから聞こえていてくれ。
頬に手を添えてこちらを向かせた。強制的に目は合ったが、灯李は1つ瞬きをしただけだった。外からの刺激を認識していないのだうか。

「……灯李、戻ってこい」

俺の声を、姿を認識していないのだとしても、その音や刺激は届いているはずだ。だとすれば俺は呼びかけるだけだ。

「何があった?お前がDropになるようなことがあったんだろ?」

表情が見えるように灯李を横向きに抱き込んで、俺も床に座り込んだ。灯李の体は冷え切っていた。少しでも暖まるようにと、隙間を作らないようにぐっと引き寄せる。空いた手は髪や頬を撫でる。そして、そうしながら何度も名前を呼んだ。なんと声をかけていいかわからず、名前を呼ぶことしか出来ない。Dropの原因もわからないのだ。いや、それに俺が原因かもしれない。そんなやつが呼んだところで戻ってきてくれるかわからないが、それでも呼ぶしかなかった。
そうしていると、灯李の目から涙が溢れた。ポロポロと静かに落ちる水滴は止まらない。指で拭うのを諦めて、そこに口づけるとそれは塩辛かった。悲しい涙や、悔しい涙はしょっぱい味がする。そんなことを聞いたことがある。

「お前、今悲しいのか……」

音にならない灯李の感情を聞いた気がした。

「なぁ、教えてくれ。お前は今何を思ってる?……灯李、say。教えてくれ」





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