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第十章 化け物屋敷
6.
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「それで合点がいきました。それならこんな手の込んだ屋敷を作るくらい朝飯前ですね」
綾鷹が頷く。
「だからこそ、お家騒動に巻き込まれたのだと思うよ」
「お家騒動?」とオウム返しに問いながら、ああ、と思い出す。
「外腹だと言われていた夜露卿の存在が疎ましくなった何者かが手を掛けた、というあの話ですね? 超優秀だったからなんですね?」
だが、いくら本妻の子である月華の君を王にしたいからと、八歳の子を殺めるとは人非人もいいところだ。
「当時の文献によると、継承者問題で“月華の君派”と“夜露卿派”の二派に分かれ、お互いが激しく対立していたとある。当時の王、星華の君は表面上中立を保っていたが、やはり本妻の子である月華の君を跡取りにしたかったらしい」
「なるほど。それが噂で『実の父が鏡卿を殺めた』になったのですね?」
「その通り、真犯人の思う壺だ」
「あっ!」と乙女が口を押さえる。
「黒棘先夜支路伯爵!」
「君も分かったようだね」
コクコクと乙女が頷くと綾鷹が言う。
「内々に調べたところ、この噂は本物だということが分かった」
「ということは、鏡夜露卿は実の父に殺されたと思いながら死んでいった……あれ? でも死んでいないのですよね?」
「そうかもしれない、としか今は言えない」と言いながら綾鷹が渋い顔をする。
「だから尚更厄介なんだ」
「どういうことですか?」
綾鷹曰く、鏡卿は王家を恨んでいるだろうということだ。
「でも、真犯人は黒棘先では?」
「それを知らずに育ったとしたら?」
おそらく生きていたら今も……。
「そういうこと」
「そういうとは、どういうことですか?」
「あの時『御前』と呼ばれたのは黒棘先で間違いないだろう。でも、そのバックに鏡卿がいるのでは? ということだよ」
「えっ、でも……それって全て黒棘先が悪いのに、どうして敵と味方がごちゃ混ぜになっているんですか?」
「君の言いたいことは分かる。鏡卿はおそらく利用されているのだろう。天才故に」
天才の中には往々にして世間知らずが多々いる。鏡卿も類に漏れずだと綾鷹は言う。
「もしそれが事実なら、過去の誤解が現在の悲劇を生んでいる、ということですよね? それなら、早く鏡卿を見つけて真実を教えてあげないと……」
「ああ、その通りだ。だから月華の君も国家親衛隊特別チームに密命を与えたのだよ」
「特別チームですか?」何だそれ、と乙女が首を捻る。
「親衛隊の各部署から選りすぐられた人物が集まるチームだ。当然、私はメンバーの長だ」
何気に自慢している?
「君が知っている上ノ条や常磐公爵などもいる」
「常磐公爵って、蜜子様の旦那様ですか?」
綾鷹の自慢を速攻でスルーし尋ねると、「そうだ」と綾鷹が肯定する。
「今回の拐かしに多大に尽力して下さったのは、誰あろう蜜子夫人だ」
「ミミからそう聞きました」
「おっと忘れていた。夫人から言伝を頼まれていたんだ。『当日の召し物はとても似合っていたけど、貴女にはブルー系の方がもっと似合うわ』とね。で、同じデザインの色違いを預かった」
「ちょっと待って下さい。あれはマダム・メープルの一点もので……」
「ん? 知らなかったのかい、彼女がマダム・メープル、その人だよ」
「えぇぇぇ!」と乙女の目がまん丸になる。
「立場上、夫人も覆面作家を名乗っているから知らないのも当然か」
「当然です!」
本日一番の驚きだった。
ミミに教えたい! でも、ダメだ! 乙女の心の中で小さな葛藤が繰り返される。
「さて、次に行こうか」
ブツブツと呟いている乙女に綾鷹は訝しげな瞳で言う。
そうだった、と我に返ると乙女は「それで、どの隠し部屋にも鏡卿はいなかったのですか?」と尋ねる。
「ネズミ一匹いなかった。でも、我々国家親衛隊特別チームはこの屋敷内のどこかに鏡卿がいると思っている。それを裏付けたのが今回の拐かし事件だ」
「確かにそうですね。わざわざこんなところに私を運ばなくてもいいですよね」
「そう、喩え人気がないと言っても縁もゆかりもない場所に来る必要はない。それに、あの茶屋からここまでかなり距離がある。移動時間が長ければそれだけリスクが高くなる」
「道中の防犯カメラとかですか?」
「それもあるが」と綾鷹は言い、「睡眠薬の効果もだ。もし、君が移動途中に目を覚ましたら? 厄介だと思わないかい?」と問う。
綾鷹が頷く。
「だからこそ、お家騒動に巻き込まれたのだと思うよ」
「お家騒動?」とオウム返しに問いながら、ああ、と思い出す。
「外腹だと言われていた夜露卿の存在が疎ましくなった何者かが手を掛けた、というあの話ですね? 超優秀だったからなんですね?」
だが、いくら本妻の子である月華の君を王にしたいからと、八歳の子を殺めるとは人非人もいいところだ。
「当時の文献によると、継承者問題で“月華の君派”と“夜露卿派”の二派に分かれ、お互いが激しく対立していたとある。当時の王、星華の君は表面上中立を保っていたが、やはり本妻の子である月華の君を跡取りにしたかったらしい」
「なるほど。それが噂で『実の父が鏡卿を殺めた』になったのですね?」
「その通り、真犯人の思う壺だ」
「あっ!」と乙女が口を押さえる。
「黒棘先夜支路伯爵!」
「君も分かったようだね」
コクコクと乙女が頷くと綾鷹が言う。
「内々に調べたところ、この噂は本物だということが分かった」
「ということは、鏡夜露卿は実の父に殺されたと思いながら死んでいった……あれ? でも死んでいないのですよね?」
「そうかもしれない、としか今は言えない」と言いながら綾鷹が渋い顔をする。
「だから尚更厄介なんだ」
「どういうことですか?」
綾鷹曰く、鏡卿は王家を恨んでいるだろうということだ。
「でも、真犯人は黒棘先では?」
「それを知らずに育ったとしたら?」
おそらく生きていたら今も……。
「そういうこと」
「そういうとは、どういうことですか?」
「あの時『御前』と呼ばれたのは黒棘先で間違いないだろう。でも、そのバックに鏡卿がいるのでは? ということだよ」
「えっ、でも……それって全て黒棘先が悪いのに、どうして敵と味方がごちゃ混ぜになっているんですか?」
「君の言いたいことは分かる。鏡卿はおそらく利用されているのだろう。天才故に」
天才の中には往々にして世間知らずが多々いる。鏡卿も類に漏れずだと綾鷹は言う。
「もしそれが事実なら、過去の誤解が現在の悲劇を生んでいる、ということですよね? それなら、早く鏡卿を見つけて真実を教えてあげないと……」
「ああ、その通りだ。だから月華の君も国家親衛隊特別チームに密命を与えたのだよ」
「特別チームですか?」何だそれ、と乙女が首を捻る。
「親衛隊の各部署から選りすぐられた人物が集まるチームだ。当然、私はメンバーの長だ」
何気に自慢している?
「君が知っている上ノ条や常磐公爵などもいる」
「常磐公爵って、蜜子様の旦那様ですか?」
綾鷹の自慢を速攻でスルーし尋ねると、「そうだ」と綾鷹が肯定する。
「今回の拐かしに多大に尽力して下さったのは、誰あろう蜜子夫人だ」
「ミミからそう聞きました」
「おっと忘れていた。夫人から言伝を頼まれていたんだ。『当日の召し物はとても似合っていたけど、貴女にはブルー系の方がもっと似合うわ』とね。で、同じデザインの色違いを預かった」
「ちょっと待って下さい。あれはマダム・メープルの一点もので……」
「ん? 知らなかったのかい、彼女がマダム・メープル、その人だよ」
「えぇぇぇ!」と乙女の目がまん丸になる。
「立場上、夫人も覆面作家を名乗っているから知らないのも当然か」
「当然です!」
本日一番の驚きだった。
ミミに教えたい! でも、ダメだ! 乙女の心の中で小さな葛藤が繰り返される。
「さて、次に行こうか」
ブツブツと呟いている乙女に綾鷹は訝しげな瞳で言う。
そうだった、と我に返ると乙女は「それで、どの隠し部屋にも鏡卿はいなかったのですか?」と尋ねる。
「ネズミ一匹いなかった。でも、我々国家親衛隊特別チームはこの屋敷内のどこかに鏡卿がいると思っている。それを裏付けたのが今回の拐かし事件だ」
「確かにそうですね。わざわざこんなところに私を運ばなくてもいいですよね」
「そう、喩え人気がないと言っても縁もゆかりもない場所に来る必要はない。それに、あの茶屋からここまでかなり距離がある。移動時間が長ければそれだけリスクが高くなる」
「道中の防犯カメラとかですか?」
「それもあるが」と綾鷹は言い、「睡眠薬の効果もだ。もし、君が移動途中に目を覚ましたら? 厄介だと思わないかい?」と問う。
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