5 / 53
4
しおりを挟む
ひたすら家事することに費やした1日の休みを経て、今日がセルジオと約束した日だ。
セルジオから伝えられていた場所は日本料理のレストランだ。俺に気を使って日本料理なのだろうか。いつもそんなこと気にしないのに。
時間は夕方からということだったから夕食を兼ねて、というところだろう。
ただ、そこそこいいレストランなのが気になった。
レストランに着くと、店の前でセルジオが待っていた。
「ごめん待たせた」
「いや、大丈夫。なんならちょっと早いぐらいだろ。」
俺が早すぎただけ、と笑うセルジオに胸がきゅっと苦しくなった。それを隠して、そっかと俺も笑って、セルジオの後に続いて店に入った。
店内は日本料理らしく和な内装で落ち着く雰囲気だ。
個室を予約していたのか店の奥に進んでいく。ふすまっぽく作られたドアの1つを迷わず開けたセルジオに続いて部屋に入ると、そこには女性が1人座っていた。今度は嫌な予感に胸が絞めつけられた。
「こんばんは」と笑顔で挨拶してくる女性に挨拶を返してその向かい側に腰をおろした。セルジオは、女性の隣に腰をおろした。俺の向かい側だ。そのことにまた胸が痛んだ。
「あー、チハル、この女性は俺の彼女」
「初めまして。アメリア・ベネッリです」
セルジオの紹介を受けて、やや緊張したように女性が名乗る。緩くまいた茶色い髪がきれいで、服装や顔立ちから清楚な雰囲気を感じる。今までのセルジオの彼女とは少し感じが違った。
彼女…か。
そうだろうとは思っていたけどやっぱりか。
でも、大丈夫。彼女なんか今まで何回も見てきただろ。もう慣れっこだろ。
そう自分に言い聞かせる。
でも今日は必要以上に胸がざわめいていた。
何か、悪い予感――
「それでチハルに報告したいことがあって」
そこで一旦言葉を切ったセルジオは彼女同様少し緊張しているようだった。
――ここまでくれば俺にも予想がつく。もう気づかないふりは出来ない。この予想が正しければ俺はとてつもない衝撃をくらうだろう。心の中でその衝撃を受け止める防壁を作ろうと俺は内心で必死になった。
セルジオの口が開く。
「俺、彼女と結婚しようと思ってるんだ」
予想通りの爆弾だった。
防壁を作ったはずなのに、馬鹿な俺の壁は脆くて一瞬で崩れ去って、とんでもない痛みをもたらした。頭がじんと痺れる。
「1年くらいずっと付き合ってて、この間のライブの前にプロポーズしたんだ。それでチハルに一番に知ってもらいたいと思ってさ。それに今は大事な時期だからチハルの意見も聞きたくて」
1年も、か。俺は何も見えてなかったんだと気づく。いや、見ないようにしていただけだろう。自分に都合がいいように。練習終わりにそそくさと、嬉しそうに帰る彼を。身につけた新しいアクセサリーを大事そうに扱う彼も。視界に入っていないふりをして、必死に自分に嘘をついていた。
何も言わない俺にセルジオと彼女が伺うような表情を向けてくる。
馬鹿、俺。笑え、笑うんだ。祝福しろ。
「いや、びっくりしたよ!そっかーお前も、もう結婚かー。俺の意見聞きたいって言ったけど俺は時期なんか関係ないと思う。おめでとう!幸せになれよ!」
俺の精一杯の笑顔はひきつっていないだろうか。
必死に絞り出した俺の言葉に2人は顔を見合わせて幸せそうに笑う。
俺はその一挙一動に瀕死になるほどダメージをくらう。
「ありがとな、チハル!」
「チハルさんありがとう!」
当然だろ、と返す俺。心にも思ってないくせに、と自分が嫌になる。
「実はさ、この店を選んだのはアメリアなんだよ。チハルさんに喜んでもらいたいからって」
ちょっと言わないでよ、とセルジオを小突く彼女。
お願い、ちょっと待って。俺に 回復する時間をちょうだい。もう息が苦しい。
「そうなんだ?ありがとう」
「いえ、そんな。いつもジオからチハルさんのことを聞いていてずっと会ってみたかったんです!」
「えー、セルジオ何て言ったんだよ!ってかジオって呼ばれてんのな」
「あ、愛称なんです」
「おいアメリア、人前で止めろよ。恥ずかしいだろ」
「いいじゃん、ラブラブそうで!なあ、ジオ」
「その呼び方はアメリア以外禁止なんですー」
「けっ、のろけやがって」
俺の顔は大丈夫?胸の痛みで歪んでない?ちゃんと喋れてる?もう苦しくて、息が出来ないよ。
「っていうか、結婚式とかいつすんの?」
「なれ初めは?教えろよー」
へたれな俺は2人を傷つけたくなくて必死に会話を続ける。自然なものにしようとすればするほど俺の心にぐさぐさと刺さる話題にしか持っていけなくて、自分で自分を刺してる気分だ。
期待してた訳じゃない。セルジオが俺と、なんてそんなことあるわけがない。それでも今はただ苦しい。
それに少し会話をしただけで彼女はとてもいい人だとわかるから。セルジオとすごく…お似合いだ。俺がそう思えてしまうほどに。
でもちょっと時間がほしい。絶対にいつか心からおめでとうって言うから。言えるようにするから、今だけは偽りの祝福で許して。
セルジオから伝えられていた場所は日本料理のレストランだ。俺に気を使って日本料理なのだろうか。いつもそんなこと気にしないのに。
時間は夕方からということだったから夕食を兼ねて、というところだろう。
ただ、そこそこいいレストランなのが気になった。
レストランに着くと、店の前でセルジオが待っていた。
「ごめん待たせた」
「いや、大丈夫。なんならちょっと早いぐらいだろ。」
俺が早すぎただけ、と笑うセルジオに胸がきゅっと苦しくなった。それを隠して、そっかと俺も笑って、セルジオの後に続いて店に入った。
店内は日本料理らしく和な内装で落ち着く雰囲気だ。
個室を予約していたのか店の奥に進んでいく。ふすまっぽく作られたドアの1つを迷わず開けたセルジオに続いて部屋に入ると、そこには女性が1人座っていた。今度は嫌な予感に胸が絞めつけられた。
「こんばんは」と笑顔で挨拶してくる女性に挨拶を返してその向かい側に腰をおろした。セルジオは、女性の隣に腰をおろした。俺の向かい側だ。そのことにまた胸が痛んだ。
「あー、チハル、この女性は俺の彼女」
「初めまして。アメリア・ベネッリです」
セルジオの紹介を受けて、やや緊張したように女性が名乗る。緩くまいた茶色い髪がきれいで、服装や顔立ちから清楚な雰囲気を感じる。今までのセルジオの彼女とは少し感じが違った。
彼女…か。
そうだろうとは思っていたけどやっぱりか。
でも、大丈夫。彼女なんか今まで何回も見てきただろ。もう慣れっこだろ。
そう自分に言い聞かせる。
でも今日は必要以上に胸がざわめいていた。
何か、悪い予感――
「それでチハルに報告したいことがあって」
そこで一旦言葉を切ったセルジオは彼女同様少し緊張しているようだった。
――ここまでくれば俺にも予想がつく。もう気づかないふりは出来ない。この予想が正しければ俺はとてつもない衝撃をくらうだろう。心の中でその衝撃を受け止める防壁を作ろうと俺は内心で必死になった。
セルジオの口が開く。
「俺、彼女と結婚しようと思ってるんだ」
予想通りの爆弾だった。
防壁を作ったはずなのに、馬鹿な俺の壁は脆くて一瞬で崩れ去って、とんでもない痛みをもたらした。頭がじんと痺れる。
「1年くらいずっと付き合ってて、この間のライブの前にプロポーズしたんだ。それでチハルに一番に知ってもらいたいと思ってさ。それに今は大事な時期だからチハルの意見も聞きたくて」
1年も、か。俺は何も見えてなかったんだと気づく。いや、見ないようにしていただけだろう。自分に都合がいいように。練習終わりにそそくさと、嬉しそうに帰る彼を。身につけた新しいアクセサリーを大事そうに扱う彼も。視界に入っていないふりをして、必死に自分に嘘をついていた。
何も言わない俺にセルジオと彼女が伺うような表情を向けてくる。
馬鹿、俺。笑え、笑うんだ。祝福しろ。
「いや、びっくりしたよ!そっかーお前も、もう結婚かー。俺の意見聞きたいって言ったけど俺は時期なんか関係ないと思う。おめでとう!幸せになれよ!」
俺の精一杯の笑顔はひきつっていないだろうか。
必死に絞り出した俺の言葉に2人は顔を見合わせて幸せそうに笑う。
俺はその一挙一動に瀕死になるほどダメージをくらう。
「ありがとな、チハル!」
「チハルさんありがとう!」
当然だろ、と返す俺。心にも思ってないくせに、と自分が嫌になる。
「実はさ、この店を選んだのはアメリアなんだよ。チハルさんに喜んでもらいたいからって」
ちょっと言わないでよ、とセルジオを小突く彼女。
お願い、ちょっと待って。俺に 回復する時間をちょうだい。もう息が苦しい。
「そうなんだ?ありがとう」
「いえ、そんな。いつもジオからチハルさんのことを聞いていてずっと会ってみたかったんです!」
「えー、セルジオ何て言ったんだよ!ってかジオって呼ばれてんのな」
「あ、愛称なんです」
「おいアメリア、人前で止めろよ。恥ずかしいだろ」
「いいじゃん、ラブラブそうで!なあ、ジオ」
「その呼び方はアメリア以外禁止なんですー」
「けっ、のろけやがって」
俺の顔は大丈夫?胸の痛みで歪んでない?ちゃんと喋れてる?もう苦しくて、息が出来ないよ。
「っていうか、結婚式とかいつすんの?」
「なれ初めは?教えろよー」
へたれな俺は2人を傷つけたくなくて必死に会話を続ける。自然なものにしようとすればするほど俺の心にぐさぐさと刺さる話題にしか持っていけなくて、自分で自分を刺してる気分だ。
期待してた訳じゃない。セルジオが俺と、なんてそんなことあるわけがない。それでも今はただ苦しい。
それに少し会話をしただけで彼女はとてもいい人だとわかるから。セルジオとすごく…お似合いだ。俺がそう思えてしまうほどに。
でもちょっと時間がほしい。絶対にいつか心からおめでとうって言うから。言えるようにするから、今だけは偽りの祝福で許して。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる