バースデーソング

せんりお

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空気を大きく揺るがす歓声。俺の相方、セルジオが隣で大きく手を振っている横で、俺は感謝の気持ちを込めて深くお辞儀をした。




「お疲れさまーー!!かんぱーい!」

セルジオの音頭でカツンとグラスを合わせる。今日は俺とセルジオのバンド〈lamp flicker〉の全国ツアーが終わった打ち上げだ。全国を回るのは何回目かだけど、今回は特にどの会場も超満員で大盛況を納めた。
スタッフたちも皆集まって大騒ぎで呑み交わす中、セルジオが労うようにぽんぽんと俺の肩を叩いてきた。何気ない友人間の仕草。それに俺はどきっとして身じろぎしかけて、こらえる。

「いやー、今回も楽しかったなー。特に最後は凄かった」

「そうだな。お前興奮しすぎてギター壊してたもんなー。激しく弾きすぎて弦切ったの」

「あ、それ言うなよー」

ライブの話をして笑い合う。


「お前だってあの時、ぴょんぴょん跳び跳ねすぎて落ちかけてたろ」

「落ちなかったんだからいいだろー!」

セルジオに俺の失敗談を持ち出されて少し赤面する。

「ばーか、落ちたら怪我するだろ。心配してんの」

そんな言葉とともに頭をぽんぽんと叩かれた。今度こそ俺はこらえきれず少し身じろぎしてしまった。内心の動揺を必死に静める。
こいつはスキンシップが多いのだ。肩をくんだり、こうして頭を触ってきたり。その度に俺の心は跳ねてしまう。

「子ども扱い止めろってば!」

俺はセルジオの手をしっしっと払うふりをした。
俺のこの対応もいつものことで、セルジオは意にも介さずにこにこ笑って余計に髪をくしゃくしゃっと撫でる。
こういう時、どうするのが普通なのだろう。俺からもじゃれつくといいのだろうか。いや、そんなことは出来ない。そんなことしたら俺の心臓がドキドキし過ぎて爆発する。傍にいるだけで、ただでさえ固まってしまうのに。

「セルジオー、チハルー、ちょっと話いい?」

名前を呼ばれたことでやっとセルジオが離れていく。俺はそれにほっと息をついた。

俺達を呼んだのは所属する事務所の所長だった。俺達の所属事務所は小さいところだけど、この所長がいい人ですごく可愛がってくれている。バリバリのキャリアウーマンのうちの美人所長は俺達のデビューから今までずっとお世話してくれている恩人だ。

「二人とも、いい知らせよ。なんと1年後に世界ツアーが決まったの!」

突然のことに咄嗟に声が出なかった。反応は周りの方が早く、うおーっ!という歓声が沸き上がる。セルジオも同じ様に呆然としていたが、やがて破顔して両手を突き上げた。

「嘘だろ!マジかよ!聞いたかチハル!」

俺もじわじわと理解が追い付いてきて喜びが込み上げてきた。

「聞いたよ!すげぇよセルジオ!世界だって!」

喜びを噛み締め合う俺たちに所長が不敵な笑みを浮かべた。  

「予定通りアルバムの収録をして、それを持って世界を回るわよ。これから忙しくなるから覚悟しときなさい」

「本望っす。臨むところだ!」

セルジオが叫んでいる。俺も同じ思いだった。
この知らせによって打ち上げから一気に祝賀会へと雰囲気を変えて、皆で騒ぎながら時間は進んでいった。




夕方から始まったその会は日付が変わる頃にやっとお開きとなった。でろでろに酔っ払った人を動ける人が引きずっていくのをセルジオと並んで笑いながら見送った。
大方人が捌けてから、セルジオと家路につく。お互い方向が同じなので自然と一緒に帰ることになった。二人とも酒はそこそこ強いので足取りは確かだ。
今晩は晴れていて満月がよく見える。月光の中セルジオがしみじみと、というように口を開いた。

「とうとう俺たちも世界か…やっとここまで来たな」

「うん……セルジオ、ありがとな。」

唐突にそう言った俺にセルジオがきょとんとした表情になった。

「あ、いや、なんか…お前にここまで引っ張ってきてもらったなと思って」

「そんなのこっちの台詞だぜ、チハル。お前の声とギターのおかげだよ。」

セルジオが穏やかな表情でそう言うから、俺の心臓は変なリズムで脈を刻み始めてしまう。ちらっと横目で見たセルジオは、金色の髪が、暗闇で発光しているみたいにきらきらとしていて綺麗だった。

「あのさ、明後日空いてる?俺、お前に言っておかないといけないことがある。」

急にこっちを向いてそんなことをセルジオは言った。思いの外真剣な表情に驚く。

「あ、空いてる。」

「そっか。よかった。場所はまた連絡するよ」

「うん。わかった」

セルジオは言い終わってまた前を向いてしまった。
何を言われるのだろう。
明後日が少し怖いような気がした。

    
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