2 / 53
1
しおりを挟む
空気を大きく揺るがす歓声。俺の相方、セルジオが隣で大きく手を振っている横で、俺は感謝の気持ちを込めて深くお辞儀をした。
「お疲れさまーー!!かんぱーい!」
セルジオの音頭でカツンとグラスを合わせる。今日は俺とセルジオのバンド〈lamp flicker〉の全国ツアーが終わった打ち上げだ。全国を回るのは何回目かだけど、今回は特にどの会場も超満員で大盛況を納めた。
スタッフたちも皆集まって大騒ぎで呑み交わす中、セルジオが労うようにぽんぽんと俺の肩を叩いてきた。何気ない友人間の仕草。それに俺はどきっとして身じろぎしかけて、こらえる。
「いやー、今回も楽しかったなー。特に最後は凄かった」
「そうだな。お前興奮しすぎてギター壊してたもんなー。激しく弾きすぎて弦切ったの」
「あ、それ言うなよー」
ライブの話をして笑い合う。
「お前だってあの時、ぴょんぴょん跳び跳ねすぎて落ちかけてたろ」
「落ちなかったんだからいいだろー!」
セルジオに俺の失敗談を持ち出されて少し赤面する。
「ばーか、落ちたら怪我するだろ。心配してんの」
そんな言葉とともに頭をぽんぽんと叩かれた。今度こそ俺はこらえきれず少し身じろぎしてしまった。内心の動揺を必死に静める。
こいつはスキンシップが多いのだ。肩をくんだり、こうして頭を触ってきたり。その度に俺の心は跳ねてしまう。
「子ども扱い止めろってば!」
俺はセルジオの手をしっしっと払うふりをした。
俺のこの対応もいつものことで、セルジオは意にも介さずにこにこ笑って余計に髪をくしゃくしゃっと撫でる。
こういう時、どうするのが普通なのだろう。俺からもじゃれつくといいのだろうか。いや、そんなことは出来ない。そんなことしたら俺の心臓がドキドキし過ぎて爆発する。傍にいるだけで、ただでさえ固まってしまうのに。
「セルジオー、チハルー、ちょっと話いい?」
名前を呼ばれたことでやっとセルジオが離れていく。俺はそれにほっと息をついた。
俺達を呼んだのは所属する事務所の所長だった。俺達の所属事務所は小さいところだけど、この所長がいい人ですごく可愛がってくれている。バリバリのキャリアウーマンのうちの美人所長は俺達のデビューから今までずっとお世話してくれている恩人だ。
「二人とも、いい知らせよ。なんと1年後に世界ツアーが決まったの!」
突然のことに咄嗟に声が出なかった。反応は周りの方が早く、うおーっ!という歓声が沸き上がる。セルジオも同じ様に呆然としていたが、やがて破顔して両手を突き上げた。
「嘘だろ!マジかよ!聞いたかチハル!」
俺もじわじわと理解が追い付いてきて喜びが込み上げてきた。
「聞いたよ!すげぇよセルジオ!世界だって!」
喜びを噛み締め合う俺たちに所長が不敵な笑みを浮かべた。
「予定通りアルバムの収録をして、それを持って世界を回るわよ。これから忙しくなるから覚悟しときなさい」
「本望っす。臨むところだ!」
セルジオが叫んでいる。俺も同じ思いだった。
この知らせによって打ち上げから一気に祝賀会へと雰囲気を変えて、皆で騒ぎながら時間は進んでいった。
夕方から始まったその会は日付が変わる頃にやっとお開きとなった。でろでろに酔っ払った人を動ける人が引きずっていくのをセルジオと並んで笑いながら見送った。
大方人が捌けてから、セルジオと家路につく。お互い方向が同じなので自然と一緒に帰ることになった。二人とも酒はそこそこ強いので足取りは確かだ。
今晩は晴れていて満月がよく見える。月光の中セルジオがしみじみと、というように口を開いた。
「とうとう俺たちも世界か…やっとここまで来たな」
「うん……セルジオ、ありがとな。」
唐突にそう言った俺にセルジオがきょとんとした表情になった。
「あ、いや、なんか…お前にここまで引っ張ってきてもらったなと思って」
「そんなのこっちの台詞だぜ、チハル。お前の声とギターのおかげだよ。」
セルジオが穏やかな表情でそう言うから、俺の心臓は変なリズムで脈を刻み始めてしまう。ちらっと横目で見たセルジオは、金色の髪が、暗闇で発光しているみたいにきらきらとしていて綺麗だった。
「あのさ、明後日空いてる?俺、お前に言っておかないといけないことがある。」
急にこっちを向いてそんなことをセルジオは言った。思いの外真剣な表情に驚く。
「あ、空いてる。」
「そっか。よかった。場所はまた連絡するよ」
「うん。わかった」
セルジオは言い終わってまた前を向いてしまった。
何を言われるのだろう。
明後日が少し怖いような気がした。
「お疲れさまーー!!かんぱーい!」
セルジオの音頭でカツンとグラスを合わせる。今日は俺とセルジオのバンド〈lamp flicker〉の全国ツアーが終わった打ち上げだ。全国を回るのは何回目かだけど、今回は特にどの会場も超満員で大盛況を納めた。
スタッフたちも皆集まって大騒ぎで呑み交わす中、セルジオが労うようにぽんぽんと俺の肩を叩いてきた。何気ない友人間の仕草。それに俺はどきっとして身じろぎしかけて、こらえる。
「いやー、今回も楽しかったなー。特に最後は凄かった」
「そうだな。お前興奮しすぎてギター壊してたもんなー。激しく弾きすぎて弦切ったの」
「あ、それ言うなよー」
ライブの話をして笑い合う。
「お前だってあの時、ぴょんぴょん跳び跳ねすぎて落ちかけてたろ」
「落ちなかったんだからいいだろー!」
セルジオに俺の失敗談を持ち出されて少し赤面する。
「ばーか、落ちたら怪我するだろ。心配してんの」
そんな言葉とともに頭をぽんぽんと叩かれた。今度こそ俺はこらえきれず少し身じろぎしてしまった。内心の動揺を必死に静める。
こいつはスキンシップが多いのだ。肩をくんだり、こうして頭を触ってきたり。その度に俺の心は跳ねてしまう。
「子ども扱い止めろってば!」
俺はセルジオの手をしっしっと払うふりをした。
俺のこの対応もいつものことで、セルジオは意にも介さずにこにこ笑って余計に髪をくしゃくしゃっと撫でる。
こういう時、どうするのが普通なのだろう。俺からもじゃれつくといいのだろうか。いや、そんなことは出来ない。そんなことしたら俺の心臓がドキドキし過ぎて爆発する。傍にいるだけで、ただでさえ固まってしまうのに。
「セルジオー、チハルー、ちょっと話いい?」
名前を呼ばれたことでやっとセルジオが離れていく。俺はそれにほっと息をついた。
俺達を呼んだのは所属する事務所の所長だった。俺達の所属事務所は小さいところだけど、この所長がいい人ですごく可愛がってくれている。バリバリのキャリアウーマンのうちの美人所長は俺達のデビューから今までずっとお世話してくれている恩人だ。
「二人とも、いい知らせよ。なんと1年後に世界ツアーが決まったの!」
突然のことに咄嗟に声が出なかった。反応は周りの方が早く、うおーっ!という歓声が沸き上がる。セルジオも同じ様に呆然としていたが、やがて破顔して両手を突き上げた。
「嘘だろ!マジかよ!聞いたかチハル!」
俺もじわじわと理解が追い付いてきて喜びが込み上げてきた。
「聞いたよ!すげぇよセルジオ!世界だって!」
喜びを噛み締め合う俺たちに所長が不敵な笑みを浮かべた。
「予定通りアルバムの収録をして、それを持って世界を回るわよ。これから忙しくなるから覚悟しときなさい」
「本望っす。臨むところだ!」
セルジオが叫んでいる。俺も同じ思いだった。
この知らせによって打ち上げから一気に祝賀会へと雰囲気を変えて、皆で騒ぎながら時間は進んでいった。
夕方から始まったその会は日付が変わる頃にやっとお開きとなった。でろでろに酔っ払った人を動ける人が引きずっていくのをセルジオと並んで笑いながら見送った。
大方人が捌けてから、セルジオと家路につく。お互い方向が同じなので自然と一緒に帰ることになった。二人とも酒はそこそこ強いので足取りは確かだ。
今晩は晴れていて満月がよく見える。月光の中セルジオがしみじみと、というように口を開いた。
「とうとう俺たちも世界か…やっとここまで来たな」
「うん……セルジオ、ありがとな。」
唐突にそう言った俺にセルジオがきょとんとした表情になった。
「あ、いや、なんか…お前にここまで引っ張ってきてもらったなと思って」
「そんなのこっちの台詞だぜ、チハル。お前の声とギターのおかげだよ。」
セルジオが穏やかな表情でそう言うから、俺の心臓は変なリズムで脈を刻み始めてしまう。ちらっと横目で見たセルジオは、金色の髪が、暗闇で発光しているみたいにきらきらとしていて綺麗だった。
「あのさ、明後日空いてる?俺、お前に言っておかないといけないことがある。」
急にこっちを向いてそんなことをセルジオは言った。思いの外真剣な表情に驚く。
「あ、空いてる。」
「そっか。よかった。場所はまた連絡するよ」
「うん。わかった」
セルジオは言い終わってまた前を向いてしまった。
何を言われるのだろう。
明後日が少し怖いような気がした。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる