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衛人の覚悟~衛人~(9-5)
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「千里は半妖です。しかも、仙狸――山猫といえば、人の精気を吸い取る妖。伴侶を持てば、千里はその体質上、相手から嫌でも精気を吸い取るようになるはず。人間の精気は彼らにとってみれば、活力剤のようなものですから、それを日常的に摂取して、短命などということはまず考えられません」
「そうなのか……」
「ちなみに……、仙狸という妖の体質、衛人どのはご存知ですか……?」
衛人はタヌキと顔を見合わせてかぶりを振る。千里から多少なりとも聞いてはいるものの、それがすべてではないだろう。タヌキもまた、仙狸の存在にはさほど詳しくないようだった。無理もない。彼は元々、ただの雑種犬だったのだから。そんな衛人とタヌキを見るなり、レンはやれやれ、とばかりに肩をすくめた。
「仙狸という妖は、恋をした相手と伴侶になれば、誰彼構わず不特定多数の人間を誘惑することはなくなります。妖力が伴侶だけに集中して影響するようになり、かつ安定するんです。半妖の千里にもその体質が遺伝していれば、伴侶ができた時点で穏やかに暮らせるようにはなるはずですよ。ただ、おそらく常日頃、精気を欲しがるようにはなると思いますがね」
「精気を……」
精気を欲しがる。――つまり、それはセックスをしたがる、ということだろう。これまでの千里の雰囲気から、性欲をあらわにして、せがむような姿はまったく想像がつかないが、レンは言った。
「わかっているでしょうが、千里はすでに、あなたを欲しがっているはずです」
それを聞いて、ごく、と生唾を飲み、頷いた。たちまち全身が火照っていく。千里の伴侶として、彼に求められていると、衛人は知っている。そして衛人もまた、千里を求めているのだ。この気持ちがまやかしではなく、正真正銘、本気の恋だということに気付き、彼を欲している。
「千里には、濃厚な妖の血が流れています。化け猫のみならず、妖はもともと執着性が強いものですから、一度関係を持てば、解消は難しい。あなたが逃げ出したとて、地獄の底まで追ってくるはずです」
「地獄の底……」
「妖とは、それほど強く結びついてしまうものなのですよ。要するに、千里の伴侶となり、彼と添い遂げるには、揺るがない覚悟と、穢れのない魂がなければならない、ということです。九尾さまが見たかったものは、まさにそれだったのでしょうね」
「俺の……、覚悟か」
衛人は頷いた。千里は半妖で、彼の体には濃い妖の血が流れている。もしかすると、彼にはまだ見ぬ恐ろしい一面があるのかもしれない。それでも、衛人の覚悟は揺るがない。衛人は千里を愛している。
「穢れがないとか、そういうのは俺にはよくわかんないけど……。千里が……、アイツが俺を選んでくれるなら……、俺はとうに覚悟を決めてるよ」
それを聞くと、レンは目を細め、「合格です」とひと言告げた。そうして、石段をひょいひょいと、飛ぶように下りていく。その背中を見つめながら、衛人は思う。まさか――とは思うが、この化け狐のレンも、提灯を持つ小さな化け狐たちも、そして九尾も、はじめから千里と衛人に敵意などなく、部外者だ、不法侵入者だと、爪弾きにするつもりもなかったのではないか、と。だが、そんな衛人の心情を見透かしたように、レンが言った。
「千里は、九尾さまがお認めになった我が同志です。あなたはその伴侶となられる。この山にいて、同志である限り、今後はなにかあれば、我ら、那須山の化け狐の一族総出でご助力いたします」
衛人はひとり、納得した。彼らの動向は、九尾の意思ひとつで決まるということなのだろう。衛人は一度、振り返り、九尾の社に向かって一礼をする。それから、合掌をして、心の中で九尾に告げた。
九尾さま、ありがとう。また来ます。
次は千里を連れて、一緒に。油揚げは飽きたと言っていたから、なにか見た目のキレイな砂糖菓子でも持ってこようか。そんなことを思い、衛人は石段を風のように駆け下りる。千里を想えば、気持ちが逸り、感情が昂った。
待ってろよ、千里。今、帰るからな!
「そうなのか……」
「ちなみに……、仙狸という妖の体質、衛人どのはご存知ですか……?」
衛人はタヌキと顔を見合わせてかぶりを振る。千里から多少なりとも聞いてはいるものの、それがすべてではないだろう。タヌキもまた、仙狸の存在にはさほど詳しくないようだった。無理もない。彼は元々、ただの雑種犬だったのだから。そんな衛人とタヌキを見るなり、レンはやれやれ、とばかりに肩をすくめた。
「仙狸という妖は、恋をした相手と伴侶になれば、誰彼構わず不特定多数の人間を誘惑することはなくなります。妖力が伴侶だけに集中して影響するようになり、かつ安定するんです。半妖の千里にもその体質が遺伝していれば、伴侶ができた時点で穏やかに暮らせるようにはなるはずですよ。ただ、おそらく常日頃、精気を欲しがるようにはなると思いますがね」
「精気を……」
精気を欲しがる。――つまり、それはセックスをしたがる、ということだろう。これまでの千里の雰囲気から、性欲をあらわにして、せがむような姿はまったく想像がつかないが、レンは言った。
「わかっているでしょうが、千里はすでに、あなたを欲しがっているはずです」
それを聞いて、ごく、と生唾を飲み、頷いた。たちまち全身が火照っていく。千里の伴侶として、彼に求められていると、衛人は知っている。そして衛人もまた、千里を求めているのだ。この気持ちがまやかしではなく、正真正銘、本気の恋だということに気付き、彼を欲している。
「千里には、濃厚な妖の血が流れています。化け猫のみならず、妖はもともと執着性が強いものですから、一度関係を持てば、解消は難しい。あなたが逃げ出したとて、地獄の底まで追ってくるはずです」
「地獄の底……」
「妖とは、それほど強く結びついてしまうものなのですよ。要するに、千里の伴侶となり、彼と添い遂げるには、揺るがない覚悟と、穢れのない魂がなければならない、ということです。九尾さまが見たかったものは、まさにそれだったのでしょうね」
「俺の……、覚悟か」
衛人は頷いた。千里は半妖で、彼の体には濃い妖の血が流れている。もしかすると、彼にはまだ見ぬ恐ろしい一面があるのかもしれない。それでも、衛人の覚悟は揺るがない。衛人は千里を愛している。
「穢れがないとか、そういうのは俺にはよくわかんないけど……。千里が……、アイツが俺を選んでくれるなら……、俺はとうに覚悟を決めてるよ」
それを聞くと、レンは目を細め、「合格です」とひと言告げた。そうして、石段をひょいひょいと、飛ぶように下りていく。その背中を見つめながら、衛人は思う。まさか――とは思うが、この化け狐のレンも、提灯を持つ小さな化け狐たちも、そして九尾も、はじめから千里と衛人に敵意などなく、部外者だ、不法侵入者だと、爪弾きにするつもりもなかったのではないか、と。だが、そんな衛人の心情を見透かしたように、レンが言った。
「千里は、九尾さまがお認めになった我が同志です。あなたはその伴侶となられる。この山にいて、同志である限り、今後はなにかあれば、我ら、那須山の化け狐の一族総出でご助力いたします」
衛人はひとり、納得した。彼らの動向は、九尾の意思ひとつで決まるということなのだろう。衛人は一度、振り返り、九尾の社に向かって一礼をする。それから、合掌をして、心の中で九尾に告げた。
九尾さま、ありがとう。また来ます。
次は千里を連れて、一緒に。油揚げは飽きたと言っていたから、なにか見た目のキレイな砂糖菓子でも持ってこようか。そんなことを思い、衛人は石段を風のように駆け下りる。千里を想えば、気持ちが逸り、感情が昂った。
待ってろよ、千里。今、帰るからな!
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