【完結】つやめきの半妖には抗えない

いなば海羽丸

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家路につく~衛人~(13ー1)

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 祝言の日から、四日が経った。今日、衛人は家じゅうの戸締りをして、東京へ戻る。もちろん、伴侶である、千里も一緒だ。衛人はいつも通りに朝ごはんを済ませたあと、家じゅうを掃除して、昨日のうちにまとめておいた荷物を、車へ運んだ。夏の休暇は明日までだ。あさってからは、シフト通り仕事に出なければならない。といっても、残りのシフトはほんの数日で、そのあとには引っ越し作業を進めながら、那須での転職先を探す日々が待っている。ともあれ、ほんの少しの間、徳治の家とはお別れだ。

「衛人さん、これは持っていきますか?」
「うん、そうだね。車のトランクに入れてくれる?」
「わかりました!」

 千里が、衛人の荷物を車へ運んでくれる。本日の千里の身なりは、はじめて出会ったときと同じ、元いっちょうらの浴衣だった。特段、この日に合わせてそれを選んだわけではなさそうだが、きっと、あれが一番着やすく、お気に入りなのだろう。

「よし。あと、今、衛人さんが持ってる荷物で、全部ですよ」
「ありがとう」
「僕、もう一回戸締りを確認してきます」

 千里の足取りは軽やかで、楽しげだ。きっと、はじめての長距離ドライブデートに心浮かれているのだろう。彼は夕べ、衛人の寝床へやってきて、衛人を誘い、精気をたっぷり吸い取ったあと、うとうとしながら、こう話したのだ。

 ――僕、衛人さんと東京へ行くの、すごくドキドキします。なんだか、新婚旅行みたいですよね……。

 旅行ではなく、正しくは帰るのだが、それはどちらでもいいことだ。そんなことを言われて、衛人の眠気が吹っ飛んでしまったことは言うまでもなかった。おかげで、衛人は夕べも夜更けまで千里を抱いた。とろけるように甘く、濃密で、長い長い夜だった。

「衛人さん、戸締り大丈夫でした!」
「オッケー、ありがと! じゃあ、もう玄関の鍵、閉めちゃおうか」

 衛人は玄関の鍵を掛ける。今日は千里が率先して、家の中の掃除や、水道の水抜きを手伝ってくれたおかげで、予定よりも早く家を出られたので、本当に助かった。那須から東京の自宅アパートまでは、高速道路が空いていたとしても、二時間はかかる。

 あとは仕事だ。頑張って探さないとな……。

 十日前――。ここへ来たとき、衛人は勢いに任せて、徳治の家への移住を決め、漠然ばくぜんと転職活動をすればいい、と考えていた。だが、今は真剣に、十日前よりもずっと現実的に考えている。この十日間で、衛人には大事な人ができ、守るものが増えたからだ。

 徳治が愛したこの家と、不思議な巡り合わせで出会った半妖、千里。そして、妖になったタヌキと、化け狐のレン。たくさんの野狐たちと、九尾の狐との縁。

 長い長い初夜を過ごした翌々日。衛人と千里は九尾とたくさんの野狐たちに見守られて、祝言を挙げた。今や、衛人と千里は夫夫。この那須に住む妖狐の一族は、きっと衛人と千里の命が尽きるまで見守っていてくれているのだろう。もはや親族に近いものがある。

 彼らとの暮らしを守り、この山で生きていくために、衛人はこれから、生活の基盤をしっかり固めなければいけない。責任は重大だ。しかし、それに重苦しさは感じない。むしろ、誇らしい心地で、心は未来へ向かっている。

 ちなみに、タヌキは那須で留守番をする予定だが、その間はレンと九尾のところで過ごすことにしたらしい。昼頃、レンはタヌキを迎えにくると言っていたから、もうそろそろ、やって来るだろう。衛人は千里とともに、庭でレンを待っていた。

 やがて、レンがどこからともなく表れ、衛人はレンにタヌキを託した。タヌキのことは、おそらく衛人よりも、レンのほうがよく知っているだろうから、あれこれ伝えることはない。心配なのは、レンがタヌキに意地悪をしないかどうかと、タヌキが大人しくしていられるかどうか。ふたりがケンカをしないかどうか。それくらいだ。

「タヌキ、いい子にしてろよ」
「おうよ、任しとけ」
「レン、タヌキさんをよろしくね」
「承知した。タヌキのことは、客人として丁重に扱うように、九尾さまにも言われている。千里は衛人どのと夫夫水入らず、東京でゆっくりしてこい」

 ありがたい言葉だが、衛人は苦笑する。厳密にいえば、衛人は東京へ帰るのだが、レンたちからすれば、東京へ出かけるような感覚なのだろう。なにしろ、衛人と千里は、九尾の狐に認められた、妖狐の同志で、ホームはあくまでもこの那須の山なのだろうから。

 改めて考えると……、信じらんないけど。でも……。

 ふと、隣にいる千里に目を移せば、視線がぶつかった。衛人は笑みを浮かべる。この夏、徳治の家で出会ったのは、誰かに話しても信じてもらえないような、不思議な縁。けれど、この縁に巡り会えてよかったと、衛人は思う。

 千里に出会わなかったら、俺は今もきっと、過去の嫌な思い出にこだわってた。絶対に恋なんか、しなかった。

 千里だったから。衛人はきっと恋をした。彼の優しさや純粋さに触れて、どうしようもなく惹かれた。愛おしさを知った。千里でなければ、今も衛人は十日前と同じように、心の傷を隠して、人との関りを避けて生きていただろう。

「それじゃ、俺たちはそろそろ行こうか、千里」
「……はい。ねぇ、衛人さん」

 千里に名前を呼ばれ、そっと手を握られた。少し恥じらいを含んだ柔らかな視線が愛らしくて、思わず頬がゆるんでしまう。
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