愛など要らない金さえあれば/愛が無いならせめて体だけでも/と最初は思っていた。

たいよう一花

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第28話 両想いのスパイス/1

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 レネは息を呑んで、潤んだ瞳をグレイに向けた。

「どうして、知って……。ま、まさか、お、お、思い出し……」

「ああ、思い出した。ヘーゼル色の瞳の子が、俺の腕の中に落ちてきた時のことを」

 そう言ってグレイは、自分の傷跡を指先で撫で、意味深な笑顔をレネに向けた。
 それを見たレネが、ポロポロと涙をこぼす。

「グレイ……俺、俺……ずっと……」

 グレイはレネの眼鏡を外し、涙の滑り落ちた頬を大きな両手で包んだ。そして、そっと優しく唇を重ねる。

「んっ……、んん……グレイ……」

「レネ……」

 その囁きに、レネは聴き入った。自分の名を呼ぶグレイの声は、確かに今までよりずっと、特別な響きを伴っている。

 ついばむような優しい触れ合いは、次第に熱を帯び、いつの間にか二人は激しく唇を重ね合わせていた。互いの唾液と息が絡み合い、混ざり合って溶けてゆく。
 情熱的な口付けに、二人は酔いしれた。

 やがてグレイは名残惜し気に唇を離すと、レネの濡れた瞳を見つめながら囁いた。

「レネ……愛してる」

「!」

 あれほど待ち望んだ言葉。
 夢に描いた展開。
 それを耳にし、目の前にしているというのに、レネは喜びより恐怖を感じていた。こんなこと、あるはずがない、と。

「嘘だ。グレイ、あなたは俺との契約を終わらせたくなくて、適当に俺のご機嫌を取ろうと……」

「違う。その反対だ。レネ、俺はもう契約を終わらせたい。名実ともにおまえと双夫そうふになりたいんだ。おまえにもらった金は、この先少しずつ返そうと思う。何年かかるか分からないが、生涯を俺と連れ添って、完済を見届けてくれ。レネ、頼む」

「……う……嘘だ……。……あ、わかった、俺とのセックス……魔道具を使った快感に、病みつきになったんですね? だから……」

 グレイは突然レネを抱き上げると、浴室へと向かった。

「な、な、何をするんです、グレイ⁈」

「俺はほこりと汗まみれだからな。まず汚れを落とす。一緒に来てもらうぞ、逃げられないようにな。共に湯浴みをして、そのあと、愛し合おう……もちろん……」

 グレイはレネの服を脱がせながら、耳元に息を吹きかけ囁いた。

「魔道具なしで」

「!」

「証明してみせる。魔道具の力を借りなくても、最高の快楽を二人で味わえると。互いの愛が、最高のスパイスだ。愛してる、レネ、愛してる」

「……っ、……!」

 顔を真っ赤にして言葉をくしているレネに顔を寄せ、グレイはとどめとばかりに呟いた。

「何度でもかせてやる。よすぎておまえが気絶しても、離さない。レネ、覚悟はいいか……」

「……っ、……っっ!」

 何が起こっているのかわからず、レネはガクガクと震えながら固まっていた。その間にグレイに全裸にされ、浴室に運び込まれ、すっかり体中を洗われたレネは、いつの間にか浴槽にたっぷり満たされた湯の中に、一人で浸かっていた。
 湯煙の向こうには、念入りに自分の体を洗うグレイの姿が見える。
 レネが相変わらず放心状態のままぼんやりしていると、体を洗い終えたグレイが浴槽の中に入ってきた。一人用の小さな浴槽から湯があふれ出し、音を立てて排水溝に吸い込まれてゆく。レネは後ろからグレイに抱きしめられ、彼の体に拘束されるように、すっぽりとくるまれた。

(……え……。これは……どういう、状況だ?)

 レネはフリーズしたままの脳内で、何とか現状把握を試みようとした。
 背中には、ぴったりと密着したグレイの逞しい胸の感触がある。
 尻には何か、硬いものが当たっている。それはどうやらグレイの勃起らしい。
 湯の温度は快適だが、グレイがぎゅうぎゅうに抱きしめてくるため暑くて苦しい。

(……え? なんだ……これ? 俺、今、何をしてるんだ? まるで……)

 愛し合う双夫が一緒に風呂に入っているみたいだ。
 そう思った途端、ついさっき囁かれた、グレイの告白が脳裏に甦る。

 ――レネ……愛してる。

 ボッと、顔に火が点くように熱が上った。

(ま、ま、まさか……本当に⁈)

 レネは信じられず、ひょっとして自分はまだ眠っていて、この一連の出来事はすべて夢ではないかと思い始めた。

「きっとそうだ……。昨日は本当に疲れたから……俺はまだ、寝てるんだ……これは全部夢……」

「夢じゃないぞ? おまえも俺も、はっきり目を覚ましている」

「⁈」

「……すまなかったな、レネ。俺は鈍感だから……ずっと、おまえの気持ちに気が付かなかった。許してくれ。これから、埋め合わせをするから……」

 しっとりとまとわりつくように、グレイの低い声が耳をくすぐる。湯の中で大きな手がレネの体をあちこち這いまわり、指が胸の尖りをやんわりとつまんだ。

「ふぁっ……っ!」

「ああ、レネ……教えてくれ、右と左、どっちがより感じる?」

 耳に息を吹きかけながら、背後のグレイがそんなことを聞いてくる。太い指でレネの両乳首を弄びながら。

「や、ちょ、……あ、あ!」

 逃れようと体をひねると、後ろからがっしりと抱きすくめられてしまった。
 そうしてグレイは、子供をあやすように囁く。

「しーっ……、レネ。じっとしてろ。おまえの細い体を潰してしまいそうだ。大丈夫、これは夢じゃない。現実だ。よしよし……いい子だな、レネ……」

「は……はわ……。ふううぅ……」

 レネはもう、何も考えられなくなった。頭は沸騰しているかのようで、熱に浮かされた体はふわふわと覚束おぼつかない。

 全身を真っ赤に染め、荒い呼吸で苦しそうにしているレネを見て、グレイは慌てて湯から体を引き上げた。

「のぼせたか? すまん、レネ。もう上がろうな」
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