恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十二章 対決

3.

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「貴女、お爺様を呼び捨てって失礼な人ね!」

 失礼も何もない。そんな危険人物までここにいたなんて……と乙女は今さらながらこの現状を後悔する。

「あらっ、ようやく期待通りの反応を見せたわね」

 乙女の顔色が変わったのを目にした途端、蘭子は満足そうに微笑みを浮かべた。

「まっ、そういう訳だから早く立ち上がって進んで頂戴」

 ほらほら、というように蘭子が足で乙女を軽く蹴る。

「ちょっと、止めて下さい。足癖が悪いですね!」

 仕方なく乙女は立ち上がった。

「私とは偶然に会ったんですよね? なのに、準備万端じゃないですか」
「今日は偶然だったけど、貴女をそのままにするわけないじゃない」

 ――ということは、「私を亡き者にでもしようと思っていたわけ?」足を進めながら乙女はチラッと蘭子を見る。自分の思い通りの展開が嬉しいのかとても楽しそうだ。

「察しがいいわね。その通りよ。私たちの計画に貴女は邪魔だもの。この後、利用価値が無くなったら始末するにと思うわ?」

 蘭子の右手が首を真横に切る真似をする。『処刑』という意味だろう。

「最低ですね。人の命を何だと思っているんですか?」

 乙女の問いに蘭子はフンと鼻で笑うと「人?」と言って吹き出した。

「我が一族にとって人とは公爵以上の者だけ。貴女のような貧乏伯爵の娘なんて虫けらもいいところだわ」

「貴女のところは、元は男爵家だったのでは? 我が家以下でしたよね?」

 そう乙女が言い返すと、蘭子は「過去は過去」と吐き捨てる。

「我が一族はこの国を治めるに値する価値ある一族なの。だから、綾鷹様のことは諦めなさい」
「綾鷹様に執着するのは彼を愛しているからじゃないのですか?」
「愛?」

 あははと蘭子が声を上げて笑う。

「そんなまやかしの世界を信じているの?」
「愛がまやかしですか?」

 蘭子はさらに声高く笑う。

「この国の結婚は婚ピューターによって決められるのよ」
「でも、それを改ざんしているんですよね?」

「ちょっと!」と蘭子が後ろから乙女の肩を掴む。

「それどういうことよ!」

 驚いたような蘭子の顔を目にして、乙女は芝居ではなさそうだと思う。

「ご存じではなかったのですか?」
「何を?」
「お見合いの相手が人間の手で操作されているのをです」
「そんなの嘘よ! 私の相手は綾鷹様よ」

 ああ、と乙女は気付く。さっきはああ言ったが、蘭子は綾鷹のことが好きなのだと。でも、自分では気付いていないのだと。

「その様子では蘭子さん、貴女は改ざんにはかかわっていなかったのね?」
「その口ぶり、我が一族が関与しているとでも言うの?」

 怒りで血走った瞳が乙女を睨み付ける。

「関与ではなく首謀者です。黒棘先一族が世の中を滅茶苦茶にしているのです」
「そこまでだ」

 突然第三者の声が聞こえ、乙女も蘭子も息を呑む。

「お爺様!」

 ゆっくり近付いて来る人物は、杖をついてはいるが威圧感たっぷりの老人だった。

「この人が黒棘先夜支路……」
「蘭子、お客様と立ち話とは行儀が悪いよ。さぁ、こちらへ」

 丁寧な言葉遣いだが、それが余計に不気味に思え、乙女の背筋に厭な汗が流れる。

「ほら、お爺様がああおっしゃっているのよ、早く行って!」

 蘭子に背中を押され、乙女は再び歩みを進める。

「――ここは?」

 薄暗い横穴の到着地点はシルバーの扉だった。それを夜支路が開ける。途端に眩しい光が乙女の視界を奪った。咄嗟に閉じた目をゆっくり開けた乙女は目を見張る。そこは白い明かりに包まれたコンピューターだらけの部屋だった。

「何、ここ?」
「突っ立っていないで入りなさい」

 夜支路の指示に従い、蘭子が乙女の背中をドンと押す。

「蘭子、ご苦労だったね」

 労いの言葉に蘭子の顔が見たこともないほど嬉しそうな笑顔になる。
 蘭子は夜支路が大好きなのだろうと乙女は思う。

「桜小路乙女さんだね? ごきげんよう、黒棘先夜支路だ」

 改めて挨拶を済ますと、「失礼して座らせてもらうよ」と部屋の一角にある応接セットに歩みを進め、ブラックレザーの椅子に腰を沈める。
 ここが彼の定位置なのか実にしっくりくる光景だと乙女が眺めていると、「君たちも座りなさい」とローテーブルを挟んだ向かいのソファーを指差す。
「ほら」蘭子が乙女の腕を引き、自分の横に乙女を座らせた。
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