恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十章 化け物屋敷

4.

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「君は見取り図を見て何か気付かなかったかい?」

 綾鷹は立ち止まると両手で見取り図を開き見せる。

「そう言えば……部屋と部屋の間の壁が歪に分厚いところが何カ所かありますね」

「こことここと……」と言いながら乙女が指し示す。

「流石、作家だね。鋭い」

 本当に感心しているようだ。

「調べたら、君の押さえたところに隠し部屋があったんだよ」
「えっ、本当ですか?」

 好奇心満々の瞳が綾鷹を見つめる。

「案内して下さい! 見たいです」
「そう言うと思って、ちゃんと用意してきた」

 何をだろうと乙女が思っていると、綾鷹はズボンのポケットからペンを取り出す。

「ペンライトだよ」

 綾鷹がボタンを押すと辺りが白っぽい光に包まれる。
 今まで灯っていたライトと大違いで、小型ながらかなり強力なライトだった。

「そんな良いものがあるなら、もっと早く出して下さればいいのに」

 これだけ明るかったら幽霊も出て来られない……と乙女は恨めしげに綾鷹を見上げる。

「ああ、すまない。すっかり忘れていた」

 だが、それは嘘だと乙女はすぐに分かった。

「口元が上がっていますよ」

 しかし、早く隠し部屋を見たい乙女はそれ以上何も言わず、見取り図に目を向ける。

「私たちが今いる位置なら、四つの使用人部屋の真ん中、ここが近いですね」

 地図上では二部屋が背中合わせになっていた。
「ああ、この部屋ね」と言いながら綾鷹が尋ねる。

「隠し部屋にはどうやって入ると思う?」
「地図の上からでは分かりません。実際に見てみないと」

 歩みを進めながら乙女が言うと、綾鷹がいいことを思い付いたと指を鳴らす。

「ゲームをしようか? 隠し部屋の入り口を一つ見つけるごとに君の願いを一つ叶える。でも、見つからなかったら君が僕の願いを叶える。どうだい? 乗る?」
「願いは何でもいいということですか?」

「当然」と綾鷹が涼しい顔で言う。

「乗った!」

 編集社が作家同士のグループをSNSで組んでいて、乙女もそのメンバーの一人だった。メンバーには推理作家もいる。そこで小説の裏話などが明かされてるのだ。トリックについても然りだ。
 作家を舐めんじゃないわよ! 乙女はそこで語られていたトリックを思い出すと、勝算はある、とニヤリと笑った。

「了解! じゃあ、始めようか」

 到着したのは見取り図にあった使用人部屋の一つ。そのドアの前だった。

「鍵は掛かっていない。好きに見るといい」

「窓がないから暗いだろう」と綾鷹がペンライトを渡す。
 それを灯し、乙女は早速部屋の中に入った。
 そこは四畳半ほどの狭い部屋だった。簡易な木製ベッドとサイドテーブルが部屋の隅に置かれている。

「このドアの奥はクローゼットですね」

 乙女はベッドが置かれている反対側の壁に目を向け、その取っ手を引いた。
 壁と壁の間に渡された二メートルほどのステンレス製ポールが目に入る。そこにハンガーが五本掛かっていた。乙女は一メートルほどの隙間に入り、ペタペタと壁を触りながら中の様子をジックリ見る。
「普通なら……」と天上を見上げるが、天井裏に続く入り口はない。

「降参かな?」

 綾鷹が楽しそうに訊く。

「とんでもない! まだまだです」

 天上にないということは……と乙女の視線が足元を向く。コツコツと足を踏みならし床を確かめるが、ここも空振りだった。
 次に向かったのはサイドテーブルだ。引き出しが一つある。それを引き抜くが……期待虚しく、何も起こらない。

「――見取り図から言えば、ドアの正面、あの壁の向こうが隠し部屋ですよね」

 乙女は引き出しを片付けながらその壁に向かって歩き出す。
 どこを触っても違和感はない。ただの壁だった。

「他の部屋も調べます」

 だが、どの部屋にも隠し部屋に続くドアは見当たらなかった。

「そろそろタイムリミットだ」
「時間制限なんてありました?」

 乙女が反発するように言うと綾鷹が溜息を吐く。

「見取り図を見てご覧。かなりの隠し部屋があるのだよ。それを全て見たくないのかい?」

 グーの音も出ないとはこのことだ。乙女は仕方なしに「降参です」とむくれながら言う。

「了解。約束をお忘れなく」

 クッと笑みを浮かべ綾鷹が廊下に出る。悔しい思いを抱きながらも乙女が後に続く。
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