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家路につく~衛人~(13ー2)
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「ん、どうした?」
「僕ね……、ここに来て本当によかったです……」
「え……」
「ここに来て、あなたに会えてよかったです。今、とても幸せです。……半妖の僕を愛してくれて、ありがとうございます」
千里にそう言われた瞬間。衛人はぎゅうっと胸を掴まれたような心地がして、とっさに彼の手を引き、抱きしめた。
「俺もだよ……。千里に出会えてよかった」
「衛人さ――……」
「千里、俺を好きになってくれて……、ありがとう。伴侶になってくれて、ありがとう……」
半妖だとか、妖力が強いとか、変わり者だとか。そんなことは、どうだっていい。衛人は千里を愛している。千里という男が、可愛くて、大切で、たまらなく愛おしいのだ。彼が半妖であっても、たとえそうでなくても、元気で、一生そばにいてくれたら、それでいい。
「人を好きになることが、こんなに幸せだって……。俺に教えてくれてありがとう……。……愛してる」
千里を抱きしめたまま、彼にだけ聞こえるように。衛人は彼の耳元で囁く。すると、千里は想いを返すように、衛人の頬に口づけをくれた。それから、衛人がそうしたように、耳元でそっと囁いた。
「僕も、愛してます……」
さて、いつまでも千里とこうして触れ合っていたい気持ちはあるものの、なんとか誘惑を振り払い、衛人は千里の体を離した。ふと、冷たい視線を感じて、そこへ目をやれば、レンとタヌキが呆れ顔でこちらを見つめている。タヌキに関していえば、「さっさと行っちまえ」とでも言い出しそうな表情に、衛人は苦笑するしかない。
そんな彼らに見送られ、衛人と千里は車に乗り込んだ。衛人はエンジンをかけ、シートベルトをする。助手席に座った千里と不意に視線がぶつかり、どちらともなく微笑んだ。彼の柔らかな笑みに、胸の奥がじわっと熱くなっていく心地がする。
「よーし、東京へ向けて出発!」
「はい!」
衛人はギアをドライブに入れて、アクセルを踏んだ。
***
那須インターチェンジから高速道路へ入り、ドライブは順調だった。東北道の上り線は比較的空いていて、二時間ほど走った頃、衛人は埼玉県羽生市のサービスエリアに到着していた。羽生サービスエリアは、江戸時代の街並みを思わせるような建物が立ち並んでおり、侘び寂びな演出が人気のある場所だ。夜は特に雰囲気がいい。デートで立ち寄るなら、うってつけだった。――と、いうわけで、ちょっとしたことでも新妻を喜ばせたい衛人は、ここで休憩を取ることにしたのだった。ところが――。
『えー……、続きましてニュースです。栃木県、那須高原の名所、殺生石が割れていたことがわかりました』
「え……?」
思わず、耳を疑った。衛人は目をぱちぱちとさせて、ラジオに耳を傾け、音量を上げる。このラジオは、バラエティ要素の強い番組だが、決まった時刻になると、必ず首都圏の交通情報とニュースを報じる。渋滞情報をいち早く知ることができるので、衛人は必ず、長距離の移動中はラジオをかけることにしているのだが、その内容に驚きを隠せない。那須高原の名所の殺生石といえば、九尾の力が封じられているという、あの大岩のことだ。
「今……、殺生石が割れたって……、言ったよな?」
「はい……」
「それって……、この前、レンとタヌキが話してたやつ?」
数日前。あれはたしか――祝言を挙げた日の前日だ。蕎麦を食べながら、レンはなにやら興奮気味で話をしていた。
――千里、お前のご主人はすごい御方だぞ。あれ以来、九尾さまがものすごい力をつけている。
どうやら衛人の寿命を吸い取ってから、九尾が急激に力をつけているらしいのだが、それを聞いて、タヌキは「殺生石が割れるんじゃないか」と、半ば脅しのような冗談を返していた。ただし、あれはあくまで冗談で、まさか現実に起こりうる話ではないだろうと思っていたのだ。まさか、本当に殺生石が、あんなに大きな岩が割れてしまうなんて、思いもしない。
「タヌキさんが言ってたの、冗談じゃなかったんですね……。本当に割れちゃったなんて……すごい」
まったくだ。まさか、ラジオから流れてくるニュースがフェイクニュースなはずがない。衛人はドキドキしながら、耳を傾ける。なんでも、今朝がた、観光協会の人間が割れているのを発見したらしい。しかし今後、あの場所はどうなるのだろう。まさか「九尾の狐の封印が解けました」――なんて、ニュースになったりするのだろうか。あるいは、割れた殺生石の前に「九尾の狐、出没注意!」――なんて、注意を促す立て看板が立てられたりもするのだろうか。そう思った時。衛人はタヌキの言葉を思い出し、ハッと目を瞠る。
――忙しくなるんだろうよ。おめえさんたちの祝言もあるし、もういっこの方もあるしな。
「タヌキが言ってたもういっこの方って、まさか、このことか……」
衛人がひとり言のように呟くと、千里もそれに同調するように頷いた。
「たぶん、そうですね……」
「じゃあ、半分は俺のせいじゃん……。那須は大丈夫なのかな?」
衛人は罪悪感を覚えずにいられない。レンは、九尾が衛人と取引をしたときから、九尾の力が急激に倍増していると話していた。つまり、九尾が力をつけているのは、衛人の寿命の影響が少なからずあるのだ。
「僕ね……、ここに来て本当によかったです……」
「え……」
「ここに来て、あなたに会えてよかったです。今、とても幸せです。……半妖の僕を愛してくれて、ありがとうございます」
千里にそう言われた瞬間。衛人はぎゅうっと胸を掴まれたような心地がして、とっさに彼の手を引き、抱きしめた。
「俺もだよ……。千里に出会えてよかった」
「衛人さ――……」
「千里、俺を好きになってくれて……、ありがとう。伴侶になってくれて、ありがとう……」
半妖だとか、妖力が強いとか、変わり者だとか。そんなことは、どうだっていい。衛人は千里を愛している。千里という男が、可愛くて、大切で、たまらなく愛おしいのだ。彼が半妖であっても、たとえそうでなくても、元気で、一生そばにいてくれたら、それでいい。
「人を好きになることが、こんなに幸せだって……。俺に教えてくれてありがとう……。……愛してる」
千里を抱きしめたまま、彼にだけ聞こえるように。衛人は彼の耳元で囁く。すると、千里は想いを返すように、衛人の頬に口づけをくれた。それから、衛人がそうしたように、耳元でそっと囁いた。
「僕も、愛してます……」
さて、いつまでも千里とこうして触れ合っていたい気持ちはあるものの、なんとか誘惑を振り払い、衛人は千里の体を離した。ふと、冷たい視線を感じて、そこへ目をやれば、レンとタヌキが呆れ顔でこちらを見つめている。タヌキに関していえば、「さっさと行っちまえ」とでも言い出しそうな表情に、衛人は苦笑するしかない。
そんな彼らに見送られ、衛人と千里は車に乗り込んだ。衛人はエンジンをかけ、シートベルトをする。助手席に座った千里と不意に視線がぶつかり、どちらともなく微笑んだ。彼の柔らかな笑みに、胸の奥がじわっと熱くなっていく心地がする。
「よーし、東京へ向けて出発!」
「はい!」
衛人はギアをドライブに入れて、アクセルを踏んだ。
***
那須インターチェンジから高速道路へ入り、ドライブは順調だった。東北道の上り線は比較的空いていて、二時間ほど走った頃、衛人は埼玉県羽生市のサービスエリアに到着していた。羽生サービスエリアは、江戸時代の街並みを思わせるような建物が立ち並んでおり、侘び寂びな演出が人気のある場所だ。夜は特に雰囲気がいい。デートで立ち寄るなら、うってつけだった。――と、いうわけで、ちょっとしたことでも新妻を喜ばせたい衛人は、ここで休憩を取ることにしたのだった。ところが――。
『えー……、続きましてニュースです。栃木県、那須高原の名所、殺生石が割れていたことがわかりました』
「え……?」
思わず、耳を疑った。衛人は目をぱちぱちとさせて、ラジオに耳を傾け、音量を上げる。このラジオは、バラエティ要素の強い番組だが、決まった時刻になると、必ず首都圏の交通情報とニュースを報じる。渋滞情報をいち早く知ることができるので、衛人は必ず、長距離の移動中はラジオをかけることにしているのだが、その内容に驚きを隠せない。那須高原の名所の殺生石といえば、九尾の力が封じられているという、あの大岩のことだ。
「今……、殺生石が割れたって……、言ったよな?」
「はい……」
「それって……、この前、レンとタヌキが話してたやつ?」
数日前。あれはたしか――祝言を挙げた日の前日だ。蕎麦を食べながら、レンはなにやら興奮気味で話をしていた。
――千里、お前のご主人はすごい御方だぞ。あれ以来、九尾さまがものすごい力をつけている。
どうやら衛人の寿命を吸い取ってから、九尾が急激に力をつけているらしいのだが、それを聞いて、タヌキは「殺生石が割れるんじゃないか」と、半ば脅しのような冗談を返していた。ただし、あれはあくまで冗談で、まさか現実に起こりうる話ではないだろうと思っていたのだ。まさか、本当に殺生石が、あんなに大きな岩が割れてしまうなんて、思いもしない。
「タヌキさんが言ってたの、冗談じゃなかったんですね……。本当に割れちゃったなんて……すごい」
まったくだ。まさか、ラジオから流れてくるニュースがフェイクニュースなはずがない。衛人はドキドキしながら、耳を傾ける。なんでも、今朝がた、観光協会の人間が割れているのを発見したらしい。しかし今後、あの場所はどうなるのだろう。まさか「九尾の狐の封印が解けました」――なんて、ニュースになったりするのだろうか。あるいは、割れた殺生石の前に「九尾の狐、出没注意!」――なんて、注意を促す立て看板が立てられたりもするのだろうか。そう思った時。衛人はタヌキの言葉を思い出し、ハッと目を瞠る。
――忙しくなるんだろうよ。おめえさんたちの祝言もあるし、もういっこの方もあるしな。
「タヌキが言ってたもういっこの方って、まさか、このことか……」
衛人がひとり言のように呟くと、千里もそれに同調するように頷いた。
「たぶん、そうですね……」
「じゃあ、半分は俺のせいじゃん……。那須は大丈夫なのかな?」
衛人は罪悪感を覚えずにいられない。レンは、九尾が衛人と取引をしたときから、九尾の力が急激に倍増していると話していた。つまり、九尾が力をつけているのは、衛人の寿命の影響が少なからずあるのだ。
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