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02. ノルとシャル
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『シャル、どういうこと? 二人いるわよ』
『あれ? おかしいな……』
何かに戸惑っている、誰かの会話。それは言語を越えた意思そのもの、という感じで、雪成(ゆきなり)の頭の中に直接響いてきた。
(……誰だ……?)
意識を取り戻した雪成は、奇妙な、今まで感じたことのない状態に戸惑った。
右も左も、上も下も感じられない。不思議な浮遊感に包まれている。
(どこだ、ここ……? そうだ、俺!)
トラックに轢かれたんだった――と思いだした雪成は、目を開けて周囲を確かめてみようとしたが、まるで体が動かなかった。
そんな中、艶やかな女性の声と、透き通った少年のような声が、茫洋とした水底に漂うように頭の中に響いてくる。
『どうやら召喚事故のようね。一人巻き込んでしまったわ』
『…………』
『仕方ないわ、今更もう地球に戻せないし。勇者は確保できたから、良しとしましょう。あら今回の勇者は、過去一イケメンじゃない? シャル、いい仕事したわね』
『ちょっと待って、ノル……』
『どうしたの、シャル? 何を考えこんでいるのよ? 早く新しい器(うつわ)を用意して魂を移さないと、消えてしまうわ。……大丈夫、任せてちょうだい……。……さあ、できた。勇者はこれでいいわね。シャル、どう?』
『…………う~ん……』
『まだ考えてるの? まあいいわ。さあ、お次はこっちの男ね』
雪成は、何かの意識が自分に向けられたことを感じた。
『とっても普通ね。目立たない感じで、ちょうどいいわ』
(いやあの、確かに俺は目立たない男だけど……ちょっと、待ってくれ、説明してくれ、いったい、何が起こってるんだ⁈)
雪成は口を開こうとしたが、相変わらず口どころか目も開けないし、どこもかしこもまったく動かせない。体の感覚が、まるでないのだ。
(なあ、ちょっと、これいったい、どういうことなんだ? ちゃんと説明してくれ! あんたら、いったい何なんだ⁈)
その雪成の声なき叫びが相手に届いているのかいないのか、彼にはわからなかった。とにかく返答がないまま、頭の中に響く女性の声は雪成に語りかけるように、一方的に話を続けている。
『巻き込んで申し訳ないけど、もう地球では死亡認定されているし、余命をこちらで過ごしてもらうほかないわ。できるだけ快適に暮らしていけるよう、特殊スキルを付けて送り出してあげるから、許してね。さあ、同じ体を用意できたわ。魂を移しましょう……』
何かに吸い込まれるように、雪成は自分の意識がどこかに入り込んだのを感じた。その途端、スッと、今まで無かった感覚が、戻ってくる。雪成はピクリと、指先を動かした。しかしできたのはその程度で、相変わらず目を開けることも、言葉を話すこともできない。
『大丈夫そうね。魂とうまくなじんだわ。では、次にギフトとスキルを授けていきましょう。まずはわたくし、女神ノルの幸運を。この者が幸せに暮らせるよう、願いを込めて。次は……翻訳機能ね。どんな相手とも、意思疎通に不自由ないように。そして……生活に役立つスキルが必要ね。……そうね、物体をコピーする能力なんてどうかしら? 食料を複製できれば、仕事にありつけなくても生きていけるでしょう。どう思う? シャル』
『ああ……うん、いいと思う。でも、制限を設けるべきだ。特に生命体と通貨はコピー不可に設定しておかないと』
『確かにそうね。通貨のコピーは子らの経済活動に混乱を招いてしまうものね。そして生命体はもちろん排除。他にも、コピー対象に細かい制限を盛り込みましょう』
『それからノル、その貴重なスキルは、秘匿(ひとく)しておかないと。もし悪人に知られたら、利用するために監禁されて、この人は一生奴隷扱いされてしまうよ』
『幸運を授けたから、大丈夫だと思うけど……そうね、念のため、他者には分からないように処理しておきましょう』
『うん。それから、コピーしたものを安全に保管しておけるように、自由に使える収納空間を与えてあげて。そうだ……せめて最期に持っていた彼の所持品……あれと同じものを再現して、そこに入れておいてあげたらどうかな』
『そうね、故郷のよすがに……。いいわ。亜空間と繋げて……彼だけがアクセスできる実用的なインベントリを……。さあ、できた。これでいいわね』
雪成はふわりと体が浮き上がり、どこかに運ばれていくのを感じた。
『では、行きなさい。一人は心細いだろうけど、きっとじきに友達ができるわ。授けた幸運が、あなたを導くでしょう。良い人生になることを祈ります』
(ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくれ。ちゃんと、説明してくれ、あんたたち、あれだろ、神様ってやつなんだろ、いったい俺を、どこに……)
雪成は抗議の声を上げようとしたが、声どころか体を自由に動かすことすらできない。
流されるようにどこかへ運ばれてゆく途中で、『待ってノル、やっぱりこれおかしい……』と、小さく叫ぶ声が聞こえる。神と思われる二人のやり取りが続いていたが、それは次第に遠ざかり――やがて、完全に聞こえなくなった。
『あれ? おかしいな……』
何かに戸惑っている、誰かの会話。それは言語を越えた意思そのもの、という感じで、雪成(ゆきなり)の頭の中に直接響いてきた。
(……誰だ……?)
意識を取り戻した雪成は、奇妙な、今まで感じたことのない状態に戸惑った。
右も左も、上も下も感じられない。不思議な浮遊感に包まれている。
(どこだ、ここ……? そうだ、俺!)
トラックに轢かれたんだった――と思いだした雪成は、目を開けて周囲を確かめてみようとしたが、まるで体が動かなかった。
そんな中、艶やかな女性の声と、透き通った少年のような声が、茫洋とした水底に漂うように頭の中に響いてくる。
『どうやら召喚事故のようね。一人巻き込んでしまったわ』
『…………』
『仕方ないわ、今更もう地球に戻せないし。勇者は確保できたから、良しとしましょう。あら今回の勇者は、過去一イケメンじゃない? シャル、いい仕事したわね』
『ちょっと待って、ノル……』
『どうしたの、シャル? 何を考えこんでいるのよ? 早く新しい器(うつわ)を用意して魂を移さないと、消えてしまうわ。……大丈夫、任せてちょうだい……。……さあ、できた。勇者はこれでいいわね。シャル、どう?』
『…………う~ん……』
『まだ考えてるの? まあいいわ。さあ、お次はこっちの男ね』
雪成は、何かの意識が自分に向けられたことを感じた。
『とっても普通ね。目立たない感じで、ちょうどいいわ』
(いやあの、確かに俺は目立たない男だけど……ちょっと、待ってくれ、説明してくれ、いったい、何が起こってるんだ⁈)
雪成は口を開こうとしたが、相変わらず口どころか目も開けないし、どこもかしこもまったく動かせない。体の感覚が、まるでないのだ。
(なあ、ちょっと、これいったい、どういうことなんだ? ちゃんと説明してくれ! あんたら、いったい何なんだ⁈)
その雪成の声なき叫びが相手に届いているのかいないのか、彼にはわからなかった。とにかく返答がないまま、頭の中に響く女性の声は雪成に語りかけるように、一方的に話を続けている。
『巻き込んで申し訳ないけど、もう地球では死亡認定されているし、余命をこちらで過ごしてもらうほかないわ。できるだけ快適に暮らしていけるよう、特殊スキルを付けて送り出してあげるから、許してね。さあ、同じ体を用意できたわ。魂を移しましょう……』
何かに吸い込まれるように、雪成は自分の意識がどこかに入り込んだのを感じた。その途端、スッと、今まで無かった感覚が、戻ってくる。雪成はピクリと、指先を動かした。しかしできたのはその程度で、相変わらず目を開けることも、言葉を話すこともできない。
『大丈夫そうね。魂とうまくなじんだわ。では、次にギフトとスキルを授けていきましょう。まずはわたくし、女神ノルの幸運を。この者が幸せに暮らせるよう、願いを込めて。次は……翻訳機能ね。どんな相手とも、意思疎通に不自由ないように。そして……生活に役立つスキルが必要ね。……そうね、物体をコピーする能力なんてどうかしら? 食料を複製できれば、仕事にありつけなくても生きていけるでしょう。どう思う? シャル』
『ああ……うん、いいと思う。でも、制限を設けるべきだ。特に生命体と通貨はコピー不可に設定しておかないと』
『確かにそうね。通貨のコピーは子らの経済活動に混乱を招いてしまうものね。そして生命体はもちろん排除。他にも、コピー対象に細かい制限を盛り込みましょう』
『それからノル、その貴重なスキルは、秘匿(ひとく)しておかないと。もし悪人に知られたら、利用するために監禁されて、この人は一生奴隷扱いされてしまうよ』
『幸運を授けたから、大丈夫だと思うけど……そうね、念のため、他者には分からないように処理しておきましょう』
『うん。それから、コピーしたものを安全に保管しておけるように、自由に使える収納空間を与えてあげて。そうだ……せめて最期に持っていた彼の所持品……あれと同じものを再現して、そこに入れておいてあげたらどうかな』
『そうね、故郷のよすがに……。いいわ。亜空間と繋げて……彼だけがアクセスできる実用的なインベントリを……。さあ、できた。これでいいわね』
雪成はふわりと体が浮き上がり、どこかに運ばれていくのを感じた。
『では、行きなさい。一人は心細いだろうけど、きっとじきに友達ができるわ。授けた幸運が、あなたを導くでしょう。良い人生になることを祈ります』
(ちょ、ちょ、ちょっと、待ってくれ。ちゃんと、説明してくれ、あんたたち、あれだろ、神様ってやつなんだろ、いったい俺を、どこに……)
雪成は抗議の声を上げようとしたが、声どころか体を自由に動かすことすらできない。
流されるようにどこかへ運ばれてゆく途中で、『待ってノル、やっぱりこれおかしい……』と、小さく叫ぶ声が聞こえる。神と思われる二人のやり取りが続いていたが、それは次第に遠ざかり――やがて、完全に聞こえなくなった。
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