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伴侶になりたい~千里~(10-2)
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「力が……、戻ってきた感じがします!」
「そっか、よかったなぁ……!」
衛人はそう言って、嬉しそうに笑みをこぼし、安堵のため息を吐く。千里はその場に正座をすると、衛人に向かって、額が縁側の床に擦れるほど深くまで、頭を下げた。
「本当にありがとうございます。衛人さんは、僕の命の恩人です」
「いやいや。いいんだよ、気にすんなって……、ほら、頭上げて」
「本当に感謝してもしきれません。妖花も、無事に見つかったんですね。僕、衛人さんが無事に戻られるかどうか、すごく心配で……。九尾さまも、きっと喜んで――……」
「あぁ、うーん……。まぁね……」
妙だった。「九尾さま」と、その名を出した途端、衛人が急に返事を濁して、目を泳がせたのだ。その反応を見れば、彼がなにか隠そうとしていることは、すぐにわかった。
「衛人さん……?」
しばし沈黙が続き、千里は途端に不安感を抱く。衛人の言葉に嘘はない、と信じたくても、衛人の様子にはあまりに違和感があった。
まさか、衛人さん……。自分のことを犠牲にしたんじゃ……。
不穏な予感に、胸がざわついた。千里がこの山で、この家で、衛人とふたりで暮らすために、妖力を九尾に差し出したように、衛人もまた、自分の体の一部か、あるいは命を犠牲にしたのではないか。そう危ぶんだのだ。
「衛人さん、まさか――……」
「衛人どのは、九尾さまにご自分の寿命を差し出されたんだ。千里のためにね」
「……っ」
衝撃が走った。どこからともなく、庭先に現れ、千里の言葉を遮ってそう言ったのは、妖狐のレンだ。なぜ、彼がここにいるのかは知らないが、そんなことはどうでもいい。千里が激しく動揺させられたのは、「衛人どのは九尾さまに、寿命を差し出されたんだ」というレンの言葉だった。まるで、それが事実だと裏付けるかのように、衛人はがっくりと肩を落とし、目を瞑っている。
「だぁー……。もう、レンさぁ……」
「なにか?」
「ちゃんと順を追って説明しないと、千里がショック受けちゃうだろうよ」
「ですが……、事実です」
「そうなんだけど!」
それが事実だなんて、信じたくない。だが、衛人の反応を見て、言葉を聞けば一目瞭然。それがレンの戯言ではないと思い知らされる。――とはいえ、衛人は家を出るとき、寿命を差し出すなんてひと言も話していなかった。絶句した千里を見て、衛人は慌てて説明をはじめる。
「せ、千里……、あのな、これには理由があるんだ。九尾さまは、妖花を喜んではくれたんだけど、それじゃ足りなくって――……」
「そんな……」
妖花じゃ足りなかった。だから、衛人は自分を犠牲にした。すべては、千里の妖力を取り戻すために。それが事実なのだろう。
「衛人さん……、そんな……。そんなこと……」
「千里……」
「ごめ……、なさい……」
気付けば、ぼろぼろと涙がこぼれて止まらなくなっていた。千里の頬はぐっしょりと濡れて、頬を伝う涙を拭うことも忘れて、ただ、どこでもない宙を見つめることしかできなかった。すると、途端に。千里は衛人の胸に抱き寄せられ、彼の温もりに包まれる。
「千里、大丈夫だから落ち着いて。俺の話、聞いてくれる……?」
抱きしめられて、余計に涙が止まらなくなった。怖くて、不安で、頷くこともできない。ただ、悲しくて、苦しかった。千里のために、衛人が自分の命を犠牲にしてしまったなんて、こんなに悲しいことがあるだろうか。千里は嗚咽を漏らしながら、これまでの自分を激しく悔いた。
僕のせいだ……。全部、僕の……。
九尾が供物を欲しがったとき、千里が安易に判断をしなければ、こんなことにはならなかった。衛人を犠牲にしてしまったのは、すべて千里のせいだ。千里はそう思わずにいられない。
「衛人さん……、ごめんなさい……。本当にごめ、なさい……」
「大丈夫。大丈夫なんだよ、千里……」
衛人にどんなに優しく宥められても、悲しさが溢れて、胸が苦しくなっていく。それからほどなくして、衛人が言った。
「悪いけど……、タヌキ、レン……。ちょっとだけ、千里とふたりきりにさせてくれないかな……」
衛人がそう言ったあと、タヌキとレンが短く返事をして、静かにその場を立ち去る。やがて縁側にふたりきりになると、衛人は千里を抱きしめたまま、穏やかな口調で、ゆっくりと話し始めた。
***
「千里……、いいか。俺が大丈夫って言ったら、大丈夫なんだ。だから、とりあえずもう泣くな。な?」
「で、でも……」
「九尾さまは優しかったよ。俺に、千里を大事に暮らせって、そう言ってくれた」
「へ――……?」
衛人は話してくれた。妖花は、那須の山奥、ムクの木の下で見つけたこと。衛人はタヌキのアドバイスを聞いて、根っこごとそれを採り、ちょうどそこで、レンに会ったこと。
「レンは案外、悪いヤツじゃない。まったく気は利かねえみたいだけど、アイツ、九尾さまのところまで、道案内をしてくれたんだ。帰りも、俺とタヌキを見送ってくれた」
「そうだったんですか……」
「それにあいつら、タヌキがまだ生きてた頃から付き合いがあったみたいでさ。その頃、まだレンは修行中だったんだって。もしかしたら、あいつら、じゃれ合って遊んでたりしたのかもな」
それには驚いた。同時にハッとする。はじめて、この家にレンがやってきたとき、彼は勝手に家に上がろうとしていたが、あれはもしかしたら、タヌキを探していたのかもしれない。それを思うと、たしかに。あの意地悪な印象しかなかったレンのことも、ちょっとだけ好ましく思えてくる。だが――。
「そうだとしても……、勝手に人のお家に入っちゃだめです……」
そう口を尖らせると、衛人は耳元でくくく……っ、と笑った。きっと、どの口が言うか、とでも思っているのかもしれない。
「そっか、よかったなぁ……!」
衛人はそう言って、嬉しそうに笑みをこぼし、安堵のため息を吐く。千里はその場に正座をすると、衛人に向かって、額が縁側の床に擦れるほど深くまで、頭を下げた。
「本当にありがとうございます。衛人さんは、僕の命の恩人です」
「いやいや。いいんだよ、気にすんなって……、ほら、頭上げて」
「本当に感謝してもしきれません。妖花も、無事に見つかったんですね。僕、衛人さんが無事に戻られるかどうか、すごく心配で……。九尾さまも、きっと喜んで――……」
「あぁ、うーん……。まぁね……」
妙だった。「九尾さま」と、その名を出した途端、衛人が急に返事を濁して、目を泳がせたのだ。その反応を見れば、彼がなにか隠そうとしていることは、すぐにわかった。
「衛人さん……?」
しばし沈黙が続き、千里は途端に不安感を抱く。衛人の言葉に嘘はない、と信じたくても、衛人の様子にはあまりに違和感があった。
まさか、衛人さん……。自分のことを犠牲にしたんじゃ……。
不穏な予感に、胸がざわついた。千里がこの山で、この家で、衛人とふたりで暮らすために、妖力を九尾に差し出したように、衛人もまた、自分の体の一部か、あるいは命を犠牲にしたのではないか。そう危ぶんだのだ。
「衛人さん、まさか――……」
「衛人どのは、九尾さまにご自分の寿命を差し出されたんだ。千里のためにね」
「……っ」
衝撃が走った。どこからともなく、庭先に現れ、千里の言葉を遮ってそう言ったのは、妖狐のレンだ。なぜ、彼がここにいるのかは知らないが、そんなことはどうでもいい。千里が激しく動揺させられたのは、「衛人どのは九尾さまに、寿命を差し出されたんだ」というレンの言葉だった。まるで、それが事実だと裏付けるかのように、衛人はがっくりと肩を落とし、目を瞑っている。
「だぁー……。もう、レンさぁ……」
「なにか?」
「ちゃんと順を追って説明しないと、千里がショック受けちゃうだろうよ」
「ですが……、事実です」
「そうなんだけど!」
それが事実だなんて、信じたくない。だが、衛人の反応を見て、言葉を聞けば一目瞭然。それがレンの戯言ではないと思い知らされる。――とはいえ、衛人は家を出るとき、寿命を差し出すなんてひと言も話していなかった。絶句した千里を見て、衛人は慌てて説明をはじめる。
「せ、千里……、あのな、これには理由があるんだ。九尾さまは、妖花を喜んではくれたんだけど、それじゃ足りなくって――……」
「そんな……」
妖花じゃ足りなかった。だから、衛人は自分を犠牲にした。すべては、千里の妖力を取り戻すために。それが事実なのだろう。
「衛人さん……、そんな……。そんなこと……」
「千里……」
「ごめ……、なさい……」
気付けば、ぼろぼろと涙がこぼれて止まらなくなっていた。千里の頬はぐっしょりと濡れて、頬を伝う涙を拭うことも忘れて、ただ、どこでもない宙を見つめることしかできなかった。すると、途端に。千里は衛人の胸に抱き寄せられ、彼の温もりに包まれる。
「千里、大丈夫だから落ち着いて。俺の話、聞いてくれる……?」
抱きしめられて、余計に涙が止まらなくなった。怖くて、不安で、頷くこともできない。ただ、悲しくて、苦しかった。千里のために、衛人が自分の命を犠牲にしてしまったなんて、こんなに悲しいことがあるだろうか。千里は嗚咽を漏らしながら、これまでの自分を激しく悔いた。
僕のせいだ……。全部、僕の……。
九尾が供物を欲しがったとき、千里が安易に判断をしなければ、こんなことにはならなかった。衛人を犠牲にしてしまったのは、すべて千里のせいだ。千里はそう思わずにいられない。
「衛人さん……、ごめんなさい……。本当にごめ、なさい……」
「大丈夫。大丈夫なんだよ、千里……」
衛人にどんなに優しく宥められても、悲しさが溢れて、胸が苦しくなっていく。それからほどなくして、衛人が言った。
「悪いけど……、タヌキ、レン……。ちょっとだけ、千里とふたりきりにさせてくれないかな……」
衛人がそう言ったあと、タヌキとレンが短く返事をして、静かにその場を立ち去る。やがて縁側にふたりきりになると、衛人は千里を抱きしめたまま、穏やかな口調で、ゆっくりと話し始めた。
***
「千里……、いいか。俺が大丈夫って言ったら、大丈夫なんだ。だから、とりあえずもう泣くな。な?」
「で、でも……」
「九尾さまは優しかったよ。俺に、千里を大事に暮らせって、そう言ってくれた」
「へ――……?」
衛人は話してくれた。妖花は、那須の山奥、ムクの木の下で見つけたこと。衛人はタヌキのアドバイスを聞いて、根っこごとそれを採り、ちょうどそこで、レンに会ったこと。
「レンは案外、悪いヤツじゃない。まったく気は利かねえみたいだけど、アイツ、九尾さまのところまで、道案内をしてくれたんだ。帰りも、俺とタヌキを見送ってくれた」
「そうだったんですか……」
「それにあいつら、タヌキがまだ生きてた頃から付き合いがあったみたいでさ。その頃、まだレンは修行中だったんだって。もしかしたら、あいつら、じゃれ合って遊んでたりしたのかもな」
それには驚いた。同時にハッとする。はじめて、この家にレンがやってきたとき、彼は勝手に家に上がろうとしていたが、あれはもしかしたら、タヌキを探していたのかもしれない。それを思うと、たしかに。あの意地悪な印象しかなかったレンのことも、ちょっとだけ好ましく思えてくる。だが――。
「そうだとしても……、勝手に人のお家に入っちゃだめです……」
そう口を尖らせると、衛人は耳元でくくく……っ、と笑った。きっと、どの口が言うか、とでも思っているのかもしれない。
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