【完結】つやめきの半妖には抗えない

いなば海羽丸

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半妖の千里~衛人~(1-4)

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「……よし」

 なるべく音がしないように、抜き足、差し足、忍び足で、玄関口までたどり着き、鍵を取り出す。ガチャ、と音がして、鍵が開いた。緊張と恐怖で心臓がバクバクと高鳴って、今にも吐きそうだ。だが、もう一度。生唾なまつばをごくん、と飲んで、戸口に手を掛け、息を吸いこむ。

「うぉらぁああーーーッ!」

 声のボリュームを最大にして叫び、玄関の戸を勢いよく開ける。こんな山奥で、一番近いご近所さんの家も数キロ先。屋根すら見えないのだから、これしきの奇声を発したところで、誰かに通報されることもない。こういうところだけは、田舎町は都合がいい。

 家の中は、しん、と静まり返っていて、物音ひとつしなかった。しかし、さっきの人影を見たせいで、その静寂が余計に恐ろしく思えてくる。

「っしゃあ、おらぁあああッ!」

 傘を肩にかつぎ、もう一度、奇声を上げる。それから靴を脱いで、家の中に入った。扉は開けたままにしておいて、いつでも逃げられる状態にしておく。まずは窓が開いている客間からチェックが必要だ。衛人は玄関から入ってすぐ左横の客間をのぞいた。だが、そこは窓が開いているだけで異常は見られない。

「よし、クリア……!」

 次は居間だ。さっき昭和ガラスの向こうに見えた人影は、間違いなく居間の窓だった。間違いない。居間をのぞいて、誰もいなければ、人影は気のせいだったか、この世のものではなかった可能性が高くなる。後者だった場合、それはそれで気味が悪いが、生きている不審者やクマよりはずっといい。だが、そう思った時。衛人はとんでもないことに気付き、ヒュッと息をみ込んだ。

 ちょっと待った……。なんでさっき、気付かなかったんだ……。あの窓が見えてるってことは、つまり、あそこの雨戸が開いてるってことじゃないか……。

 たちまち、血の気が引いていく。そうなのだ。居間の窓は、雨戸が閉まれば外からは全く見えないようになっている。しばらくここへ来ていなかったので忘れていたが、外側からあの窓が見えているのはおかしい。

 衛人はまた、生唾なまつばを飲み込んだ。そうして、傘をかつぎ、居間を想像する。この扉を開けて、そこにいる何者かを想像し、さらに対処を考えた。だが、この静けさから考えるに、すでにクマの可能性は消えている。クマほどの動物がいれば、さっき奇声を発したときになにかしらの反応があるはずだ。しかし、なかった。つまり――。

 人間かもしれない……。

 やはり泥棒だろうか。そう予想して、衛人は居間の引き戸に手をかける。そうして、さっきと同様に静かに息を吸って、渾身こんしんの力を込めてそこを開けた。

「おらぁああああッ!」
「ぎゃあああああッ!」

 怒鳴り声で叫んだあと、ほんのゼロコンマ数秒後に聞こえた悲鳴を聞いて、咄嗟とっさに傘の先を向ける。するどく尖った先端を向けた先は、畳の居間のすみ。そこには誰かがいる。小さくなってしゃがみ、肩を丸め、耳を抑えている、誰かが。

「す……、すみません……ッ、ごめんなさい……、ごめんなさい!」

 声から察するに男だった。男は浴衣姿で、小さく丸まったまま、ひたすらに謝っている。それを見て、衛人はまゆをしかめた。どうやら、相手に戦闘の意志はないようで安心したが、それにしても妙だ。彼がどこの誰なのか知らないが、ここにいるのは絶対におかしい。不法侵入者だ。

「あんた、誰だよ。ここでなにやってんの」

 衛人はたずねる。緊張と恐怖で、わずかに語尾がふるえたが、どうでもよかった。今、目の前にいる男が何者なのか。それをまず、確かめたかったのだ。

「すみません……、ほんとに、すみません……!」
「いや、すみませんじゃなくてさ。あんたは誰だって聞いてんだよ。答えろ」

 口にしてから、これだけ怖がって謝罪している相手に対して、あまりに高圧的になってしまった――と、ほんの少し反省する。だが、それでも。彼が今、不法侵入していることに変わりはない。そもそも、怖い思いをさせられたのはこっちだ。

「あのさ。ここ、俺のじいちゃんちなのね。あんた、じいちゃんの知り合い?」
「い、いえ……」

 それを聞くなり、苛立いらだった。徳治の知り合いでもないのに、なぜ、この家に勝手に上がり込んでいるのだろう。理由によっては、衛人は至急、この男を警察に突き出さなければならない。ここまでの会話から考えても、彼はどう見たって怪しい。だが――。

「あの、僕は――……」

 そう言いかけて、男が顔を上げた瞬間。衛人は目をみはった。薄暗い部屋の中でも十分にわかってしまうほど、その男は容姿が整っていた。髪が長いせいか、まるで俳優か、モデルのような華やかさがある。
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