美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第６章 再就職

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樫野チーフはそんなこと一言も言っていなかった。でも、お正月明けだとしたら、あの時はまだ心配には及ばなかったのかもしれない。

しかし、私を呼び戻そうとしていたということは……西園寺オーナーの様子が変だと思っていたからだ。でも、どうして私を呼び戻す必要があるのだろう？

――樫野チーフは偽りの婚約者だと知っているのに……。

そう言えば、ここ最近の電話……あれはこのことを知らせようとしていたのかと今更だが気付く。

「西園寺オーナーに何があったんでしょうか？」
〈それ、あんたが訊く？〉

どうやら、わたしのせいだと思われているらしい。

〈とにかく、貴女たち二人の間に何があったか絶対に訊かないから、さっさと戻ってらっしゃい！〉

それだけ言うとマミさんは私の返事も聞かずに電話を切ってしまった。

「戻ってらっしゃいって……」

簡単に言うが、できない相談だ。全く！　人の気も知らないで。


＊＊＊


マミさんと電話で話してから丸一日考えた。だが、悩んだところで事態が好転しないのは最初から分かっていることだった。

「クビにしたのは西園寺オーナーだ。それなのに皆は私を責める。婚約者だと嘘を言ったからだ。それもこれも全部西園寺オーナーのせいだ。それなのに、彼が倒れたといって、なぜ私が頭を下げて戻らなければいけないのだ？」

どう考えても理不尽だと思った。

「彼が謝ってきたら考えてもいいけど……」

そんなことはお日様が西から昇らない限り、ない！

「――でも、本当にあの後、何があったんだろう？」