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日々は飛ぶように過ぎ、失恋から約1年。世界ツアーまで後1週間と迫ったその日。
セルジオの結婚式が執り行われた。
イタリアの結婚式は儀式に則れば、厳かなもので、教会で行われる。
そこには家族と親しい友人たちだけ。俺はそこから招待されることとなった。
それが終わると、今度は披露宴。アイドルでもないので、隠す必要はない。披露宴は盛大に行われた。家族、友人、お世話になった人たちから仕事関係の人たちまで、招待客はとても多い。その中で俺は仕事の関係者席に座っていた。友人の中でもよかったのだが、こっちのほうが知り合いが多かったからここに座らせてもらった。
…のだが、同じ席に座っていた所長がぼろぼろ泣いていて、俺はそれを慰めるのに必死になっていた。
「ひっく、あのセルジオが…っく、結婚するなんてーよかったわぁ、ひっく」
俺たちにとって第2の母親のような存在の所長。
「息子を、婿に出す気分よぉぉ」
俺たちが母親のようだと思っているのと同様に、所長も俺たちのことを息子だと思ってくれているのだと知ってほっこりする。のはいいんだけど…
「所長、泣きすぎですって…これからも一緒に仕事するんですよ?出ていく訳じゃないですし…」
泣きすぎて崩れた化粧が少しホラーだ。そろそろ泣き止んでもらわないと回りの目が痛い。
それに、俺の友人代表挨拶が迫っている。このまま放置していってもよいものなのか?
「次に、友人を代表して、ミヤセチハル様より挨拶をいただきます」
呼ばれて、ガン泣きの所長に押し出された。私は大丈夫だから行ってきなさい、と言われ歩き出す。ほんとに大丈夫かあれ。普段は仕事のできるお姉さまなので心配だ。
そんなことを思いながらも、たどり着いたマイクの前に立つ。客席ではなくセルジオとアメリアさんの方をまっすぐ向いた。
すっと息を吸い込んで俺は話し始めた。
「紹介に預かりました、ミヤセチハルです。えー、まずは二人ともおめでとう」
そんなテンプレートから始まった俺の挨拶は、所々セルジオを弄って笑いをとりつつ無事に終えることができた。
失敗なく終えられて、ほっとしながら席に戻る。
「よかったわよぉ」
所長がまだ泣いていた。
「ちょ、まだ泣いてんすか!もう泣き止んでくださいよぉ」
さすがに俺も困ってしまった。同じテーブルの人も苦笑している。
「何言ってんの!今日はとことん泣くのよ!付き合いなさいよ」
「えー」
こんな所長と飲むのはちょっと…キャリアウーマンの所長は絡み酒だ。ぜっったいめんどくさい!と、渋っていると、ふっと照明が落とされて暗くなった。
会場にはスクリーンが用意され、そこに新郎新婦の写真やお祝いのコメントなどが映し出されるようだ。会場中がそこに注目する。今まで喋っていた俺と所長もそれを見つめた。時に笑いが、時に幸せそうな二人にため息が起きる。
会場が暗い中、二人の幸せそうな写真は唯一の光だ。
「あんたも幸せになりなさいよ」
ふっと所長が言った。突然の言葉に、驚いて所長を見る。暗い中ではっきりとは見えないその顔は、それでも真剣なことがわかった。
「恋人を作れとか結婚しろとか、そんな事は言わないわ。…でも幸せになりなさいよ」
静かに言われたその言葉に俺は泣きそうになった。
セルジオの結婚式に出ることは不安だった。嫌だとかは思わなかったけど、自分がどんな感情を抱くのかわからなくて少し怖かった。普通に笑えるのか、それとも泣いてしまうのか。思いが深かっただけに、整理出来たと思っていても、どこでまたぐちゃぐちゃになるかわからない。
そう、思っていた。けれど、ここまで本当になんともなかった。ただ幸せそうな二人が嬉しかった。
でも所長のこの言葉に、俺の目尻は熱くなった。
「セルジオに負けないくらいね」
ちらっとこちらを向いて、悪戯っぽく微笑む所長に俺は黙って頷いた。
今日くらいは所長の絡み酒には付き合ってあげよう。そう思った。
セルジオの結婚式が執り行われた。
イタリアの結婚式は儀式に則れば、厳かなもので、教会で行われる。
そこには家族と親しい友人たちだけ。俺はそこから招待されることとなった。
それが終わると、今度は披露宴。アイドルでもないので、隠す必要はない。披露宴は盛大に行われた。家族、友人、お世話になった人たちから仕事関係の人たちまで、招待客はとても多い。その中で俺は仕事の関係者席に座っていた。友人の中でもよかったのだが、こっちのほうが知り合いが多かったからここに座らせてもらった。
…のだが、同じ席に座っていた所長がぼろぼろ泣いていて、俺はそれを慰めるのに必死になっていた。
「ひっく、あのセルジオが…っく、結婚するなんてーよかったわぁ、ひっく」
俺たちにとって第2の母親のような存在の所長。
「息子を、婿に出す気分よぉぉ」
俺たちが母親のようだと思っているのと同様に、所長も俺たちのことを息子だと思ってくれているのだと知ってほっこりする。のはいいんだけど…
「所長、泣きすぎですって…これからも一緒に仕事するんですよ?出ていく訳じゃないですし…」
泣きすぎて崩れた化粧が少しホラーだ。そろそろ泣き止んでもらわないと回りの目が痛い。
それに、俺の友人代表挨拶が迫っている。このまま放置していってもよいものなのか?
「次に、友人を代表して、ミヤセチハル様より挨拶をいただきます」
呼ばれて、ガン泣きの所長に押し出された。私は大丈夫だから行ってきなさい、と言われ歩き出す。ほんとに大丈夫かあれ。普段は仕事のできるお姉さまなので心配だ。
そんなことを思いながらも、たどり着いたマイクの前に立つ。客席ではなくセルジオとアメリアさんの方をまっすぐ向いた。
すっと息を吸い込んで俺は話し始めた。
「紹介に預かりました、ミヤセチハルです。えー、まずは二人ともおめでとう」
そんなテンプレートから始まった俺の挨拶は、所々セルジオを弄って笑いをとりつつ無事に終えることができた。
失敗なく終えられて、ほっとしながら席に戻る。
「よかったわよぉ」
所長がまだ泣いていた。
「ちょ、まだ泣いてんすか!もう泣き止んでくださいよぉ」
さすがに俺も困ってしまった。同じテーブルの人も苦笑している。
「何言ってんの!今日はとことん泣くのよ!付き合いなさいよ」
「えー」
こんな所長と飲むのはちょっと…キャリアウーマンの所長は絡み酒だ。ぜっったいめんどくさい!と、渋っていると、ふっと照明が落とされて暗くなった。
会場にはスクリーンが用意され、そこに新郎新婦の写真やお祝いのコメントなどが映し出されるようだ。会場中がそこに注目する。今まで喋っていた俺と所長もそれを見つめた。時に笑いが、時に幸せそうな二人にため息が起きる。
会場が暗い中、二人の幸せそうな写真は唯一の光だ。
「あんたも幸せになりなさいよ」
ふっと所長が言った。突然の言葉に、驚いて所長を見る。暗い中ではっきりとは見えないその顔は、それでも真剣なことがわかった。
「恋人を作れとか結婚しろとか、そんな事は言わないわ。…でも幸せになりなさいよ」
静かに言われたその言葉に俺は泣きそうになった。
セルジオの結婚式に出ることは不安だった。嫌だとかは思わなかったけど、自分がどんな感情を抱くのかわからなくて少し怖かった。普通に笑えるのか、それとも泣いてしまうのか。思いが深かっただけに、整理出来たと思っていても、どこでまたぐちゃぐちゃになるかわからない。
そう、思っていた。けれど、ここまで本当になんともなかった。ただ幸せそうな二人が嬉しかった。
でも所長のこの言葉に、俺の目尻は熱くなった。
「セルジオに負けないくらいね」
ちらっとこちらを向いて、悪戯っぽく微笑む所長に俺は黙って頷いた。
今日くらいは所長の絡み酒には付き合ってあげよう。そう思った。
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