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第十章 化け物屋敷
7.
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「確か……眠っていたのは一時間ほどです」
「だろ? 薬の効果がそのぐらいだったんだろう。なら、遠距離になるほど道中に目覚める確率が高くなる。で、そういうことを総合したら鏡卿の存在が浮き彫りになった、ということだ」
「でも、どこに?」
館は調べ尽くしたはずだ。
「そこなんだよね」と綾鷹が顎をコツコツと叩きながら宙を見る。そして、「とにかく」と言いながら乙女の手を取った。
「次の隠し部屋に行こう!」
超小型DAPを回収して向かった先は館の北端の部屋。ここはどうやら図書室のようだ。
「この部屋は……見取り図で言うと、その本棚の向こう側が隠し部屋となっていますね」
天井まである壁一面の本棚には入り口と思しきドアなどない。
「さて、ここは分かるかな?」
小説なら本に仕掛けがあったりするのだが……それを見つけるには、あまりにも冊数が多い。
「降参します」
「闘わずして負けを認めるということ?」
「綾鷹様がどんな要求をするのか心配ですが……」
「それよりも」と乙女が見取り図をトントンと指で差す。
「全ての隠し部屋を今日中に見たいので」
「だから潔く負けを認めるということだね」
コクンと素直に乙女が頷く。
「了解、ここの入り口は……」と綾鷹はなぜか部屋を出る。
「どちらへ?」
乙女の質問には答えず、綾鷹は先程とは違う階段から図書室の真上にある小部屋に入った。
「ここは?」
窓があるのでペンライトは必要ない。
「備品室だったのだろうね」
入り口に向かって天上に付くぐらいの棚が並列に四つ並んでいる。よく見ると所々に段ボールが置いてあった。
「シーツに電球……なるほど、備品室ですね」
「こっちだ」
綾鷹が部屋の一番奥に向かう。
「その端の床を三回踏んでご覧」
綾鷹が壁際の床を足で指す。
言われた通りに乙女が踏み鳴らすと、目の前の床が一メートル四方ほど下にズレ、今度は横にスライドする。そこに狭い階段が見えた。
綾鷹がペンライトを灯す。
「こんなところに……」
隠し部屋はそれぞれ違う方法で入室するようになっているらしい。
「ドアを見つけるのも至難の業だったでしょうね?」
「ここに君が連れ込まれた二年ほど前から地道にね」
乙女は早々に『完敗』宣言する。
「なら、こんな短時間に私が見つけられるわけないじゃないですか」
ちょっと非難めいた乙女の視線に綾鷹がシレッと答える。
「君は作家さんだから」
「ジャンルが違います!」
乙女はプリプリしながらも階段を降りる。ここにも窓はない。
「ちょうど本棚の裏に当たる。ここにはマジックミラーはないが……」
綾鷹が蝶番のようなものを右にスライドさせると、直径五センチほどの丸い覗き窓が現れる。
「この穴から図書室が覗けるようになっている。穴は二十箇所あった」
そう言って綾鷹は次々に蝶番を外してスライドさせていく。
穴から差し込む光が真っ暗な隠し部屋を照らす。
「意外に広い空間ですね」
辺りを見回した乙女が、「えっ!」と一点に目を止めた。
「気付いたみたいだね」
気付いて然りだ。
「あれって……」
部屋の隅に二人掛けのテーブルと二脚の椅子、そして、冷蔵庫、スタンド式の照明、扇風機、電気ストーブ……引きこもり生活が送れる最低の生活必需品が揃っていた。
だが、乙女の気付いたのはそこではない。
「私が欲しかった最新式のミニ冷蔵庫だ! 小さいのにとても便利な奴なんですよ。ほら見て下さい。この青いボタンでクラッシュアイス、赤いボタンで炭酸水、白いボタンで冷水が出てくるんです。それもミネラル水ですよ!」
「使い方は簡単。水道水を所定のポットにセットするだけ」と興奮気味に話す姿は家電芸人のようだ。
「――あれ? ちょっと待って下さい」
だが、ようやく肝心なことに気付いたようだ。
「このミニ冷蔵庫が発売されたのは今年になってですよ」
「そういうこと」
綾鷹がニッと笑う。
「誰が隠し部屋にそれを運び込んだか……言わずと知れているよね?」
「――鏡卿……?」
「そう」と綾鷹が頷く。
「大人が一人で運べないものでもないだろうが、協力者がいたとしたら、『御前』と呼ばれる手の内の者だろう」
黒棘先?
「ということは、鏡卿がここに潜伏していたとしてですよ、今はどこにいるのですか?」
「捜査が入る前、君が助け出された時には抜け出していた」
「その証拠に」と言いながら冷蔵庫を開ける。中は空っぽだった。
「おそらく捜査が入ることを事前に予測していたのだろうね」
「本当に鏡卿って天才なんですね」
「ああ、怖い人だ」
「だから」といきなり綾鷹が両手で乙女の両肩を掴む。
「絶対に無茶なことをしないで欲しい!」
真摯な瞳が『心配だ』と言っている。
「鏡卿の思惑が分からない今、私たちに打つ手がない。ただ、一度拐かされた君を放っておくはずがないと携わる者たち全員が感じている」
だからボディーガードが……と乙女は納得する。
「だろ? 薬の効果がそのぐらいだったんだろう。なら、遠距離になるほど道中に目覚める確率が高くなる。で、そういうことを総合したら鏡卿の存在が浮き彫りになった、ということだ」
「でも、どこに?」
館は調べ尽くしたはずだ。
「そこなんだよね」と綾鷹が顎をコツコツと叩きながら宙を見る。そして、「とにかく」と言いながら乙女の手を取った。
「次の隠し部屋に行こう!」
超小型DAPを回収して向かった先は館の北端の部屋。ここはどうやら図書室のようだ。
「この部屋は……見取り図で言うと、その本棚の向こう側が隠し部屋となっていますね」
天井まである壁一面の本棚には入り口と思しきドアなどない。
「さて、ここは分かるかな?」
小説なら本に仕掛けがあったりするのだが……それを見つけるには、あまりにも冊数が多い。
「降参します」
「闘わずして負けを認めるということ?」
「綾鷹様がどんな要求をするのか心配ですが……」
「それよりも」と乙女が見取り図をトントンと指で差す。
「全ての隠し部屋を今日中に見たいので」
「だから潔く負けを認めるということだね」
コクンと素直に乙女が頷く。
「了解、ここの入り口は……」と綾鷹はなぜか部屋を出る。
「どちらへ?」
乙女の質問には答えず、綾鷹は先程とは違う階段から図書室の真上にある小部屋に入った。
「ここは?」
窓があるのでペンライトは必要ない。
「備品室だったのだろうね」
入り口に向かって天上に付くぐらいの棚が並列に四つ並んでいる。よく見ると所々に段ボールが置いてあった。
「シーツに電球……なるほど、備品室ですね」
「こっちだ」
綾鷹が部屋の一番奥に向かう。
「その端の床を三回踏んでご覧」
綾鷹が壁際の床を足で指す。
言われた通りに乙女が踏み鳴らすと、目の前の床が一メートル四方ほど下にズレ、今度は横にスライドする。そこに狭い階段が見えた。
綾鷹がペンライトを灯す。
「こんなところに……」
隠し部屋はそれぞれ違う方法で入室するようになっているらしい。
「ドアを見つけるのも至難の業だったでしょうね?」
「ここに君が連れ込まれた二年ほど前から地道にね」
乙女は早々に『完敗』宣言する。
「なら、こんな短時間に私が見つけられるわけないじゃないですか」
ちょっと非難めいた乙女の視線に綾鷹がシレッと答える。
「君は作家さんだから」
「ジャンルが違います!」
乙女はプリプリしながらも階段を降りる。ここにも窓はない。
「ちょうど本棚の裏に当たる。ここにはマジックミラーはないが……」
綾鷹が蝶番のようなものを右にスライドさせると、直径五センチほどの丸い覗き窓が現れる。
「この穴から図書室が覗けるようになっている。穴は二十箇所あった」
そう言って綾鷹は次々に蝶番を外してスライドさせていく。
穴から差し込む光が真っ暗な隠し部屋を照らす。
「意外に広い空間ですね」
辺りを見回した乙女が、「えっ!」と一点に目を止めた。
「気付いたみたいだね」
気付いて然りだ。
「あれって……」
部屋の隅に二人掛けのテーブルと二脚の椅子、そして、冷蔵庫、スタンド式の照明、扇風機、電気ストーブ……引きこもり生活が送れる最低の生活必需品が揃っていた。
だが、乙女の気付いたのはそこではない。
「私が欲しかった最新式のミニ冷蔵庫だ! 小さいのにとても便利な奴なんですよ。ほら見て下さい。この青いボタンでクラッシュアイス、赤いボタンで炭酸水、白いボタンで冷水が出てくるんです。それもミネラル水ですよ!」
「使い方は簡単。水道水を所定のポットにセットするだけ」と興奮気味に話す姿は家電芸人のようだ。
「――あれ? ちょっと待って下さい」
だが、ようやく肝心なことに気付いたようだ。
「このミニ冷蔵庫が発売されたのは今年になってですよ」
「そういうこと」
綾鷹がニッと笑う。
「誰が隠し部屋にそれを運び込んだか……言わずと知れているよね?」
「――鏡卿……?」
「そう」と綾鷹が頷く。
「大人が一人で運べないものでもないだろうが、協力者がいたとしたら、『御前』と呼ばれる手の内の者だろう」
黒棘先?
「ということは、鏡卿がここに潜伏していたとしてですよ、今はどこにいるのですか?」
「捜査が入る前、君が助け出された時には抜け出していた」
「その証拠に」と言いながら冷蔵庫を開ける。中は空っぽだった。
「おそらく捜査が入ることを事前に予測していたのだろうね」
「本当に鏡卿って天才なんですね」
「ああ、怖い人だ」
「だから」といきなり綾鷹が両手で乙女の両肩を掴む。
「絶対に無茶なことをしないで欲しい!」
真摯な瞳が『心配だ』と言っている。
「鏡卿の思惑が分からない今、私たちに打つ手がない。ただ、一度拐かされた君を放っておくはずがないと携わる者たち全員が感じている」
だからボディーガードが……と乙女は納得する。
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