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第25話 真実/3
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(イアンは記憶力がいい。どんな些細なことでもよく覚えてる。レネのダークブルーの髪と、ヘーゼル色の瞳という組み合わせは珍しいから、きっとその外見から、同一人物だと気付いたに違いない。……そうか……俺とレネは、子供の頃に出会っていたのか!)
グレイの表情の変化から、何かを思い出した様子を感じ取ったのだろう、マルセルが話しかけてくる。
「レネちゃんはね、容姿に自信がなくて、大人になって王都に戻ってきてからも、グレイ君に告白する勇気がなかったって言ってたよ。僕から見たら、レネちゃんも十分魅力的だと思うんだけどね。ね、そう思うだろ、グレイ君」
「はい。そう思います。非常に魅力的です」
グレイの即答を聞いて、老人二人の顔がパッと嬉しそうにほころぶ。
ジェフはお茶をすすると、グレイに微笑みながら言った。
「まあ、仲が良くても時には喧嘩もするさ。そうだ、うちの庭の薔薇を、何本か切ってあげよう。それをレネ君にプレゼントして、愛していると告げなさい。きっと仲直りできる」
「素敵! ぜひそうしなよ! ちょうど、あのピンクの薔薇が咲いたばかり。帰りに切ってあげるよ」
グレイはその後仕事に戻り、昼過ぎ、親切な二人から薔薇をもらって家路に就いた。
その途中で、グレイはイアンの家に立ち寄った。イアンはまだ家で療養中のため、在宅のはずだ。そう思ってグレイが訪ねてみると、イアンは驚きながらも歓迎してくれた。
「グレイ! どうしたの、そんなに慌てて。さあどうぞ、中に入って」
「いや、玄関先でいい。イアン、レネのことを知りたいんだ。子供の頃のことを。俺たちは子供の頃、一緒に遊んだことがある。……そうだよな?」
「えっ……。グレイ、思い出したの? この前は忘れている風だったのに……」
「ああ……いや、思い出せない。だが、思い出したい。……レネを、失望させただろうから……」
「レネと何かあったの? 喧嘩でもした?」
「…………」
「……僕さ……グレイと結婚した人がレネだって知って……びっくりした。僕がこんなこと言うのおかしいかもしれないけど……グレイ、レネを大切にしてあげてね」
「……大切にしたいと、思っている」
「うん……。……ねえグレイ、正直に答えて。僕の治療費を工面するために、レネと結婚したの?」
「…………」
「僕が入院する前、グレイ言ってたでしょ、お客さんの紹介でレネと出会って、お互い恋愛感情を抱くようになって、結婚することになったって。それを聞いた時、僕はとても嬉しかった。遂に……グレイを幸せにしてくれる人が、現れたんだって」
一旦口を閉じたイアンは、複雑な微笑みを湛えてグレイを見つめた。その表情には、様々な感情が入り混じっている。喜び、戸惑い、ほのかな希望、逡巡、それらの間で揺れ動きながらも、イアンはしっかりとした口調で言葉を続けた。
「ねえ、グレイ。僕は君が、どれほど愛情の深い人か知っている。その愛情が、どこに向いていたかも。それに応えられない僕は、どれほど願ったかしれない。いつか、グレイの心を射止める素敵な人が現れて、その人と二人、グレイが幸せになりますようにって」
グレイはもうずっと、自分の恋心がイアンにばれていることに気付いていた。しかし二人とも、暗黙の了解で知らないふりをしてきたのだ。
「僕は遂にその人が現れたんだって、どんなに嬉しかったか。でも、その人があのレネだって知ってから、二人の関係を疑うようになった。ねえグレイ、違ってたら許してね。結婚を持ち掛けてきたのはレネで、それには何か条件があったんじゃない? だってレネはもうずっと昔から、君に恋してる。今も、ずっと」
「! なんで、それを知って……」
「わかるよ。僕の察しの良さ、知っているでしょ? でも僕じゃなくても、大抵の子は気付いたと思うな。レネは君に夢中だった。特に君が、レネをかばって目のそばに傷を負ってからは……いつもいつも、君を見てた」
「傷? この、傷のことか?」
グレイは左目のそばの傷跡を指でなぞり、ハッとした。
この傷は、一緒に遊んでいた子供の一人をかばった時にできたものだ。
「あの子供が、レネか!」
「思い出した? 君に振り向いてほしくて、一生懸命だった可愛い一途なレネを」
「ああ……ぼんやりと……。そうか……ほんの半年ほど王都にいたあの子が……。確か旅芸人の、一座の子だったな? ……意外だ、魔道具師になるとは……」
「うん。きっとたくさん勉強したんだろうね。王都に帰ってきたくて、頑張ったんじゃないかな。魔道具師なら、どこに行っても仕事にあぶれることはないもの」
「あの子供が……レネ……。くそ、何でもっと早く思い出さなかったんだ……」
「ねえグレイ、答えて。君はもしかして、僕の治療費のために、レネと結婚したんじゃない?」
うまくごまかすこともできず、グレイは正直に答えた。
「そうだ。初めは、そうだった。……でも今は……俺は、レネを……」
グレイはイアンの美しい緑色の瞳を見つめながら、はっきりと言った。
「レネを、愛してる」
口にした途端、心の中の堰を越え、感情の大波がどっと押し寄せてきた。その奔流はすべてのしがらみを洗い流し、たった一つの言葉を繰り返しグレイに叩きつける。
(愛してる。そうだ、俺はレネを愛してる。愛してる! レネも俺を想っているなら、この言葉を告げるだけでいい。契約を解除して、やり直すことが出来る!)
グレイはイアンに向かって「帰る」とだけ告げ、家の外に出た。その背中に、イアンの声が飛んでくる。
「グレイ、すぐそこの『エモイ菓子店』で、生クリームキャラメルを買って帰って! レネはあれが大好きだった。それから僕の名前は絶対出しちゃダメだよ! 僕に会ったことは内緒にして! レネを不安にさせてしまうから!」
「わかった。ありがとう、イアン」
グレイは胸を弾ませ、大急ぎで生クリームキャラメルを購入すると、走って家に向かった。
家に帰りついたグレイは、すぐに異変に気が付いた。
居間の方から、レネのうめき声と共に、誰かの怒声が聞こえてくる。
「静かにしろ! ご隠居の使いで来たと言っただろう! おまえの体の傷跡を、影残魔法で撮ってこいと言われたんだ。ちゃんと報酬も用意してある、おとなしく見せろ!」
グレイは大急ぎで居間に向かって走った。
グレイの表情の変化から、何かを思い出した様子を感じ取ったのだろう、マルセルが話しかけてくる。
「レネちゃんはね、容姿に自信がなくて、大人になって王都に戻ってきてからも、グレイ君に告白する勇気がなかったって言ってたよ。僕から見たら、レネちゃんも十分魅力的だと思うんだけどね。ね、そう思うだろ、グレイ君」
「はい。そう思います。非常に魅力的です」
グレイの即答を聞いて、老人二人の顔がパッと嬉しそうにほころぶ。
ジェフはお茶をすすると、グレイに微笑みながら言った。
「まあ、仲が良くても時には喧嘩もするさ。そうだ、うちの庭の薔薇を、何本か切ってあげよう。それをレネ君にプレゼントして、愛していると告げなさい。きっと仲直りできる」
「素敵! ぜひそうしなよ! ちょうど、あのピンクの薔薇が咲いたばかり。帰りに切ってあげるよ」
グレイはその後仕事に戻り、昼過ぎ、親切な二人から薔薇をもらって家路に就いた。
その途中で、グレイはイアンの家に立ち寄った。イアンはまだ家で療養中のため、在宅のはずだ。そう思ってグレイが訪ねてみると、イアンは驚きながらも歓迎してくれた。
「グレイ! どうしたの、そんなに慌てて。さあどうぞ、中に入って」
「いや、玄関先でいい。イアン、レネのことを知りたいんだ。子供の頃のことを。俺たちは子供の頃、一緒に遊んだことがある。……そうだよな?」
「えっ……。グレイ、思い出したの? この前は忘れている風だったのに……」
「ああ……いや、思い出せない。だが、思い出したい。……レネを、失望させただろうから……」
「レネと何かあったの? 喧嘩でもした?」
「…………」
「……僕さ……グレイと結婚した人がレネだって知って……びっくりした。僕がこんなこと言うのおかしいかもしれないけど……グレイ、レネを大切にしてあげてね」
「……大切にしたいと、思っている」
「うん……。……ねえグレイ、正直に答えて。僕の治療費を工面するために、レネと結婚したの?」
「…………」
「僕が入院する前、グレイ言ってたでしょ、お客さんの紹介でレネと出会って、お互い恋愛感情を抱くようになって、結婚することになったって。それを聞いた時、僕はとても嬉しかった。遂に……グレイを幸せにしてくれる人が、現れたんだって」
一旦口を閉じたイアンは、複雑な微笑みを湛えてグレイを見つめた。その表情には、様々な感情が入り混じっている。喜び、戸惑い、ほのかな希望、逡巡、それらの間で揺れ動きながらも、イアンはしっかりとした口調で言葉を続けた。
「ねえ、グレイ。僕は君が、どれほど愛情の深い人か知っている。その愛情が、どこに向いていたかも。それに応えられない僕は、どれほど願ったかしれない。いつか、グレイの心を射止める素敵な人が現れて、その人と二人、グレイが幸せになりますようにって」
グレイはもうずっと、自分の恋心がイアンにばれていることに気付いていた。しかし二人とも、暗黙の了解で知らないふりをしてきたのだ。
「僕は遂にその人が現れたんだって、どんなに嬉しかったか。でも、その人があのレネだって知ってから、二人の関係を疑うようになった。ねえグレイ、違ってたら許してね。結婚を持ち掛けてきたのはレネで、それには何か条件があったんじゃない? だってレネはもうずっと昔から、君に恋してる。今も、ずっと」
「! なんで、それを知って……」
「わかるよ。僕の察しの良さ、知っているでしょ? でも僕じゃなくても、大抵の子は気付いたと思うな。レネは君に夢中だった。特に君が、レネをかばって目のそばに傷を負ってからは……いつもいつも、君を見てた」
「傷? この、傷のことか?」
グレイは左目のそばの傷跡を指でなぞり、ハッとした。
この傷は、一緒に遊んでいた子供の一人をかばった時にできたものだ。
「あの子供が、レネか!」
「思い出した? 君に振り向いてほしくて、一生懸命だった可愛い一途なレネを」
「ああ……ぼんやりと……。そうか……ほんの半年ほど王都にいたあの子が……。確か旅芸人の、一座の子だったな? ……意外だ、魔道具師になるとは……」
「うん。きっとたくさん勉強したんだろうね。王都に帰ってきたくて、頑張ったんじゃないかな。魔道具師なら、どこに行っても仕事にあぶれることはないもの」
「あの子供が……レネ……。くそ、何でもっと早く思い出さなかったんだ……」
「ねえグレイ、答えて。君はもしかして、僕の治療費のために、レネと結婚したんじゃない?」
うまくごまかすこともできず、グレイは正直に答えた。
「そうだ。初めは、そうだった。……でも今は……俺は、レネを……」
グレイはイアンの美しい緑色の瞳を見つめながら、はっきりと言った。
「レネを、愛してる」
口にした途端、心の中の堰を越え、感情の大波がどっと押し寄せてきた。その奔流はすべてのしがらみを洗い流し、たった一つの言葉を繰り返しグレイに叩きつける。
(愛してる。そうだ、俺はレネを愛してる。愛してる! レネも俺を想っているなら、この言葉を告げるだけでいい。契約を解除して、やり直すことが出来る!)
グレイはイアンに向かって「帰る」とだけ告げ、家の外に出た。その背中に、イアンの声が飛んでくる。
「グレイ、すぐそこの『エモイ菓子店』で、生クリームキャラメルを買って帰って! レネはあれが大好きだった。それから僕の名前は絶対出しちゃダメだよ! 僕に会ったことは内緒にして! レネを不安にさせてしまうから!」
「わかった。ありがとう、イアン」
グレイは胸を弾ませ、大急ぎで生クリームキャラメルを購入すると、走って家に向かった。
家に帰りついたグレイは、すぐに異変に気が付いた。
居間の方から、レネのうめき声と共に、誰かの怒声が聞こえてくる。
「静かにしろ! ご隠居の使いで来たと言っただろう! おまえの体の傷跡を、影残魔法で撮ってこいと言われたんだ。ちゃんと報酬も用意してある、おとなしく見せろ!」
グレイは大急ぎで居間に向かって走った。
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