元・社畜とオーク ~コピースキルで【異世界行商】始めました~

たいよう一花

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01.  突然の終わりと始まり

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(来るんじゃなかったな……)

 雪成ゆきなりはそう思いながら、ウーロン茶を飲み干した。空のグラスに残された氷が、カランと乾いた音を立てる。

(ほんと俺、バカだよな……何を期待していたんだか……)

 苦い気持ちを吐き出すように、そっと小さく溜息をつく。それは誰にも気付かれることなく、周囲の喧騒けんそうにかき消された。

 その夜、継未つぐみ雪成ゆきなりはクラス会に参加していた。居酒屋の一角いっかくを貸し切っての、カジュアルな雰囲気の会だ。そこに二十人ほどの元クラスメイトがつどっている。かつて高校三年生の一年間を同じクラスで過ごした面々は、みな思い思いに旧交を温めているが、雪成だけは部屋の隅にポツンと、一人で座っていた。

 高校を卒業して、もう十年が経つ。
 このかんにクラス会は何度も開催されていたが、雪成はいつも欠席してきた。今回も参加するつもりなど毛頭なかったのだが、十年の節目ということで、幹事を務める三人から熱心に誘われて断れなかったのだ。
 ――それに加えて。
 参加を決めたのは、繰り返される単調な日々に鬱屈うっくつしたものを感じていたから――というのもある。何か変化を求めていたのだ。

 大学を卒業後、雪成が入社したのは中小規模の食品メーカー。慣れない営業職に四苦八苦しながらも、がむしゃらに頑張ってきた。気付けば仕事ばかりの毎日で、日々の潤いは何一つなく、ささやかな楽しみは趣味の料理だけという有様ありさま
 もちろん浮いた話は一切ない。「陰キャ」を自覚する上、超奥手の雪成には、恋愛はどこか遠くの山の向こう側にあるおとぎ話と化していた。
 このまま年を取って孤独なまま死ぬんだろうな、という思いが、雪成の中で年々濃厚になってゆく。そんな日々を打開する、何かのきっかけが欲しかった。クラス会に参加すれば、何か劇的な変化が訪れて退屈な日々が一掃いっそうされる――雪成は漠然ばくぜんと、そんな期待を抱いていた。

 しかし、そんな期待などすぐに打ち砕かれた。
 久しぶりに会ったクラスメイトから近況について話を振られたのは、再会した直後だけ。そのうち誰も話しかけてこなくなった。一緒にいて楽しい相手でもない上、特に華々しい成功を収めてもいない雪成の、歯切れの悪い返答にすっかり興味をなくしたのだろう。話下手で、人の輪の中に自ら入っていくのを苦手とする雪成は、すぐに孤立してしまった。

(まあ、こうなることは、予想していたんだがな……)

 雪成は眼鏡を一旦外すと、目頭付近をギュッとおさえた。
 今日も一日忙しく働いて酷使した目が、限界を訴えている。もちろん疲れたのは目だけではない。肩はガチガチだし、軽い頭痛はするし、全身の倦怠感けんたいかんがひどい。
 それなのに帰宅後にはまだやることがあるし、明日も仕事だ。

(そろそろ抜けるか……。出席することで幹事の顔は立てたし、もういいよな)

 雪成が帰り支度を始めたとき、少し離れた席からドッと笑い声が上がった。眼鏡をかけ直してそちらを見ると、複数の女性に取り囲まれた一人の男性の姿があった。その男性が何か、愉快なことを言ったらしい。女性たちは「やだぁ」とか「もう、横柄よこつかくんたら調子いいんだから!」と騒ぎながらはにかんだ笑みを浮かべている。

(……ああ……横柄か。相変わらず陽キャの勝ち組オーラがすごいな……)

 横柄よこつかつよし。いわゆるスクールカーストの、最上位に鎮座ちんざする男。彼は有名私立大学卒業後、大手商社に入って出世街道を突き進んでいるという噂だ。将来は親の経営する会社を継ぐらしい。まだ独身を謳歌しているようで、女性に大人気だ。

(横柄は見た目もいいしな……。そりゃ、経済力のあるイケメンで将来も安泰なら、彼を狙う女性は多いだろう……)

 比べても虚しいだけだと自覚しながらも、雪成は彼の華やかな容姿と立場に、羨望を感じずにいられなかった。

(話もうまいからなぁ……あいつは。息をするように自然に女を褒めるし。俺には絶対できないな。女なんて、どんな風に話しかけたら機嫌がよくなるのか、さっぱりわからん)

 雪成は、またもや溜息をついた。
 横柄を見ていると、胸の中にモヤモヤした気持ちが広がってゆく。
 女性にもてているのが羨ましい、というよりは、他人と円滑にコミュニケーションを取れることが羨ましかった。自分にはない、彼の社交的な一面が。

(ああ、やめよやめよ。他人ひとと比べてもなんもいいことない)

 やっぱり来るんじゃなかったな、と雪成は後悔しながら、帰り支度を再開させる。
 そのとき、幹事のリーダーである横柄がお開きの挨拶を始めた。そして、続けて二次会に参加してほしいと呼ばわる。
 ちょうどいい、とばかりに、雪成は幹事の一人に帰ることを告げ、二次会に向かう面々と共に居酒屋の外に出た。
 その後、駅に向かう道を途中までクラスメイトと歩いていると、意外なことに横柄が話しかけてきた。

継未つぐみ、もう帰るんだって? 残念だ。全然話せなかったから、二次会で、と思ってたのに」

「ああ、いや、その、明日俺、仕事あるから。悪いな」

「え、仕事? もしかして休日出勤してるのか? おまえが就職したのは確か……○○食品の営業だったよな? 休み、ちゃんと取れてるか?」

「ああ、うん、まあ……。来週、新商品のお披露目とか展示会とかあって、なんやかんや重なって、今忙しくて」

「疲れてるみたいだけど、大丈夫か? まさか今日も出社して、会社から直でこっち来たとか⁈ そうか、だからおまえスーツか! ん? おまえやけに荷物多いけど、何持ってるんだ?」

「この荷物は……その、新商品を使ったアレンジレシピとか、自分でも作ってみようかな、と……」

「家で⁈ おいおい、それサビ残だろ? いまどき自己犠牲なんて、はやらないぜ」

「……あ、いや……ぎ、犠牲ってほどでも……俺、料理好きだし……」

「おまえもしかして、同僚に仕事を押し付けられてるんじゃないか? 高校の時も、よくクラスの雑用係を押し付けられて、放課後残ってたよな……」

「ははは……まあ、誰かが……しなきゃいけない……ことだったし……」

「損な体質だな。必要なことでも、もっとタイパ意識して、効率よくこなせるように作業内容を見直した方がいいぞ? 余暇を楽しめない人生なんて、つまらんだろ? それじゃ、女も寄ってこないぜ? おまえ、彼女いないだろ?」

「あ……まあ……ははは……」

 雪成は会話を続けるのが苦痛になってきた。
 そういえば……と、今になって思い出す。高校時代から横柄が苦手だったことを。
 雪成にとって横柄はジャンボジェット機みたいなもので、遠くから見てる分には「カッケー」で済むが、近くに来た途端、轟音ごうおん威圧感いあつかんで気絶しそうになるのだ。
 そんな雪成の内心を想像すらしないのだろう、横柄は更に畳み掛けてきた。

「考えてみろよ、継末つぐみ、世の中の半分は女なんだぞ? 半分を全然知らないなんて視野も広がらないし、第一虚しいだろ。休日出勤してちゃ遊びはもちろん、余暇をスキルアップに利用することもできないじゃないか。おまえ、それでいいのか? もしかして今の仕事、向いてないんじゃないか? 転職するなら相談に乗るぞ? 俺は方々に顔が利くから、遠慮するな」

「ちょっとよしなさいよ、つよし継未つぐみくん、困ってるじゃないの」

「そうよ。誰もが横柄よこつかみたいに要領よく仕事できるわけじゃないんだから、余計なお世話よ」

 女性陣の助け舟も、雪成にとっては更なる追い討ちでしかなかった。

(確かに俺は要領悪いしダメダメだよ……)

 一層縮こまる雪成とは対照的に、横柄は明るい口調で女性たちに言った。

「え、何、二人とも、俺が継未をいじめてるとか、誤解してる? 違う違う、俺はこいつが心配でたまらんのよ……、見ろよ、この目の下のくま

「あら、やだほんと、顔色悪い。いつも下向いてるからわかんなかった」

「ちゃんと食べてる? 寝てる?」

「あ……や、大丈夫、です……」

 女性陣に顔を覗かれて、雪成は恥ずかしさのあまり消えたくなってきた。拷問のような展開に、走って逃げだしたくなってくる。折しも、目の前の横断歩道で信号機が青に変わった。二次会に行く連中とは、違う方向だ。

「あ、俺、こっち行くから。じゃ、じゃあ。みんな、二次会、楽しんできて」

 そう言ってダッシュを始めた時。

「継未!」
「キャーッ!」

 横柄と女性の悲鳴、それに、大型トラックのヘッドライト、耳をつんざくクラクション。

(え……嘘だろ、トラック⁈ どこから……)

 雪成は逃げる間もなく、意識を失った。




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なお、2話目以降のルビのほとんどは、(かっこ)の中に入っています。
例:雪成(ゆきなり)
読みづらかったらごめんさなさい。
時間が出来たらルビ振り作業をしたいと思いますが、いつになるか分かりません……。
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