バースデーソング

せんりお

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人形だったピノキオが魔法で命を与えられて動き出したように、人形のようだった俺もその日セルジオに命を与えられて息を吹き返した。
無気力にこなすだけだったバイトにも身が入り、バイト先の人たちに可愛がられるようになった。でもそんなこと当時の俺にはどうでもよくて、俺はセルジオと過ごす時間が何よりも大切だった。

出会ってしばらくしてから、セルジオに俺の全てを話した。それを聞いた彼は持ち前の明るさと気遣いで俺を労り、甘やかしてくれた。
そんな彼と2人でする音楽は楽しくて、俺はだんだんと元の俺に戻っていった。

時々ストリートでギターを弾いて、歌を歌っていた俺たちはある日スカウトされることとなった。
これがきっかけでデビューしたのが今の俺達のバンド〈lamp flicker〉だ。ランプフリッカー、この名前はセルジオがつけた。
当時、俺は反対したのだ。lampflickerって意味は何なんだ、と。ロック系バンドの名前っぽい名前じゃないし、イタリアでやるのになんで英語なんだよと言うとセルジオは響きがいいからと答えた。それにlampflickerがバンド名だって世間に浸透させれば意味なんて結局どうでもいいし、英語なのはそのうち世界に進出するからさ、と自信たっぷりに笑うセルジオに俺は降参したのだ。
セルジオと俺のWギター&ボーカルは評価してくれる人もいて、今ではそこそこの売れっ子となった。



次に悪い方向のこと。それは俺が……セルジオを好きになってしまったこと。恋愛的な意味で、だ。
でも考えてみてほしい。どん底に最悪な精神状態から救ってくれて、甘やかしてくれて、バンドを一緒にやって、それがすごく楽しくて、金髪碧眼の超イケメンで、しかもいつも傍にいる。そんなやつに落ちない人がいるだろうか。
俺は見事にセルジオに落ちた。18歳でデビューして今では23歳。いつ好きになったのかもわからない。ただ気づいたら好きだった。

最初は俺はおかしくなったのかと思った。男のくせに男を好きで、しかもそれは俺にとっての恩人で、親友で、いつも助けてくれる人。
俺はしばらく悶々と悩んだ。そして……行動に出た。無気力状態から大方元に戻っていたのがよくなかった。元々は行動派の俺。まずはそういう人、つまりゲイの方を探して相談した。次に、これは今思い返すとほんとにどうかと思うが、女だけでなく男とも、つまりはヤることを試みた。 
結果。わかったのは世間には割りとそういう人がいて、イタリアは割りとそういうのに寛大で、そして俺はセルジオが好きなんだとはっきりと認識したこと。出来ないこともなかった。でもなんとなく気持ち悪くて、セルジオ以外無理だということが結論づけられてしまった。同い年の男に依存するなんて、と自分を責めたがこればっかりはどうしようもなかった。俺は普通に女の子が好きだったのに。今まで好きになったことがあるのは皆女の子だった。
でも今の俺はセルジオが恋愛的な意味で好きで、セルジオだけしか恋愛的な意味で好きじゃない。

開き直って自分の気持ちを自覚してからは毎日セルジオの傍にいれることは幸せだった。だが同時にそれは苦しいことでもあった。
俺は絶対に俺の気持ちを告白しないと決めたのだ。セルジオと一緒にいられる時間をなくしたくなかった。バンドでも日常でも、セルジオの隣を誰かに譲りたくはなかった。
だがセルジオは当然だがモテる。あいつは普通に女の子が好きで、俺は今まで何人か彼女を見てきた。どの子もふわふわした可愛い子達で、俺はそれを見るたびに胸が潰れるほどの痛みを味わった。俺はセルジオが好きだけど、あいつはふわふわした女の子が好きで、そして俺は絶対にそうはなれない。何回か彼女を紹介されることもあって、その度に俺は必死に笑顔を作って「へぇ!よかったな!仲良くやれよ!」と言わなくちゃならなくて、それはとんでもなくしんどいことだった。でもセルジオが幸せならそれでいい、とそう思うことで自分の醜い気持ちと何回も必死に折り合いをつけた。あいつの幸せを願う気持ちは嘘じゃない。でもセルジオに触れるたび、触れられるたびに心が跳ねるのを止められない。……少しの可能性を期待するのを止められない。
あと何回これを繰り返すのだろう。馬鹿な俺は、セルジオを諦めて他のやつを好きになることもできなくて、馬鹿正直に毎回心臓から血を流すのだ。











セルジオと別れてから、とりとめもなく散らしていた思考からふっと我に帰る。
しばらくぶりに自室のベッドに横たわっていた俺はそっと身を起こした。
良いことも思い出したけど、嫌なことも思い出してしまった。
開けっぱなしの窓に近寄ってカーテンを閉める。一瞬、冷たく輝く月が見えた。
…セルジオは明後日何を話すつもりなのだろう。
その予感がきっと俺に昔のことを思い出させた。
あーあ、ともう一度ベッドに向かって飛び込む。今から悩んでも仕方がない。日常ってものはなるようにしかならない。そう思考に終止符を打って、俺は眠りに飲み込まれた。

    
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