恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十章 化け物屋敷

1.

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 身の丈の二倍ほどある観音開きの玄関ドアには鍵が掛かっていた。
「国家親衛隊で預かっている」と綾鷹がポケットからスケルトンキーと呼ばれる鍵を取り出す。
 持ち手の部分は豪華な薔薇の細工が施されているが、そこから伸びる円筒状の軸先端は平坦で短形。実に単純な鍵だった。

「この屋敷はウォード錠が使われていて、この鍵でないと入れないと言われているのだが……」

 綾鷹が苦笑いを浮かべる。

「その鍵ならプロの泥棒でなくても簡単に解錠できそうですね」
「乙女様の仰せの通り」

 綾鷹は乙女の嫌味にふざけた調子で答えながら鍵穴に鍵を差し入れた。

「だが、報告では無理矢理こじ開けた跡はなかったらしい」
「ということはスペアーキーがあるということですか?」
「スペアーキーは鏡卿の死と共に紛失したと聞いている」

 だったら誰がスペアーキーを持っているというのだろう? 益々分からないと乙女は頭を振る。
 カチャンと解錠すると綾鷹はキーを抜きドアを開ける。あの日と同じように、少し埃っぽい匂いが乙女の鼻先を掠める。

「この前は二階の一室で目覚めたと言っていたね?」
「ええ」

 昼間だというのに屋敷の中は薄暗かった。厚いカーテンが引かれているからだろう。それでも徐々に暗さに目が慣れていった。
 
「この間は気付きませんでしたが、一見するだけで豪勢なお屋敷だと分かりますね」

 乙女は豪華な化粧手摺の付いた階段やシャンデリアに感嘆の息を吐く。

「まさか、持って帰ろう何て思っていないだろうね? 窃盗の容疑で捉えるよ。邪な思いは抱かないように」

 釘を刺された乙女は、どうして分かったのだろう、と気味悪く思いながら、コホンと咳払いをして誤魔化す。

「事件の後、隅から隅まで調べ尽くしたんですよね?」

「ああ」と答えながら綾鷹は乙女の手を取り、ポケットから小さなライトを取り出すと、「まず、君のいた二階に行こう」とそれを灯して階段を上がる。

「階段を上がって左の部屋だったね?」
「ええ、突き当たりの部屋です」

 ドアを開けると前回来たときと違って、天上まである窓から陽が燦々と射し込んでいた。

「このソファーにシーツが敷かれていて、その上に寝かされていました」

 だが、今日はジャガード織りの文様に添毛織りを加えた豪華なソファーが剥き出しになっていた。クリーニングしたらまだまだ現役で使えそうなほど美麗だと乙女は思った。

「敷かれていたシーツはこちらで押収した。調べたが何の痕跡もなかった。あれは龍弥が君を埃から避けるために敷いたのだろう」

「君を思ってね」と綾鷹は忌々しそうに舌打ちをする。

「本当に腹立たしい!」

 いきなり怒りだした綾鷹を乙女はポカンと見つめる。

「君の寝姿を見られたのだよ! 全く! 今度あいつに会ったら奴の目の玉をくり抜いてやる」

 物騒なことを言い出す綾鷹に乙女はプッ吹き出す。

「そんなことをしたら親衛隊に逮捕されますよ」
「私はそれの長だ。もみ消すことなど容易だ」

 公私混同も甚だしいと乙女が呆れていると綾鷹が言う。

「それほど堪らなく嫌だったということだ」

 言葉と同時に綾鷹が乙女の手を引く。彼の胸に寄りかかるように倒れ込んだ乙女を綾鷹がシッカリ抱き締める。

「君は私のものだ。だから今後一切、今回のようなことがないよう閉じ込めてしまおうか?」

 ギョッと乙女が綾鷹を見上げると、怖いぐらいに真剣な目がすぐそこにあった。

「おっ脅しですか……?」
「脅して君が言うことを聞くようならいくらでも脅すが?」
「無理ですね」

「そう言うと思った」と綾鷹が深く息を吐き出す。

「だから……君にボディーガードを付けることにした」

 ハァァァと乙女は目を剥く。

「私が君を四六時中監視できればいいのだが、不本意だができないからね」
「それ、ムチャクチャ大袈裟じゃないですか?」
「どこが大袈裟だというのだね? 現に君は拐かしに遭ったのだよ」

 いつも毅然としている綾鷹の声が怒りに震えている。
 誰に対して怒っているのかは定かでないが……熱くたぎる怒りがビンビン伝わってきて、乙女はこの時初めて綾鷹のことを“怖い”と思った。
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