恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十一章 哀しき人々

3.

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「拐かしの件は謝っても謝りきれないわ」

 吹雪が深々と頭を下げる。

「化け物屋敷の噂、知っているわよね?」

 それを調べていたらしい。その中で龍弥は蘭丸と知り合ったようだ。

「その件からとんだ大物が引っかかっちゃって……」

 大物とは黒棘先のことだと言う。

「でも、まさか拐かす相手が貴女だったなんて……」

 青天の霹靂だったらしい。当然のことだ。吹雪に綾鷹の件も花嫁修業の件も伝えていなかったのだから。

「拐かしの件は……」
「知っていたわ」

「でも……」と吹雪は目を伏せる。長い睫毛が吹雪の表情を隠す。

「敢えて止めなかった。取材のためにね……」

 反省しているようだが、その声に後悔の色は混じっていない。

「私もジャーナリストの端くれ、大物が引っかかると思えば……少しぐらいの犠牲は厭わないわ――最低の人間でしょう、私って」

 そう言って苦笑するが……やはり苦渋の選択だったのだろう。それでも……。

「犠牲となったのが私だったから良かったと思います。でも、万が一、他の誰かだったら……私、貴女を殴っていたと思います」

 言うべきことは言っておかなくては、と乙女はキツク吹雪を睨み付けた。

「いいえ、それが誰であろうと、殴ってくれて構わないわ。気が済むまで」

 顔を上げた吹雪が毅然と言う。
「いいえ」と乙女は首を横に振る。

「それより情報を全て国家親衛隊に開示して下さい」

 吹雪の眉間に皺が寄る。

「せっかく手に入れたのに、それを流せと……」
「そうです」

 吹雪は目を閉じると少し考え、ふーっと大きく息を吐き出し、目を開けると乙女を見つめた。

「条件を飲んでくれたら応じるわ」
「条件?」
「荒立龍弥を罪に問わない。話をするのは梅大路綾鷹のみ。出版社“蒼い炎”に今後一切付き纏わない。この三つよ。そう彼に伝えて。貴女の未来の旦那様に!」
「みっ未来の……って」

 湯気が上がりそうなほど真っ赤になった乙女を見ながら吹雪がクスクス笑い始める。

「何を今さら。全部知っていると言ったはずよ」

 微笑みと共に妖しげな魅力を醸し出す吹雪に乙女は見惚れる。服装を見なければ吹雪は本当に美しい女性だ。

「訊いてもいいですか?」
「何を?」

 吹雪がサクッと和風春巻きを頬張る。

「どうして男装するのですか?」
「あらっ、これも美味しいわ。乙女も温かいうちにお食べなさい」

 吹雪は答えず、サクサクと和風春巻きを食べ続ける。

「だからですね!」

 一本目を食べ切った吹雪に、痺れを切らせた乙女が再度尋ねる。

「その理由を言ったとして、私にどんな利があるの?」

 吹雪が静かに尋ね返す。
 利? そんなのない。グッと喉を詰まらせる乙女に吹雪が言う。

「興味本位の質問に、答える義務はないわ」
「ちっ違います! どう答えたらいいか迷っただけです」

 背筋を伸ばした乙女の真摯な瞳が吹雪を見つめる。

「――私、本当に黄桜編集長には感謝しているんです」
「そう?」
「黄桜編集長もご存じですよね? 国家親衛隊が編集社を……貴女を監視していることを」

「当然」と吹雪が頷く。

「私、イヤなんです! 万が一、黄桜編集長が捕まったりしたら、編集社が潰れるようなことがあったら……だから、男装などして目立って欲しくないのです」

 堪えきれず乙女の瞳から一粒涙が零れ落ちる。
「あらあら」と吹雪の顔が和らぐ。

「いろいろ心配をかけていたようね」

 吹雪がフフッと微笑む。

「そうよね、これじゃあ悪目立ちね。でも……これは私の心を正直に表現した姿なの」

 グスッと鼻を鳴らして乙女はハテナ顔になる。

「意味が分かりません」
「当然よね」

 手に持つ湯飲みをコトンとテーブルに置き、吹雪はフーッと息を吐き出した。そして、意を決したように言う。

「私は心が男性なの」
「はい?」

 益々意味が分からない乙女はキョトンと吹雪を見る。

「本当に乙女は可愛いわね。でも、ごめんね、私の対象はどちらかと言えばもう少し女性らしい躰つきの子なの」

 乙女の喉がゴクリと鳴る。

「まっ、まさか……黄桜編集長ってレズだったのですか!」

「しっ!」と吹雪が唇に人差し指を当て、「大声を出さないで」と注意する。

「とっくの昔に気付いていると思っていたのに……本当、乙女ってウブね」

 いやいやいやと乙女は心の中で絶叫する。
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