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第23話 真実/1
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翌朝、一晩中眠れずに朝を迎えたグレイは、ベッドから体を起こすと二人分の朝食を用意し始めた。
そうしている間も、グレイの胸中には様々な思いがひしめき合う。昨夜の衝撃的な出来事は、いまだグレイの心を大きく揺さぶっていた。
下劣な客からレネを守るためにはどうすればいいのか、自分に何ができるのか、しかし何かすればレネに嫌われるのではないか、すぐにでも契約を打ち切られて別れを告げられてしまうのではないか。どれほど考えても答えは出ない。ただモヤモヤとした重苦しい気持ちだけが、取り除けない澱のように心に溜まってゆく。
それでも、物思いをやめることができなかった。
うずくまって泣いていたレネを思い出すたび、グレイの胸に張り裂けそうな痛みが走る。同時にあの酷い傷が頭に浮かんでくるのを避けられず、レネは今までにどれほど辛い目に遭ってきたのだろうかと思いを馳せるたび、グレイの庇護欲はかつてないほど激しく燃え上がった。
そして――庇護欲と同時に必ず湧き起こってくる別の感情があった。
それは、強い独占欲だ。
レネを誰にも渡したくない。二度と他の男の所へ行けないよう、腕の中に抱き込んで独り占めしたい。できることならこの家に閉じ込めてしまいたい。
しかしそれをレネに伝えれば二人の関係が今すぐ解消されてしまいそうで、グレイは逡巡と煩悶を抱えるばかりだった。
朝食を作り終えたグレイはレネの分を戸棚に仕舞うと、一人で食べ始めた。
先程そっとレネの寝室を覗き込んだ時、彼はまだ眠っていた。さぞかし疲れたのだろう。起こしたくなかった。涙の痕の残るレネの寝顔を見るうち、グレイは胸の奥から愛おしさが湧き起こってくるのを感じた。
レネの傍を離れたくない。できれば今日はこのまま家にいたい。グレイは強くそう思ったが、朝食を食べ終わるや、彼は仕事に向かう準備を始めた。
今日庭師として訪問する予定が入っているのは、レネのことを紹介してくれた人物の家だ。もしかしたら彼らから、現状を打開するための何か有用なアドバイスをもらえるかもしれない――そんな期待があり、グレイはそっと家を出ると仕事に向かった。
グレイが向かったのは、裕福な庶民が暮らす閑静なエリアだ。そこに今日の仕事場である一軒の屋敷がある。家自体は比較的小ぶりだったが、庭はかなり広い。その屋敷に住まう老双夫だけでは手入れが難しいだろう。しかし貴族の邸宅ほど広くはないため、専用の園丁を雇うほどでもない。グレイの顧客は、そういうタイプが多かった。
その顧客はグレイにレネを紹介してくれた人物で、名前をジェフという。有名な学者だそうだが、学のないグレイはよく知らない。知っていることといえば、彼が温厚で親切な老人で、信頼できる人物ということだけ。しかしそれだけ知っていれば、十分だった。
屋敷に到着したグレイがざっと庭の状態を確認していたとき、家の中からジェフが顔を出した。
「やあ、グレイ君。今日もよろしく頼むよ」
「はい、お任せください。お二人ともお変わりありませんか」
「おかげさまでね。あとでお茶を出すから、上がっておくれよ」
「ありがとうございます。剪定に何かご要望はありますか?」
「それなんだけどね……」
一通り話を聞いたのち、グレイはさっそく仕事に取り掛かった。
三時間ほど過ぎた頃、ジェフとその配偶者のマルセルからお茶に誘われたグレイは、彼らと共にテラスで休憩を取ることにした。
「ところでグレイ君、レネ君とはうまくいっているかい?」
「……あ、……はい」
顔を曇らせるグレイに、ジェフたちがそっと尋ねてくる。
「おや、何かあった?」
そうしている間も、グレイの胸中には様々な思いがひしめき合う。昨夜の衝撃的な出来事は、いまだグレイの心を大きく揺さぶっていた。
下劣な客からレネを守るためにはどうすればいいのか、自分に何ができるのか、しかし何かすればレネに嫌われるのではないか、すぐにでも契約を打ち切られて別れを告げられてしまうのではないか。どれほど考えても答えは出ない。ただモヤモヤとした重苦しい気持ちだけが、取り除けない澱のように心に溜まってゆく。
それでも、物思いをやめることができなかった。
うずくまって泣いていたレネを思い出すたび、グレイの胸に張り裂けそうな痛みが走る。同時にあの酷い傷が頭に浮かんでくるのを避けられず、レネは今までにどれほど辛い目に遭ってきたのだろうかと思いを馳せるたび、グレイの庇護欲はかつてないほど激しく燃え上がった。
そして――庇護欲と同時に必ず湧き起こってくる別の感情があった。
それは、強い独占欲だ。
レネを誰にも渡したくない。二度と他の男の所へ行けないよう、腕の中に抱き込んで独り占めしたい。できることならこの家に閉じ込めてしまいたい。
しかしそれをレネに伝えれば二人の関係が今すぐ解消されてしまいそうで、グレイは逡巡と煩悶を抱えるばかりだった。
朝食を作り終えたグレイはレネの分を戸棚に仕舞うと、一人で食べ始めた。
先程そっとレネの寝室を覗き込んだ時、彼はまだ眠っていた。さぞかし疲れたのだろう。起こしたくなかった。涙の痕の残るレネの寝顔を見るうち、グレイは胸の奥から愛おしさが湧き起こってくるのを感じた。
レネの傍を離れたくない。できれば今日はこのまま家にいたい。グレイは強くそう思ったが、朝食を食べ終わるや、彼は仕事に向かう準備を始めた。
今日庭師として訪問する予定が入っているのは、レネのことを紹介してくれた人物の家だ。もしかしたら彼らから、現状を打開するための何か有用なアドバイスをもらえるかもしれない――そんな期待があり、グレイはそっと家を出ると仕事に向かった。
グレイが向かったのは、裕福な庶民が暮らす閑静なエリアだ。そこに今日の仕事場である一軒の屋敷がある。家自体は比較的小ぶりだったが、庭はかなり広い。その屋敷に住まう老双夫だけでは手入れが難しいだろう。しかし貴族の邸宅ほど広くはないため、専用の園丁を雇うほどでもない。グレイの顧客は、そういうタイプが多かった。
その顧客はグレイにレネを紹介してくれた人物で、名前をジェフという。有名な学者だそうだが、学のないグレイはよく知らない。知っていることといえば、彼が温厚で親切な老人で、信頼できる人物ということだけ。しかしそれだけ知っていれば、十分だった。
屋敷に到着したグレイがざっと庭の状態を確認していたとき、家の中からジェフが顔を出した。
「やあ、グレイ君。今日もよろしく頼むよ」
「はい、お任せください。お二人ともお変わりありませんか」
「おかげさまでね。あとでお茶を出すから、上がっておくれよ」
「ありがとうございます。剪定に何かご要望はありますか?」
「それなんだけどね……」
一通り話を聞いたのち、グレイはさっそく仕事に取り掛かった。
三時間ほど過ぎた頃、ジェフとその配偶者のマルセルからお茶に誘われたグレイは、彼らと共にテラスで休憩を取ることにした。
「ところでグレイ君、レネ君とはうまくいっているかい?」
「……あ、……はい」
顔を曇らせるグレイに、ジェフたちがそっと尋ねてくる。
「おや、何かあった?」
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