恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十一章 哀しき人々

1.

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「化け物屋敷の中はどんなでしたか?」

 ミミは渋面で問いながらも、「綾鷹様も何だって私が留守中に……お嬢様に何かあったら……」とブチブチと文句を並べる。

「そんなこと言われても……万が一、ミミがいたとしても、現場検証よ。絶対に阻止出来なかっと思うわ」
「ですが、私は桜小路家から『くれぐれも乙女を頼む』とお願いされた身。この身に代えても乙女様を守らねば!」
「――ミミ、命を粗末にしてはいけないわ」

 乙女が首を左右に振ると、「ですが!」とミミが反論する。だが、人差し指を自分の唇に当て、乙女はそれを静かに制する。

「私のためなら尚更。喩え私のためだったとしても、ミミが命を落とすようなことがあったら私も自害します!」

 その目が真剣だと訴える。
 確かに、とミミは思う。表面上、乙女は何事にも動じない強い女を演じているが、実は脆い。犠牲となってこの世から去ったら……生きてはいないだろう。

「承知しました。ですが、私よりも乙女様です。無茶な行動はお慎み下さい。私だって乙女様に何かあったら……」

 蛇に睨まれた蛙のように、ミミの迫力ある視線に射貫かれた乙女はピキンと固まる。
 こういうのをやぶ蛇というのだろうかと、乙女は機械仕掛けの人形のようにコクコクと不自然な動きで頷く。

「お分かりなら結構です……で、化け物屋敷はどうでした?」

 打って変わって興味津々の瞳が乙女を見る。

「それがね……」




 ミミから根掘り葉掘り聞かれた数日後、仕事で邸を空けていた綾鷹が四日ぶりに帰宅した。
「おかえ……」の続きの言葉は「乙女!」と抱き付く綾鷹の言葉に遮られる。

「良い子にしていたかい?」

 頭上から聞こえる綾鷹の声は相変わらず艶っぽい。
『良い子』とは子供のようだが、綾鷹の心配が見て取れたので乙女は何も言わず素直に頷いた。
 乙女の返答に気を良くしたのだろう、綾鷹は「土産がある」とポケットから長方形の箱を取り出し、跳ね上げ式の蓋を開けた。

「ネックレス?」

 だが、そう呟いた瞬間、乙女は目を見張った。
 確かに、白いベルベット地の上にあるのは乙女が思った通りネックレスだった。だが、金色に輝く鎖中央部分に見たこともない大きな石があった。石の周りには小粒のダイヤが散りばめられていた。
 この石……蒼玉だろうか? 女々が身に付けていた宝石の一つを思い出す。それによく似ていた。だが、こちらの方が数倍豪華だ。
 綾鷹が箱からそれを取り出す。

「綺麗……」

 日を浴びた宝石がさらに美しく煌めく。

「北之国で採れるスターサファイアというものだ」

「こうやって光に当てると……」とペンダントを天に向かって掲げると陽にかざす。

「あっ、六条の光が!」
「星みたいだろ? とても稀少で貴重な石だそうだ」
「そんな珍しいものを……私に?」

 殿方から宝石など贈られたことのない乙女は戸惑う。

「そう、君に。似合うと思ってね」と乙女の耳元で綾鷹が甘く囁く。
「着けてあげよう」

 乙女の腰に回していた腕を解き、乙女をクルッと半回転させ、背後から肩越しに腕を回しそれを着ける。

「やはり、君にはブルーがよく似合う」

 乙女の顔を肩越しに覗き込みながら綾鷹が言う。

「あの……ありがとうございます」

 礼を述べながら乙女は胸元に揺れるネックレスを見つめ、『ブルーが似合う』の言葉に、きっとミミに聞いたのだろう、と口元を綻ばす。
 綾鷹は背後から乙女を抱き締めながら、深い息を吐く。

「やっと安心できた。気が気でならなかった。留守の間にまた何かあったらと……」

 乙女を抱き締める腕に力が入る。

「ご心配は無用です! お約束はしっかり守っていました」

 照れ隠しに乙女が力強く言うと、「そうみたいだね」と綾鷹がクスッと笑い、ネックレスに手を添え言う。

「約束して欲しい。これをひとときも放さないと」

 切願するような綾鷹の口ぶりに、乙女は「お風呂もですか?」と場違いに思える質問をする。「嗚呼」と笑いを堪え肩を震わせながら綾鷹が返事をする。

「何があってもだ」

 劣化したりしないのだろうかと心配そうにする乙女に、綾鷹が安心させるように言う。

「万が一、何かあっても保証書がある。ちゃんと元通りにしてくれる」

 綾鷹の顔は見えないが、何となく何か隠しているように乙女には思えた。だが、それが何であっても『ひとときも外さない』というのが綾鷹の願いなら……。
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