元・社畜とオーク ~コピースキルで【異世界行商】始めました~

たいよう一花

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06-3. オークの苦悩 3

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「俺は魔界で生まれ育ったが、あるとき仲間のオークと鉱山をさまよっているうちに、この世界に辿たどり着いたのだ。ここに来た当初は、俺は凶暴な魔物だった。今、俺が他のオークと違うのは、奇妙な体験をしたからだ。それは三年ほど前のことだ。いつものように残虐な狩りを楽しんでいたある日、俺は仲間とはぐれ、気が付けば見たこともない美しい場所にいた。いい匂いのする果実が、周囲の木にたくさん実っていた。俺はそのうちの一つをもぎ、食べた。その途端、異変が起こった。俺の心に、今まで感じたことのなかった憐(あわれ)みの心が芽生えたのだ」

 話を続けながら、オークは温まってきたユキナの手を離し、今度はユキナの上半身を温めるために抱きしめ、背中をさすり始めた。
 ユキナは背中がぽかぽかしてゆくのを感じながら、オークの声に耳を傾けていた。

「後から知ったのだが、俺の食べたものは『善なる知恵の実』という、半ば伝説上の果実だった。俺が迷い込んだのは、どこにあるとも知れない神々の園だったらしい。その後、俺はいつの間にやら元の場所に戻ってきたのだが、あの不思議な場所に迷い込むことは、二度となかった」

 いつの間にかユキナは、すっかり寒さを忘れ、オークの言葉に集中していた。

「知恵を得て、憐憫(れんびん)の心を知った俺は、激しく後悔した。多くの命を、何のためらいもなく殺してきたことを。申し訳なくてたまらなくなった。俺は取り返しのつかないことをしてきたのだ。たくさん殺した。たくさん、たくさん、たくさん……」

 嗚咽(おえつ)まじりのオークの声は、かすれている。

「ああ……俺はなんと、愚かだったことか。命乞いをする親の前で、幼い子供の命すら奪った。しかも笑いながら。……俺は……俺は……何ということを……」

 ユキナは、先程オークがうなされていた原因に気付いた。
 「やめろ」と叫んでいたのは、かつての自分に対してなのだろう。彼は恐らく、自分が行った過去の凄惨(せいさん)な現場シーンを、夢の中で再現していたに違いない。きっとその悪夢は一度や二度ではなく、繰り返し訪れ、彼を終わらない悔恨(かいこん)の責め苦の中に叩き落としてきたに違いない。

 犯した罪の大きさに気付き、今なお震え続けるオークの心情を想像したユキナは、激しい自罰(じばつ)感情を抱きながら生き続けるのはどれほど苦しいことだろうか、と思い描いた。

 ユキナは掛ける言葉も見つからず、黙ってオークを見つめていた。そうして静かにオークの咽(むせ)び泣きを聞くうちに、自分も悲しくなってくる。元々共感力が高めなユキナは、映画鑑賞や読書で悲しいシーンに遭遇するだけで、泣いてしまうことがよくあった。この徳高く親切なオークが嗚咽する姿を見て、心が震えないはずもなく、いつの間にやら一緒に泣き出していた。

「オークさん……オークさん……う、う……」

 ユキナは自分もオークの背中に手を回し、そっと彼の背中をさすった。グスッと鼻をすすり、泣きながら。

「ああ……ユキナ……なぐさめてくれるのか。俺の過去の悪行を知ってもなお、優しくしてくれるのか。だがおまえの優しさに、俺は値しない。俺の罪は生涯消えない。いいや、死んでも消えないだろう」

 そんなことはない、と言ってあげたかった。しかし、表面上の薄っぺらいなぐさめなど、何になるだろうか?
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