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明日は休みだからまた明後日な!セルジオが手を上げて会場に戻っていく。
俺も、アメリアさんによろしく!と手を上げて見送った。
それとすれ違いに所長が戻ってきた。少し目は腫らしているが、いつもと変わりなく颯爽と歩いてくる。
「待たせたわね。行きましょうか」
そう言って歩き出す所長。今日は呑みに行く約束だ。でも
「ごめん、俺行かなくちゃならないところがある!また埋め合わせするから!ほんとにごめん!」
そう勢いよく頭を下げてから俺は走り出した。所長が呆気にとられたように、走り出す俺を見送っている。
ごめん、所長!でも俺は今どうしても行かなきゃならないところがある。今言わなくちゃならないことがあるんだ。
セルジオはずっと俺のことを見守ってくれていた。そんな人がもう一人今の俺にはいるはずだ。
今の俺のもう1つのlume――灯り
久しぶりの全力疾走で、街を駆け抜けた。
会場と目的の場所は意外に近くて、迷いなく道を進む。道行く人は驚いて振り返って俺を見ているけど、構わずに俺は走った。時折、「え、あれlampflickerの」とか「チハル!?」とか言う声も聞こえてくるけれどそれも気にしない。日が暮れて、空がグレーになる下をただひた走った。
細い裏路地を通り、この1年で見慣れたドアにたどり着いた。ドアの札は〈APTRTO〉開店、となっている。俺はそのドアを音がするほど勢いよく押し開けた。
店内にはまだ時間が早いせいか客は誰もいなかった。ちょうどカウンターにいたニコラが、勢いよく開いたドアに驚いた顔をしている。そして俺を見ていつものように、にこっと笑おうとして、息をきらして立つ俺のただならぬ様子にまた驚いたようだ。
「チハル?どうしたの?今日は確か結婚式」
そこまで言って言葉を切った。言いながら俺の様子の原因に気づいたのだろう。結婚式。それが俺の想い人のものであるとニコラには話していた。
「チハル、何があったの」
真剣な表情になって、そう聞いたニコラに俺は、笑顔を向けた。
「ニコラ、ありがとう」
精一杯、今が幸せであるとわかるように笑え。感謝を言葉と笑顔に込められるだけ込めて伝えたい。
「ありがとう」
突然の俺の言葉に、虚をつかれた様子のニコラにもう一度言う。俺は何度だって言いたいんだ。
俺の言葉と表情、今日あった結婚式。それらからニコラは察してくれた。
そして、その表情のような温かい声で尋ねられる。
「まだ、苦しい?」
あの時と同じ問い。あの時俺はセルジオへの想いが整理できずに、ニコラの前で悲しくて苦しい涙を流した。
じゃあ、今は―――?
「苦しく、ない。心から、おめでとうって言えたから」
「そっか」
たった一言。ニコラが発したのはそれだけだったけどその表情から、それ以上が伝わるから。ほっとしたように微笑んでくれるのがどうにも嬉しかった。精一杯笑っていたはずだったけど、どうやら笑えていないかもしれない。俺の頬には涙が伝った。
親が死んで、それから泣かずに生きてきた。涙を流せば何かにつけこまれるような気がして必死に堪えて生きてきた。でも最近の俺は人前でぼろぼろ泣きすぎだと思う。みんな俺を甘やかしすぎだ。セルジオも所長も、ニコラも。皆いい人過ぎて、俺なんかに優しすぎてほんとにダメ人間になりそうだ。
ニコラがカウンターから出て来てこちらに歩いてくる。
次の瞬間――俺はニコラの腕の中にいた。驚きと、包まれた温かい温度に、泣き止もうとこもっていた力が抜ける。
「お疲れ様。よく頑張りました」
少し悪戯っぽさを含んだ声で、でも最大限に優しい声で頭上からそんな言葉が降ってきた。
「…甘やかしすぎなんだよお前らぁぁ」
あまりの甘やかしに、思わず頭のなかで考えていたことがそのまま飛び出た。
情けない泣き声でのそれに、ニコラがぷっと吹き出す。
「どんどん甘えちゃってくださいよ」
「なんでそんな優しいんだよ!」
泣いてしまったことと、抱き締められていることへの恥ずかしさも相まって最早逆ギレ気味の俺。そんな俺にニコラがまた肩を震わせた。
そして、答える。
「だって好きだから」
「なんだよその理由は―――え、好き?」
普通に返事をしかけて、頭に染み込んできたその言葉に俺の思考は停止した。
好き。ん?好き?は?誰が?何を?
「うん、好きだよチハル」
再び言われたその言葉。甘ーいニコラの声と、言葉とともに俺の額に落とされたキス。今度こそ俺は返事もできずに固まった。
俺も、アメリアさんによろしく!と手を上げて見送った。
それとすれ違いに所長が戻ってきた。少し目は腫らしているが、いつもと変わりなく颯爽と歩いてくる。
「待たせたわね。行きましょうか」
そう言って歩き出す所長。今日は呑みに行く約束だ。でも
「ごめん、俺行かなくちゃならないところがある!また埋め合わせするから!ほんとにごめん!」
そう勢いよく頭を下げてから俺は走り出した。所長が呆気にとられたように、走り出す俺を見送っている。
ごめん、所長!でも俺は今どうしても行かなきゃならないところがある。今言わなくちゃならないことがあるんだ。
セルジオはずっと俺のことを見守ってくれていた。そんな人がもう一人今の俺にはいるはずだ。
今の俺のもう1つのlume――灯り
久しぶりの全力疾走で、街を駆け抜けた。
会場と目的の場所は意外に近くて、迷いなく道を進む。道行く人は驚いて振り返って俺を見ているけど、構わずに俺は走った。時折、「え、あれlampflickerの」とか「チハル!?」とか言う声も聞こえてくるけれどそれも気にしない。日が暮れて、空がグレーになる下をただひた走った。
細い裏路地を通り、この1年で見慣れたドアにたどり着いた。ドアの札は〈APTRTO〉開店、となっている。俺はそのドアを音がするほど勢いよく押し開けた。
店内にはまだ時間が早いせいか客は誰もいなかった。ちょうどカウンターにいたニコラが、勢いよく開いたドアに驚いた顔をしている。そして俺を見ていつものように、にこっと笑おうとして、息をきらして立つ俺のただならぬ様子にまた驚いたようだ。
「チハル?どうしたの?今日は確か結婚式」
そこまで言って言葉を切った。言いながら俺の様子の原因に気づいたのだろう。結婚式。それが俺の想い人のものであるとニコラには話していた。
「チハル、何があったの」
真剣な表情になって、そう聞いたニコラに俺は、笑顔を向けた。
「ニコラ、ありがとう」
精一杯、今が幸せであるとわかるように笑え。感謝を言葉と笑顔に込められるだけ込めて伝えたい。
「ありがとう」
突然の俺の言葉に、虚をつかれた様子のニコラにもう一度言う。俺は何度だって言いたいんだ。
俺の言葉と表情、今日あった結婚式。それらからニコラは察してくれた。
そして、その表情のような温かい声で尋ねられる。
「まだ、苦しい?」
あの時と同じ問い。あの時俺はセルジオへの想いが整理できずに、ニコラの前で悲しくて苦しい涙を流した。
じゃあ、今は―――?
「苦しく、ない。心から、おめでとうって言えたから」
「そっか」
たった一言。ニコラが発したのはそれだけだったけどその表情から、それ以上が伝わるから。ほっとしたように微笑んでくれるのがどうにも嬉しかった。精一杯笑っていたはずだったけど、どうやら笑えていないかもしれない。俺の頬には涙が伝った。
親が死んで、それから泣かずに生きてきた。涙を流せば何かにつけこまれるような気がして必死に堪えて生きてきた。でも最近の俺は人前でぼろぼろ泣きすぎだと思う。みんな俺を甘やかしすぎだ。セルジオも所長も、ニコラも。皆いい人過ぎて、俺なんかに優しすぎてほんとにダメ人間になりそうだ。
ニコラがカウンターから出て来てこちらに歩いてくる。
次の瞬間――俺はニコラの腕の中にいた。驚きと、包まれた温かい温度に、泣き止もうとこもっていた力が抜ける。
「お疲れ様。よく頑張りました」
少し悪戯っぽさを含んだ声で、でも最大限に優しい声で頭上からそんな言葉が降ってきた。
「…甘やかしすぎなんだよお前らぁぁ」
あまりの甘やかしに、思わず頭のなかで考えていたことがそのまま飛び出た。
情けない泣き声でのそれに、ニコラがぷっと吹き出す。
「どんどん甘えちゃってくださいよ」
「なんでそんな優しいんだよ!」
泣いてしまったことと、抱き締められていることへの恥ずかしさも相まって最早逆ギレ気味の俺。そんな俺にニコラがまた肩を震わせた。
そして、答える。
「だって好きだから」
「なんだよその理由は―――え、好き?」
普通に返事をしかけて、頭に染み込んできたその言葉に俺の思考は停止した。
好き。ん?好き?は?誰が?何を?
「うん、好きだよチハル」
再び言われたその言葉。甘ーいニコラの声と、言葉とともに俺の額に落とされたキス。今度こそ俺は返事もできずに固まった。
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