バースデーソング

せんりお

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ひたすら家事することに費やした1日の休みを経て、今日がセルジオと約束した日だ。
セルジオから伝えられていた場所は日本料理のレストランだ。俺に気を使って日本料理なのだろうか。いつもそんなこと気にしないのに。
時間は夕方からということだったから夕食を兼ねて、というところだろう。
ただ、そこそこいいレストランなのが気になった。



レストランに着くと、店の前でセルジオが待っていた。

「ごめん待たせた」

「いや、大丈夫。なんならちょっと早いぐらいだろ。」

俺が早すぎただけ、と笑うセルジオに胸がきゅっと苦しくなった。それを隠して、そっかと俺も笑って、セルジオの後に続いて店に入った。
店内は日本料理らしく和な内装で落ち着く雰囲気だ。
個室を予約していたのか店の奥に進んでいく。ふすまっぽく作られたドアの1つを迷わず開けたセルジオに続いて部屋に入ると、そこには女性が1人座っていた。今度は嫌な予感に胸が絞めつけられた。
「こんばんは」と笑顔で挨拶してくる女性に挨拶を返してその向かい側に腰をおろした。セルジオは、女性の隣に腰をおろした。俺の向かい側だ。そのことにまた胸が痛んだ。

「あー、チハル、この女性は俺の彼女」

「初めまして。アメリア・ベネッリです」

セルジオの紹介を受けて、やや緊張したように女性が名乗る。緩くまいた茶色い髪がきれいで、服装や顔立ちから清楚な雰囲気を感じる。今までのセルジオの彼女とは少し感じが違った。
彼女…か。
そうだろうとは思っていたけどやっぱりか。
でも、大丈夫。彼女なんか今まで何回も見てきただろ。もう慣れっこだろ。
そう自分に言い聞かせる。
でも今日は必要以上に胸がざわめいていた。
何か、悪い予感――

「それでチハルに報告したいことがあって」

そこで一旦言葉を切ったセルジオは彼女同様少し緊張しているようだった。
――ここまでくれば俺にも予想がつく。もう気づかないふりは出来ない。この予想が正しければ俺はとてつもない衝撃をくらうだろう。心の中でその衝撃を受け止める防壁を作ろうと俺は内心で必死になった。
セルジオの口が開く。

「俺、彼女と結婚しようと思ってるんだ」

予想通りの爆弾だった。
防壁を作ったはずなのに、馬鹿な俺の壁は脆くて一瞬で崩れ去って、とんでもない痛みをもたらした。頭がじんと痺れる。

「1年くらいずっと付き合ってて、この間のライブの前にプロポーズしたんだ。それでチハルに一番に知ってもらいたいと思ってさ。それに今は大事な時期だからチハルの意見も聞きたくて」 

1年も、か。俺は何も見えてなかったんだと気づく。いや、見ないようにしていただけだろう。自分に都合がいいように。練習終わりにそそくさと、嬉しそうに帰る彼を。身につけた新しいアクセサリーを大事そうに扱う彼も。視界に入っていないふりをして、必死に自分に嘘をついていた。
何も言わない俺にセルジオと彼女が伺うような表情を向けてくる。
馬鹿、俺。笑え、笑うんだ。祝福しろ。

「いや、びっくりしたよ!そっかーお前も、もう結婚かー。俺の意見聞きたいって言ったけど俺は時期なんか関係ないと思う。おめでとう!幸せになれよ!」

俺の精一杯の笑顔はひきつっていないだろうか。
 必死に絞り出した俺の言葉に2人は顔を見合わせて幸せそうに笑う。
俺はその一挙一動に瀕死になるほどダメージをくらう。

「ありがとな、チハル!」

「チハルさんありがとう!」

当然だろ、と返す俺。心にも思ってないくせに、と自分が嫌になる。

「実はさ、この店を選んだのはアメリアなんだよ。チハルさんに喜んでもらいたいからって」

ちょっと言わないでよ、とセルジオを小突く彼女。
お願い、ちょっと待って。俺に 回復する時間をちょうだい。もう息が苦しい。

「そうなんだ?ありがとう」

「いえ、そんな。いつもジオからチハルさんのことを聞いていてずっと会ってみたかったんです!」

「えー、セルジオ何て言ったんだよ!ってかジオって呼ばれてんのな」

「あ、愛称なんです」

「おいアメリア、人前で止めろよ。恥ずかしいだろ」

「いいじゃん、ラブラブそうで!なあ、ジオ」

「その呼び方はアメリア以外禁止なんですー」

「けっ、のろけやがって」

俺の顔は大丈夫?胸の痛みで歪んでない?ちゃんと喋れてる?もう苦しくて、息が出来ないよ。

「っていうか、結婚式とかいつすんの?」
「なれ初めは?教えろよー」

へたれな俺は2人を傷つけたくなくて必死に会話を続ける。自然なものにしようとすればするほど俺の心にぐさぐさと刺さる話題にしか持っていけなくて、自分で自分を刺してる気分だ。
期待してた訳じゃない。セルジオが俺と、なんてそんなことあるわけがない。それでも今はただ苦しい。
それに少し会話をしただけで彼女はとてもいい人だとわかるから。セルジオとすごく…お似合いだ。俺がそう思えてしまうほどに。
でもちょっと時間がほしい。絶対にいつか心からおめでとうって言うから。言えるようにするから、今だけは偽りの祝福で許して。
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