40 / 53
39
しおりを挟む
俺が何も言えずにその動きを呆然と見ていると、ニコラはおもむろにギターを構えた。
そして――
耳に届いたのはバースデーソング。誕生日おめでとう、と心地よい声で何度もメロディーに乗せて紡がれる。ろうそくの明かりで浮かび上がったニコラの表情はひどく柔らかくて…これでニコラに好かれてないなんて思えるやつがいたらおかしいと思うくらいに、その表情は優しくて、甘くて、どうしようもなく胸が痺れた。
「ハッピバースデートゥーユー」
優しくそう歌い終えたニコラに笑顔を向けられる。
「ほら、ろうそく吹いて?」
言われてふっと息をふく。1拍置いて真っ暗になった瞬間ニコラに軽く口を塞がれた。さっきまで俺にお祝いを紡いでいた唇と俺の唇が重なる。
それはすぐに離れていって、ニコラが席を立った気配がした。数瞬後に電気がつく。
明るくなった中を戻ってきたニコラにふわっと微笑まれて「おめでとう」と言われるともうダメだった。気づけば涙が頬を伝っていた。
「え、チハル?どうしたの」
ニコラが驚いて、目を丸くしている。
「いや、ちが」
涙を拭うもそれは止まらない。
「こら、擦っちゃだめ」
ごしごしと動かしていた手を押さえられて、同時に引き寄せられる。
「どうしたの」
「嬉しくて」
そう言ってみたけどニコラはもう俺が嬉しさだけで泣いたのではないことを察しているようで、抱き込まれた腕は緩まなかった。
「…俺、今日…ニコラにもう好きじゃないって言われるかと思っててそれで」
「ちょっ、えっ!?」
相当驚いたようすのニコラにばっとからだを離されて覗き込まれる。
「なんでそんなこと思ってたの!?」
「昼間来るなって言われたこととか…その間ルカさんと会ってたこととか…ルカさんの香水とか」
「ルカ!?」
俺の言葉に一瞬驚いた顔をしたニコラが見えたかと思うと次の瞬間息苦しいほどに抱き締められた。
「ニコラ?」
「ごめん、ごめんねチハル。俺が不安にさせてたのか」
「いや、ニコラのせいじゃない!俺が勝手に」
「俺のせいだ。ごめん説明するね」
ニコラの腕が緩まって見えなかったお互いの表情が見える。ニコラの表情はへにゃっと眉が下がっている。俺の顔はどんなだろう。
「ルカにはギターを教えてもらってたんだ。バースデーソングを贈りたくて。それでこの1週間は会えなかった。香水は教えてもらうとどうしても近くにいることになるからついたんだ。ごめん、言ってもよかったんだけどサプライズにしたくて柔軟剤って嘘までついた」
「ニコラ、ニコラ、もういいんだよ」
今度は俺からぎゅっと抱きついてニコラの言葉を止めた。
「俺、今すごく嬉しいから謝ってほしくなんてないよ」
そう言ってぽんぽんと背中を叩くとまたぎゅっと抱き締められた。
「んーでも俺のせいでチハルを不安にさせてたんだよ…今俺の行動思い返してみれば浮気男みたいだ…ほんとごめん」
「いいんだって」
「だって…辛い思いさせた」
「ニコラ」
背中に回していた手を離して、ニコラの頬に添えて顔を上げてもらう。
「もういいんだけどさ。ニコラがそれだと嫌だったら、ごめんって言うよりさ…好きって言ってほしい。不安になった分だけ言ってよ」
そう言うとニコラはぱちぱちと数回目をしばたかせた。
そして
「あーもう好きほんとに好きチハル可愛い」
「言った傍からかよ」
思わず笑うとニコラは俺の肩に額をつけてしまった。
「チハル好き。ここでその提案が出てくるところとかもうほんとに好き。好きすぎてどうしようほんとはずっと一緒にいたかった明日から昼間も一緒ね」
怒濤の好きコールにそろそろ痒くなってきた。まるで飼い主に甘える大型犬のようなニコラに笑ってしまう。
「わかった、わかったから。ケーキ食べようよ」
「んー」
渋々離れていくニコラ。こんなに言葉と態度で示されるともう不安になんてなっていられない。
「なぁ、なんで今日は昼間から呼び出したんだ?」
「んー?だって夜はマルコさんたちが来るでしょ?チハルを独り占め出来ないし、すると怒られそうだし」
「なるほど」
「マルコさんたちがチハルの誕生日祝うんだって張り切ってたよ」
「…幸せもんだね俺」
チハルが幸せなら何よりだよ、とニコラにちゅっとキスを落とされて恥ずかしさに身を捩る。さっきまでの空気はもうなくて、今はただただ甘いニコラが戻ってきた。
「このケーキ美味しい!ニコラが作ったのか?」
「そうだよ。美味しいならよかった」
フォークに乗せたケーキを差し出すとニコラが笑って食べてくれる。
来るまでは気分はどん底だったけど、今は最高。落差が激しくて目眩がしそうなほど幸せだ。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言って席を立ったニコラが手に包みを持って戻ってくる。
「はい。プレゼント」
「ありがとう!え、開けてもいい?」
聞くと微笑んで頷いたので、遠慮なく包みを開ける。出てきたのはピアスだった。シンプルな銀細工に紫の宝石がついている。
「2月の誕生日だよ」
「ってことはアメジスト?」
「うん」
つけてもいい?と聞かれて躊躇いもなく頷く。ニコラからのプレゼントだ。むしろつけてほしい。
つけ終わるとよく似合ってる、と満足そうにニコラが笑った。
「アメジストの意味って知ってる?」
「いや、知らないなー。ニコラは知ってるのか?」
「真実の愛を守り抜く、だよ」
ニコラの唇が囁きながら俺の唇に触れる。きっと今の俺の顔は真っ赤だ。
そして――
耳に届いたのはバースデーソング。誕生日おめでとう、と心地よい声で何度もメロディーに乗せて紡がれる。ろうそくの明かりで浮かび上がったニコラの表情はひどく柔らかくて…これでニコラに好かれてないなんて思えるやつがいたらおかしいと思うくらいに、その表情は優しくて、甘くて、どうしようもなく胸が痺れた。
「ハッピバースデートゥーユー」
優しくそう歌い終えたニコラに笑顔を向けられる。
「ほら、ろうそく吹いて?」
言われてふっと息をふく。1拍置いて真っ暗になった瞬間ニコラに軽く口を塞がれた。さっきまで俺にお祝いを紡いでいた唇と俺の唇が重なる。
それはすぐに離れていって、ニコラが席を立った気配がした。数瞬後に電気がつく。
明るくなった中を戻ってきたニコラにふわっと微笑まれて「おめでとう」と言われるともうダメだった。気づけば涙が頬を伝っていた。
「え、チハル?どうしたの」
ニコラが驚いて、目を丸くしている。
「いや、ちが」
涙を拭うもそれは止まらない。
「こら、擦っちゃだめ」
ごしごしと動かしていた手を押さえられて、同時に引き寄せられる。
「どうしたの」
「嬉しくて」
そう言ってみたけどニコラはもう俺が嬉しさだけで泣いたのではないことを察しているようで、抱き込まれた腕は緩まなかった。
「…俺、今日…ニコラにもう好きじゃないって言われるかと思っててそれで」
「ちょっ、えっ!?」
相当驚いたようすのニコラにばっとからだを離されて覗き込まれる。
「なんでそんなこと思ってたの!?」
「昼間来るなって言われたこととか…その間ルカさんと会ってたこととか…ルカさんの香水とか」
「ルカ!?」
俺の言葉に一瞬驚いた顔をしたニコラが見えたかと思うと次の瞬間息苦しいほどに抱き締められた。
「ニコラ?」
「ごめん、ごめんねチハル。俺が不安にさせてたのか」
「いや、ニコラのせいじゃない!俺が勝手に」
「俺のせいだ。ごめん説明するね」
ニコラの腕が緩まって見えなかったお互いの表情が見える。ニコラの表情はへにゃっと眉が下がっている。俺の顔はどんなだろう。
「ルカにはギターを教えてもらってたんだ。バースデーソングを贈りたくて。それでこの1週間は会えなかった。香水は教えてもらうとどうしても近くにいることになるからついたんだ。ごめん、言ってもよかったんだけどサプライズにしたくて柔軟剤って嘘までついた」
「ニコラ、ニコラ、もういいんだよ」
今度は俺からぎゅっと抱きついてニコラの言葉を止めた。
「俺、今すごく嬉しいから謝ってほしくなんてないよ」
そう言ってぽんぽんと背中を叩くとまたぎゅっと抱き締められた。
「んーでも俺のせいでチハルを不安にさせてたんだよ…今俺の行動思い返してみれば浮気男みたいだ…ほんとごめん」
「いいんだって」
「だって…辛い思いさせた」
「ニコラ」
背中に回していた手を離して、ニコラの頬に添えて顔を上げてもらう。
「もういいんだけどさ。ニコラがそれだと嫌だったら、ごめんって言うよりさ…好きって言ってほしい。不安になった分だけ言ってよ」
そう言うとニコラはぱちぱちと数回目をしばたかせた。
そして
「あーもう好きほんとに好きチハル可愛い」
「言った傍からかよ」
思わず笑うとニコラは俺の肩に額をつけてしまった。
「チハル好き。ここでその提案が出てくるところとかもうほんとに好き。好きすぎてどうしようほんとはずっと一緒にいたかった明日から昼間も一緒ね」
怒濤の好きコールにそろそろ痒くなってきた。まるで飼い主に甘える大型犬のようなニコラに笑ってしまう。
「わかった、わかったから。ケーキ食べようよ」
「んー」
渋々離れていくニコラ。こんなに言葉と態度で示されるともう不安になんてなっていられない。
「なぁ、なんで今日は昼間から呼び出したんだ?」
「んー?だって夜はマルコさんたちが来るでしょ?チハルを独り占め出来ないし、すると怒られそうだし」
「なるほど」
「マルコさんたちがチハルの誕生日祝うんだって張り切ってたよ」
「…幸せもんだね俺」
チハルが幸せなら何よりだよ、とニコラにちゅっとキスを落とされて恥ずかしさに身を捩る。さっきまでの空気はもうなくて、今はただただ甘いニコラが戻ってきた。
「このケーキ美味しい!ニコラが作ったのか?」
「そうだよ。美味しいならよかった」
フォークに乗せたケーキを差し出すとニコラが笑って食べてくれる。
来るまでは気分はどん底だったけど、今は最高。落差が激しくて目眩がしそうなほど幸せだ。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言って席を立ったニコラが手に包みを持って戻ってくる。
「はい。プレゼント」
「ありがとう!え、開けてもいい?」
聞くと微笑んで頷いたので、遠慮なく包みを開ける。出てきたのはピアスだった。シンプルな銀細工に紫の宝石がついている。
「2月の誕生日だよ」
「ってことはアメジスト?」
「うん」
つけてもいい?と聞かれて躊躇いもなく頷く。ニコラからのプレゼントだ。むしろつけてほしい。
つけ終わるとよく似合ってる、と満足そうにニコラが笑った。
「アメジストの意味って知ってる?」
「いや、知らないなー。ニコラは知ってるのか?」
「真実の愛を守り抜く、だよ」
ニコラの唇が囁きながら俺の唇に触れる。きっと今の俺の顔は真っ赤だ。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる