【完結】つやめきの半妖には抗えない

いなば海羽丸

文字の大きさ
74 / 81
12

祝言の日~衛人~(12ー4)

しおりを挟む
 さて、その翌朝のことだ。夕べもまた、甘い夜ふかしをしたせいで、衛人と千里はいつまでも眠気を残しながら、朝食をとっていたわけだが、そこへ、再びレンがやってきた。衛人はてっきり彼が朝ごはんを食べにやってきたのだと思ったが、どうやら違ったらしい。レンは夕刻、九尾の神社へ来るように告げて、また飛ぶように山へ帰っていってしまったのだ。食事中にやってきたというのに、珍しくつまみ食いひとつしなかったレンに、千里は不思議そうな顔で言った。

「レン、どうしちゃったんでしょう……。今日はごはん、食べていかないのかな」
「うん、まぁ……。ごはんは家じゃなくても、なんとか調達してるんだろうけど……」
「忙しくなるんだろうよ。おめえさんたちの祝言もあるし、もういっこの方もあるしな」

 タヌキは朝食を食べたあと、ぐーんと伸びをして、居間の畳に上で寝転がって言う。衛人はなるほど、と納得しかけたが、タヌキの言った「もういっこ」が気になってたずねた。

「もういっこって、なに……? なんかあるのか?」
「なんだ、わかんねえのかい。衛人は鈍いからなぁ。なぁ、千里よ」

 タヌキはそう言って、だらけた格好で寝転がったまま、千里に目をやる。千里は困ったように苦笑して、肩をすくめた。その反応を見れば、レンの異変の理由に、千里もまた気付いていると思わされる。

「なんだ……。千里もわかるわけ?」

 口を尖らせると、困ったように千里が苦笑し、タヌキがシシシ……と笑った。笑われた衛人は、おもしろくない。衛人はなんの能力も持たない、ただの人間なのだから、半妖の千里や、妖となったタヌキ、妖狐のレンたちと比べられても困る。ふと見れば、千里が不安そうに九尾の神社の方角を見つめている。「千里、どうした?」とたずねると、彼は不安そうに呟いた。

「なんだか……、ここ数日、山のほうが騒がしい気がするんです……」
「騒がしい? そうかぁ?」

 衛人も千里の隣に立ち、縁側から見える、那須の山を見上げ、目をらしてみる。だが、特段なにも感じない。衛人は首をかしげるが、タヌキは言った――。

「レンも言ってたが、なにか、とてつもねえことが起こるかもな。まぁ、そのうちわかるさ」

 タヌキはそう言って、また意味ありげに笑みを浮かべた。


 ***


 その日の夕方まで、衛人と千里は徳治の家の中で、遺品整理をした。日がかたむきはじめる頃になると、レンがやってきたが、なんだかいつもと様相が違う。着ている服もいつもより立派なのだ。

 赤茶色の着物は、派手な神主のような、桃の節句に飾られる、お内裏だいりさまのような雰囲気があるし、しかも今日はどうしたことか、大勢子どもを連れている。――いや、子どもではない。おそらくは毎度、神社で衛人たちを迎えてくれた野狐たちだ。みんな、今夜は人間の子どもに化けてめかし込んで、レンと似たような着物をまとっているが、手に持っている提灯を見れば一目瞭然だった。

「また、ずいぶんな大所帯で来るんだな……」
「そりゃあ、そうです。今夜は同志の祝言ですからね。おい、コン、ハク」

 レンの呼び声に、「はい」と可愛らしい声がこたえ、子どもが二人、そばへ駆けてきた。彼らはその手にとても大事そうに着物を持っている。和装や着物にはまったく詳しくない衛人でも、それが上質なものだとわかる。それほど、美しい生地だった。

「お前たちは衛人どのと、千里の支度を」
「はい」
「お任せください」

 コン、ハクと呼ばれたふたりはそう言って、衛人に着物を渡して、羽織らせてくれた。だが、洋服に着物を羽織っただけではあまりに不格好だ。野狐たちは首をかしげながら、「なんか変だよ」「どうしようか」とひそひそささやき合っている。なんだか、陰口を叩かれているような気分に鼻を鳴らすが、やがて。ふたりのうち、ひとりが「ようし」と声を上げた。次の瞬間、くるんっとその場で宙返りをしたかと思うと、狐の姿に戻り、衛人の体にぴょんっと抱きついた。

「うわ……っ」

 だが、狐はすぐに光を放ち、衛人の体に溶け込むようにして、消えていく。気付けば飛びついてきた子どもの姿はなく、代わりに衛人の身なりはすっかり変わっていた。

「な……、なんだこれ……」
「あまりにひどい格好でしたので、コンがお召し替えを手伝ってくれたようですね」

 あまりにひどいとは失礼だ。衛人は口を尖らせるが、たしかにTシャツにハーフパンツに美しい着物を羽織ったのでは、個性的を通り越して、ちぐはぐだった。

「それで……、あいつは? 消えちゃったのか?」
「いえ。コンはあなたがお召しになっている、その着物に姿を変えているだけ。祝言が終われば、元に戻りましょう」
「へえ……」

 衛人は自分の体に触れてみる。不思議なものだ。どう見てもハリボテではないし、たしかに着物を着ているようにしか感じない。まだ野狐ではあるが、妖狐の力というのは便利なものだ、と衛人は感心してしまった。

「さぁ、次は千里だ。頼んだぞ、ハク」
「はい、お任せを」

 レンの声に元気よく返事をした、ハクという名の野狐は、さっきコンがそうしたように、宙返りをして野狐の姿に戻ると、千里の体に駆け寄り、ぴとっとくっついた。その瞬間、千里の体がぱあっと光りを放つ。

「わぁ……、すごい! 見てください、衛人さん!」

 一瞬にして、千里は純白の着物姿に変わった。髪には真っ赤な花が飾られ、その姿はまるで白無垢姿のようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖女を演じた巻き添え兄は、王弟殿下の求愛から逃げられない

深嶋(深嶋つづみ)
BL
谷口理恩は一年ほど前、妹と一緒に異世界に転移してしまった。 聖女として魔術の才を開花させた妹・世奈のおかげもあって、二人はアルゼノール王国の大教会に保護され、不自由のない暮らしを送ることができている。が、最近は世奈の奔放さに理恩は頭を抱えることもあった。 ある日、世奈の仕事を肩代わりした理恩は、病に臥せっている幼い第二王子・イヴァン王子のもとに参じることに。 ――「僕が大人になったら、僕の妃になってくれませんか」。 何度も謁見を重ねるうちに理恩に懐いた彼は、目の前の聖女が偽者であることに気付かぬまま、やがて理恩に求愛する。 理恩は驚き、後ろめたい気持ちを抱きながらも、「大人になっても同じ気持ちでいてくれたなら」と約束を交わした。 その直後、何者かの陰謀に陥れられた世奈の巻き添えとなり、理恩は辺境の地へと飛ばされてしまい……。 ――数年後、アルゼノール王国を出て世界中を巡っていた理恩は、とある国で偶然、王弟・イヴァンと再会する。 傷心の旅をしているのだという彼は、どういうわけか理恩との交流を持ちたがって――?

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...