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第24話 真実/2
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三時間ほど過ぎた頃、ジェフとその配偶者のマルセルからお茶に誘われたグレイは、彼らと共にテラスで休憩を取ることにした。
「ところでグレイ君、レネ君とはうまくいっているかい?」
「……あ、……はい」
顔を曇らせるグレイに、ジェフたちがそっと尋ねてくる。
「おや、何かあった?」
「喧嘩したのかい? はは、そういうこともあるさ」
「……その……、お尋ねしてもいいでしょうか。ジェフさんは、レネとはどのようなきっかけで知り合いに……」
「彼は結構腕の良い魔道具師なんだよ。もう知っていると思うけど。それでね……」
ジェフの言葉が言い終わらないうちに、マルセルが横から口を出す。
「うちの設備の魔道具を、よく点検に来てもらっていてね。ほら、うちの人、おかしな便利道具がすごく好きでしょ、レネちゃんはどんな些細な注文にも応じてくれてね。仕事ぶりは丁寧だし、いつも親切でね、修理を頼んだらすぐ来てくれて、直してくれるんだよ。前に頼んでた無愛想な魔道具師とはえらい違いでね、僕たち双夫は彼を気に入って、……もう、五年になるかな? 彼との付き合いは。ね、ジェフ?」
ジェフはうんうんと頷いて話を続けた。
「そうそう、もう五年以上経つね。レネ君にメンテナンスを頼むようになってから、うちの魔道具は調子よくてね、助かってる。それにレネ君はすごくいい子だよ。もう知っていると思うけど」
チラ、とジェフが何か含みのある視線をよこす。その視線の意味を察するのは、鈍感なグレイでも容易いことだった。二人を引き合わせたジェフは、その後の結婚生活がうまくいっているか、心配しているのだ。もちろんそれは、ひたすらに親切心からの心配だ。他意はない。
グレイはジェフを安心させようと微笑んで、答えた。
「はい。知ってます。……レネを紹介していただいて、とても感謝しているんです。俺の生活は、以前とは大きく変わりました。レネはすごく色んなことに良く気が付いて……あれこれと世話してくれます。綺麗好きで、家の中はいつもきちんとしていて、その上料理も上手で……」
うんうんと、二人の老人が柔和な顔で頷く。
グレイは惚気話になってしまったことに照れながら、続けた。
「とても幸せで……レネを大切に思っているのですが……その……俺は、貰うばかりで……どうすれば……レネが喜ぶか、彼のために俺に何ができるか、知りたくて……」
「そばにいてあげるだけで十分だと思うよ」
「そうさ、レネちゃんはグレイ君を好きで好きでたまらないんだから! 昔親切にしてもらってから、ずっと見てたんだって」
「待ておまえ、それは内緒……」
「あ、しまった。ばらしちゃったよ」
「どういうことですか? 教えてください。俺たちはジェフさんから紹介された時が、初対面じゃ……」
「はあ……。こうなっては仕方ない、レネ君から口止めされていたんだが、許してもらうほかない」
「ごめんね、ジェフ。けど、もどかしくて。やっとレネちゃんが想いを寄せていた人と結婚したんだから、ずっと幸せでいてほしいじゃないか」
「教えてください、どういうことなんですか?」
血相を変えて詰め寄ってくるグレイに、マルセルが口火を切る。
「昔ね、レネちゃんが小さい頃。他の子供たちと一緒に、グレイ君とも遊んだことがあったんだって。レネ君は強くて親切で優しいグレイ君に好意を持ったものの、一旦、親御さんの都合で王都から離れることになったらしいよ。きっとグレイ君はもう覚えていないと言っていた」
「……子供の頃? …………いつですか⁈」
「何歳って言ってたっけ、あなた?」
マルセルに尋ねられ、ジェフはすぐさま答えた。
「レネ君が八歳の時だと、言ってたね」
グレイは考え込んだ。
「すると、その時俺は、十四歳……?」
グレイは記憶を遡った。十七年も前のことだ。
しかしどれだけ記憶を探っても、レネのことを思い出せなかった。
その当時、グレイたちは公園に普段は見かけない見知らぬ子がいたとしても、声をかけて一緒に遊んだ。特にイアンは誰にでも上手に声をかけた。ふわふわとした金髪、美しい淡緑色の目を持つ、可愛らしい容貌のイアンに優しく声をかけられれば、どんな子でも喜んで仲間に加わった。しかし王都の人の流れは移ろいやすい。一時的な滞在で、大人に連れられてくる子はたくさんいた。そういう子は、気が付けばいなくなっている。子供たちはしばらくは「また来るかな?」とその子を待ったが、やがて忘れてしまう。そういう子供のうちの一人なら、グレイの記憶から容易く抜けてしまうことは想像に難くない。
「思い出せません……レネは、その時のこと、何て言ってました?」
「グレイ君は金髪の可愛い子に夢中だったと……」
マルセルが遠慮がちにそう言った時、グレイはハッとした。
(イアン⁈ そうだ、イアンならレネを覚えて……待てよ⁈)
グレイはレネと買い物に出かけた街中で、偶然イアンと会った時のことを思い出した。あの時、イアンの様子がおかしかったことを。
――レネ? ……ひょっとして、あの、レネ? 一座の⁈
レネを見たイアンはそう言って、懐かしいというように顔を輝かせたのだ。
(イアンは記憶力がいい。どんな些細なことでもよく覚えてる。レネのダークブルーの髪と、ヘーゼル色の瞳という組み合わせは珍しいから、きっとその外見から、同一人物だと気付いたに違いない。……そうか……俺とレネは、子供の頃に出会っていたのか!)
「ところでグレイ君、レネ君とはうまくいっているかい?」
「……あ、……はい」
顔を曇らせるグレイに、ジェフたちがそっと尋ねてくる。
「おや、何かあった?」
「喧嘩したのかい? はは、そういうこともあるさ」
「……その……、お尋ねしてもいいでしょうか。ジェフさんは、レネとはどのようなきっかけで知り合いに……」
「彼は結構腕の良い魔道具師なんだよ。もう知っていると思うけど。それでね……」
ジェフの言葉が言い終わらないうちに、マルセルが横から口を出す。
「うちの設備の魔道具を、よく点検に来てもらっていてね。ほら、うちの人、おかしな便利道具がすごく好きでしょ、レネちゃんはどんな些細な注文にも応じてくれてね。仕事ぶりは丁寧だし、いつも親切でね、修理を頼んだらすぐ来てくれて、直してくれるんだよ。前に頼んでた無愛想な魔道具師とはえらい違いでね、僕たち双夫は彼を気に入って、……もう、五年になるかな? 彼との付き合いは。ね、ジェフ?」
ジェフはうんうんと頷いて話を続けた。
「そうそう、もう五年以上経つね。レネ君にメンテナンスを頼むようになってから、うちの魔道具は調子よくてね、助かってる。それにレネ君はすごくいい子だよ。もう知っていると思うけど」
チラ、とジェフが何か含みのある視線をよこす。その視線の意味を察するのは、鈍感なグレイでも容易いことだった。二人を引き合わせたジェフは、その後の結婚生活がうまくいっているか、心配しているのだ。もちろんそれは、ひたすらに親切心からの心配だ。他意はない。
グレイはジェフを安心させようと微笑んで、答えた。
「はい。知ってます。……レネを紹介していただいて、とても感謝しているんです。俺の生活は、以前とは大きく変わりました。レネはすごく色んなことに良く気が付いて……あれこれと世話してくれます。綺麗好きで、家の中はいつもきちんとしていて、その上料理も上手で……」
うんうんと、二人の老人が柔和な顔で頷く。
グレイは惚気話になってしまったことに照れながら、続けた。
「とても幸せで……レネを大切に思っているのですが……その……俺は、貰うばかりで……どうすれば……レネが喜ぶか、彼のために俺に何ができるか、知りたくて……」
「そばにいてあげるだけで十分だと思うよ」
「そうさ、レネちゃんはグレイ君を好きで好きでたまらないんだから! 昔親切にしてもらってから、ずっと見てたんだって」
「待ておまえ、それは内緒……」
「あ、しまった。ばらしちゃったよ」
「どういうことですか? 教えてください。俺たちはジェフさんから紹介された時が、初対面じゃ……」
「はあ……。こうなっては仕方ない、レネ君から口止めされていたんだが、許してもらうほかない」
「ごめんね、ジェフ。けど、もどかしくて。やっとレネちゃんが想いを寄せていた人と結婚したんだから、ずっと幸せでいてほしいじゃないか」
「教えてください、どういうことなんですか?」
血相を変えて詰め寄ってくるグレイに、マルセルが口火を切る。
「昔ね、レネちゃんが小さい頃。他の子供たちと一緒に、グレイ君とも遊んだことがあったんだって。レネ君は強くて親切で優しいグレイ君に好意を持ったものの、一旦、親御さんの都合で王都から離れることになったらしいよ。きっとグレイ君はもう覚えていないと言っていた」
「……子供の頃? …………いつですか⁈」
「何歳って言ってたっけ、あなた?」
マルセルに尋ねられ、ジェフはすぐさま答えた。
「レネ君が八歳の時だと、言ってたね」
グレイは考え込んだ。
「すると、その時俺は、十四歳……?」
グレイは記憶を遡った。十七年も前のことだ。
しかしどれだけ記憶を探っても、レネのことを思い出せなかった。
その当時、グレイたちは公園に普段は見かけない見知らぬ子がいたとしても、声をかけて一緒に遊んだ。特にイアンは誰にでも上手に声をかけた。ふわふわとした金髪、美しい淡緑色の目を持つ、可愛らしい容貌のイアンに優しく声をかけられれば、どんな子でも喜んで仲間に加わった。しかし王都の人の流れは移ろいやすい。一時的な滞在で、大人に連れられてくる子はたくさんいた。そういう子は、気が付けばいなくなっている。子供たちはしばらくは「また来るかな?」とその子を待ったが、やがて忘れてしまう。そういう子供のうちの一人なら、グレイの記憶から容易く抜けてしまうことは想像に難くない。
「思い出せません……レネは、その時のこと、何て言ってました?」
「グレイ君は金髪の可愛い子に夢中だったと……」
マルセルが遠慮がちにそう言った時、グレイはハッとした。
(イアン⁈ そうだ、イアンならレネを覚えて……待てよ⁈)
グレイはレネと買い物に出かけた街中で、偶然イアンと会った時のことを思い出した。あの時、イアンの様子がおかしかったことを。
――レネ? ……ひょっとして、あの、レネ? 一座の⁈
レネを見たイアンはそう言って、懐かしいというように顔を輝かせたのだ。
(イアンは記憶力がいい。どんな些細なことでもよく覚えてる。レネのダークブルーの髪と、ヘーゼル色の瞳という組み合わせは珍しいから、きっとその外見から、同一人物だと気付いたに違いない。……そうか……俺とレネは、子供の頃に出会っていたのか!)
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