バースデーソング

せんりお

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俺がニコラが恋愛的に好きだと気づかなかった理由。それは俺の身勝手な自己保身だ。俺はすぐ前までセルジオが好きだった。そして今度はニコラが好きだと思う。それってすごく移り気みたいだ。しばらくものが食べられなくほどセルジオが好きだったのに、今はそうじゃなくて他の人が好き。そんな俺をニコラは本当に好いてくれるのか?マルコさんやセルジオはどう思う?さっきの女性は男なら誰でもいいというように声をかけていた。俺も彼女とそう変わらないんじゃないのか?
俺はただ逃げていただけだ。嫌われるのが怖くて自分の気持ちから目をそらした。

「…最低だ」

もう一度ぽつりと呟く。セルジオが不審げな声でそれに反応した。

「おい?突然どうしたんだよ」

セルジオを恐る恐る見ると、ん?と首を傾けた。

「…俺は嫌われるのが怖い」

「ん?お、おう」

唐突な俺の言葉に驚いた様子ながらそのまま話を聞いてくれるセルジオに俺はぽつぽつと話を続ける。

「だから逃げてたんだ。しかも無意識に」

「…おう」

「好きだって言ってくれてんのに俺は多分、心のどっかで信用してないんだ」

セルジオは無言になった。

「…俺、好きだって気持ちに応えちゃいけないんじゃ「お前は馬鹿か」

弱々しくぽつりと溢した最後の言葉をセルジオに強い調子で遮られた。驚いて見るとその表情は怒ったような呆れたようなどっちつかずのものだった。

「お前は誰だか知らないけどその料理人が好きなんだろ」

答えを言え、というようにこちらを見るセルジオに躊躇いがちに頷いた。

「だったらそんなことで迷うんじゃねぇよ。好きな人に嫌われたくないのなんか当たり前だろ?そんで、そのせいで不安になるのなんか当たり前なんだよ」

「でも」

「つい最近まで他のやつが好きだったのに今は違うから尻軽だと思われる、だぁ?馬鹿か。話聞いてたらお前そいつに告白までされてんだろ?そんなこと悩んでる暇あったら尻軽で嫌われる以上に好かれる要素作ってみろ馬鹿。そんなのどうだっていいよ、とか言わせてみろあほ」
 
怒涛にセルジオに言われて俺はたじたじになる。馬鹿とかあほとかひどい言われようだ。でも、その遠慮のない言い方に友情を感じてちょっと嬉しい俺はほんとにあほなのかもしれない。

「そんで?どうすんの!」

セルジオが迫ってくる。なんか完全に怒っている感じだ。イケメンの怒り顔とか大迫力…とかあほなことを考えていると「話聞け」とまた怒られた。

「告白、します」

「ほんとだな?」

なんかセルジオに怒られて、悩んでいたはずのことが吹き飛んでしまった。セルジオの言うような、好かれる要素っていうのは俺は自信がない。でも努力する余地はあるし努力してみる価値もあるだろう。だから正直な気持ちを伝えよう。待っていてくれるニコラにちゃんと言おう。

「うん。好きって言う」

決意を込めて言うとセルジオは腕を組んでふんぞり返って「よろしい」と頷いた。
そしてすぐに組んでいた腕をほどいて、俺の髪をくしゃくしゃとかき回した。

「うわっ何すんだよ!」

「嫌われるとかそんなはずないのに、お前はなんでそんなに自己評価低いのかなー。魅力的過ぎてやばいくらいなのに」

本気でわからなくて顔をしかめる。

「俺が魅力的とかあり得ない。ギターにはそこそこ自信があるけどそれ以外は何もない」

俺のその台詞にはぁーとため息をつきながらセルジオは尚も俺の髪をかきまわす。

「なんでだろうなー日本人だから?性格の問題かー?」

二人して首を傾げる。

「まあ謙虚なのもいいことだけどな」

セルジオが思い出したように酒に口をつけた。話し込んでいる間に泡はすっかり消えてしまった。

「にしても、だ。俺は嬉しいぞ」

「は、何が?」

「息子を嫁に出す気分だ」

セルジオが感慨深げにそう言う。

「なんかいろいろおかしいんだけど」
 
「細かいことはいいじゃねぇか。とりあえず祝杯だ。ビールもう一杯!」

大声でビールを頼むセルジオをじとっと見る。

「まだ告白が成功した訳じゃない」
 
「じゃあ壮行会だ!」
 
「…もうなんでもいいよ」

セルジオはかんぱーいと一人で酒をぐいぐい煽っている。俺もそれに習ってくいっとジョッキを傾けた。
セルジオに話してみてよかった。話さなければきっと俺はまた一人でどん底まで悩んでいた。やっぱりもつべきものは友情だな。…今のこいつには絶対言わないけど。絶対調子にのってめんどくさい。もうちょっとしてからなんか奢ってやろう。で、その時にお礼を言おう。

「なぁーその料理人って何歳?イケメン?禿げてる?お父さんに言ってごらん?」

…やっぱり奢るの止めようかな。



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