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なつかしの再会~千里~(7-1)
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衛人の愛車の助手席で揺られながら、千里は薄明るくなってきた空をぼんやりと見つめる。妖力を吸い取られたせいだろうか。頭がやけに重く、気分がまったく晴れなかった。昨日、この車に乗ったときは、衛人とのドライブが楽しくてたまらず、心は躍り、目に映るものがなにもかも美しく見えたのに、今はなにを見ても、感情が淀みに囚われてしまったように、沈んでいる。
無事に九尾へのあいさつを済ませて、彼の縄張りに住まわせてもらえることになった暁には、もっと安心感を得るはずだったのに、千里は今、ひどい不安と絶望感に襲われていた。もし、レンの言っていた通りだとして、千里にこのまま妖力が戻らなければ、最悪の場合、この体は消滅してしまうかもしれない。しかも、千里にはこの体があとどのくらい持つのか、それすらわからないのだ。
消滅するって、どんな感じなんだろう。死ぬっていうのとは……、違うのかな……。
「千里」
信号待ちで停車したとき。不意に衛人に呼ばれて、ドキッとさせられる。やけに落ち着いた声だった。千里は、このあときっと叱られるのだろうと、心の準備をしながら、おそるおそる返事をした。
「はい……」
「今度から、黙って出てくの禁止な」
「す、すみませんでした……」
やっぱり叱られてしまった、としょぼくれて、背中を丸めてうつむいた。だが、次の瞬間。千里の頭の上には、温かな手が乗った。直後、髪をくしゃ、と撫でられる。とても、優しい手つきだった。
「もう謝らなくていいから。俺はなにも、怒ってるわけじゃないんだよ」
「そうなんですか……? でも……」
「ただ、死ぬほど心配したし、千里が俺を嫌になって出てっちゃったのかと思って……、めちゃくちゃ焦った。もう会えないかもしれないとか、いっぱい考えてさ……」
「そんな……、衛人さんのこと嫌になるなんて、僕は絶対あり得ませんから……」
「でも、わかんないじゃん。俺は千里みたいに相手の気持ちを読んだりはできないし……、千里が本当はどう思ってるか、確かめようがないからさ」
衛人の言葉にハッとする。心配をかけただけではない。千里の行動は、衛人を不安にさせ、動揺させ、傷つけてしまったのだと気付かされる。冷静になってみれば、当然だ。千里は衛人になんの相談もしないで、九尾のもとへあいさつに向かった。だが、衛人からすれば、それはただ、なにも言わずにいなくなった、というだけ。きっと、それでも彼は、千里の行動を察して、車をすっ飛ばして、九尾狐神社まで、千里を探しにきてくれたに違いなかった。
「本当にごめんなさい……」
「いいって。ただ、ほんとに約束して。これから先、今回みたいなことがあったら、必ず俺に相談してほしい」
「はい……」
「ひとりで行かなくちゃいけないってときでも、話してくれれば、俺もわかるから。せめて、千里が帰ってくるのを大人しく待てるだろ」
千里はぱちぱち、と瞬きをしてから、ひょいと目を逸らす。ひとりで行かなければならないとき、衛人に話したとしても、彼が納得して、家で大人しく待っていてくれるとは到底思えなかった。だが、彼が千里を大切に思ってくれる、その気持ちは強く伝わってくる。それが途方もなく嬉しくて、千里の胸の奥はじんわりと温かくなっていった。
嬉しい……。
「千里ー、約束できそう?」
「はい……、約束します……」
「よし」
ほどなくして、信号が青に変わると、衛人は再び車を走らせた。自宅へ到着し、いつもの駐車スペースに車を停めると、彼はすぐに運転席から出てきて、助手席の扉を開けてくれる。そうして、まだふらつく千里に、肩を貸し、体を支えてくれた。
「いいよ、俺に体重かけな」
「本当にすみません……」
「もう謝んなって。おぶろうか?」
「だ、だいじょぶ、です……。たぶん……」
正直なところ、今も体には力が入らず、ただこうして、庭先から家へ入るまでの、わずかな距離を歩くのもやっとだった。だが、さっき衛人におぶられたとき、太ももの内側を触れられたのが恥ずかしくてたまらなくて、とてもじゃないが「おんぶしてください」なんて頼めない。今、思い出しても、火を噴きそうなほどに顔が熱くなる。衛人がそんなつもりではなくても、彼に惹かれている千里としては、あらぬ妄想をするには十分だった。
衛人さんに触られたところ、感触……、まだ残ってる……。
「千里、とりあえず少し横になって休んでな。いつ頃出てったのか知らないけど、ろくに寝てないんだろうから」
「はい……」
「朝ごはん、できたら呼ぶからな」
優しい声で慰められるような口調で言われて、もう最後には声が出なくなった。嬉しくて、衛人への想いが溢れてしまいそうで、けれど、妖力がなくなったせいで、病人のようになってしまった自分がひどく情けなくて、わずかでも声を出したら、もう今にも泣きだしてしまいそうだった。
千里は黙ったまま、こく、と頷く。そうして、衛人に支えてもらいながら、まだ布団を敷いたままの寝室へ行って、そこに横になった。
無事に九尾へのあいさつを済ませて、彼の縄張りに住まわせてもらえることになった暁には、もっと安心感を得るはずだったのに、千里は今、ひどい不安と絶望感に襲われていた。もし、レンの言っていた通りだとして、千里にこのまま妖力が戻らなければ、最悪の場合、この体は消滅してしまうかもしれない。しかも、千里にはこの体があとどのくらい持つのか、それすらわからないのだ。
消滅するって、どんな感じなんだろう。死ぬっていうのとは……、違うのかな……。
「千里」
信号待ちで停車したとき。不意に衛人に呼ばれて、ドキッとさせられる。やけに落ち着いた声だった。千里は、このあときっと叱られるのだろうと、心の準備をしながら、おそるおそる返事をした。
「はい……」
「今度から、黙って出てくの禁止な」
「す、すみませんでした……」
やっぱり叱られてしまった、としょぼくれて、背中を丸めてうつむいた。だが、次の瞬間。千里の頭の上には、温かな手が乗った。直後、髪をくしゃ、と撫でられる。とても、優しい手つきだった。
「もう謝らなくていいから。俺はなにも、怒ってるわけじゃないんだよ」
「そうなんですか……? でも……」
「ただ、死ぬほど心配したし、千里が俺を嫌になって出てっちゃったのかと思って……、めちゃくちゃ焦った。もう会えないかもしれないとか、いっぱい考えてさ……」
「そんな……、衛人さんのこと嫌になるなんて、僕は絶対あり得ませんから……」
「でも、わかんないじゃん。俺は千里みたいに相手の気持ちを読んだりはできないし……、千里が本当はどう思ってるか、確かめようがないからさ」
衛人の言葉にハッとする。心配をかけただけではない。千里の行動は、衛人を不安にさせ、動揺させ、傷つけてしまったのだと気付かされる。冷静になってみれば、当然だ。千里は衛人になんの相談もしないで、九尾のもとへあいさつに向かった。だが、衛人からすれば、それはただ、なにも言わずにいなくなった、というだけ。きっと、それでも彼は、千里の行動を察して、車をすっ飛ばして、九尾狐神社まで、千里を探しにきてくれたに違いなかった。
「本当にごめんなさい……」
「いいって。ただ、ほんとに約束して。これから先、今回みたいなことがあったら、必ず俺に相談してほしい」
「はい……」
「ひとりで行かなくちゃいけないってときでも、話してくれれば、俺もわかるから。せめて、千里が帰ってくるのを大人しく待てるだろ」
千里はぱちぱち、と瞬きをしてから、ひょいと目を逸らす。ひとりで行かなければならないとき、衛人に話したとしても、彼が納得して、家で大人しく待っていてくれるとは到底思えなかった。だが、彼が千里を大切に思ってくれる、その気持ちは強く伝わってくる。それが途方もなく嬉しくて、千里の胸の奥はじんわりと温かくなっていった。
嬉しい……。
「千里ー、約束できそう?」
「はい……、約束します……」
「よし」
ほどなくして、信号が青に変わると、衛人は再び車を走らせた。自宅へ到着し、いつもの駐車スペースに車を停めると、彼はすぐに運転席から出てきて、助手席の扉を開けてくれる。そうして、まだふらつく千里に、肩を貸し、体を支えてくれた。
「いいよ、俺に体重かけな」
「本当にすみません……」
「もう謝んなって。おぶろうか?」
「だ、だいじょぶ、です……。たぶん……」
正直なところ、今も体には力が入らず、ただこうして、庭先から家へ入るまでの、わずかな距離を歩くのもやっとだった。だが、さっき衛人におぶられたとき、太ももの内側を触れられたのが恥ずかしくてたまらなくて、とてもじゃないが「おんぶしてください」なんて頼めない。今、思い出しても、火を噴きそうなほどに顔が熱くなる。衛人がそんなつもりではなくても、彼に惹かれている千里としては、あらぬ妄想をするには十分だった。
衛人さんに触られたところ、感触……、まだ残ってる……。
「千里、とりあえず少し横になって休んでな。いつ頃出てったのか知らないけど、ろくに寝てないんだろうから」
「はい……」
「朝ごはん、できたら呼ぶからな」
優しい声で慰められるような口調で言われて、もう最後には声が出なくなった。嬉しくて、衛人への想いが溢れてしまいそうで、けれど、妖力がなくなったせいで、病人のようになってしまった自分がひどく情けなくて、わずかでも声を出したら、もう今にも泣きだしてしまいそうだった。
千里は黙ったまま、こく、と頷く。そうして、衛人に支えてもらいながら、まだ布団を敷いたままの寝室へ行って、そこに横になった。
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