元・社畜とオーク ~コピースキルで【異世界行商】始めました~

たいよう一花

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06-4. 特別な感情の芽生え 1

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 覆水(ふくすい)盆(ぼん)に返らず、という言葉がある通り、起きたことを元に戻すことはできない。失われた命は二度と戻らない。

 ユキナは、子供の頃の自分の体験を思い出した。飼っていた可愛い小鳥のことを。
 水色の羽が美しいセキセイインコだった。雛(ひな)から育てたのでよくなつき、時折籠(かご)から出して室内で遊ばせていた。ある日もそうやって自由に飛ばせていたのだが、外から帰ってきた母が玄関の扉を開け放ち――。

(ああ……)

 あの時の記憶を思い出すたび、ユキナの心は抉(えぐ)られ、後悔と悲嘆でいっぱいになる。
 慌てたユキナが勢いよく扉を閉じたとき、小鳥は外に飛び出そうとしているところだった。
 遅すぎた――あるいは、早すぎた。
 少しでもタイミングがずれていれば、小鳥が死ぬことはなかった。
 しかし間が悪く、ユキナが閉めた扉に挟まって、小鳥は絶命した。

(ああ……ああ……)

 何度後悔したことか。こんなことになるなら、扉を閉めなければよかった、と。
 自らの手で殺めてしまった事実を、二度と取り返しのつかない過ちを、何度、悔やんだことか。申し訳なくてたまらなかった。小さな愛おしい存在を手の中で抱きしめ、何度も何度も謝った。肌に触れる艶やかな羽根。それはもう、二度と羽ばたかない。
 そのときの感触、絶望、悲嘆、後悔。
 色褪(いろあ)せはしない。
 何度も何度も鮮明に、よみがえってくる。

 たった一度の過ちさえ、どんなに時が流れてもこれほど心を打ちのめす。
 それが、このオークの場合、一つや二つではないのだ。
 善良な心が芽生えた彼に押し寄せる種々の感情は、どれほど激しいものだろうか。想像しただけで、ユキナは「耐えられない」と感じた。
 きっと彼は、自死を考えただろう――ユキナのその考えを肯定するように、オークが再び口を開いた。

「俺は、せめて……死んでつぐなおう、そう思った。しかしそれを実行に移そうとしたとき、ある事件に遭遇したのだ。人間の子供たちがゴブリン共に襲われ、連れ去られようとしていた。それを阻止し、子らを救い出し、無事に親元に返すことができたとき、俺は気付いた。この先は、俺が殺めた命と同数か、それ以上の命を救うために生きるべきだ、と」
 
 厳かな決意を告げる、オークの声。その響きには、彼の背負う重い宿命が込められていた。

(尊い……)

 オークの高潔な心に、ユキナは感動した。
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