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1巻
1-3
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声に出すこともせず、美緒は『もう眠たい』『でも、ユウ君を待っていなきゃ』『何だか目を休めたい』『ううん、続きは後って……ユウ君が言ってた……』と、心の中で一人会話をしている。起きていなければという気持ちは強く、そのために頭の中では大きな声で話しているつもりだった。……それでも、睡魔に襲われた身体は正直で、ゆっくりと力が抜けていった。
時間の感覚はわからない。時々聞こえるテレビの音が、辛うじて眠りかけの頭を現実に呼び戻す。だがそれも長くは続かない。
「……」
もう完全に落ちる。誰かがその場にいたらきっと、そう思ったであろうその時。
「……美緒?」
「……ん……」
戻った悠斗が美緒に声を掛けた。
「あ、ゴメン。寝てたね」
「ん……んんぅ……だい、じょうぶ……」
「うそうそ。寝てたでしょ。遅くなっちゃったね、ゴメンね?」
「……ううん……ふぁ……」
「ホラ、欠伸してる。歯磨いて、ベッド行こう?」
「……うん」
悠斗はゆっくりと美緒の身体を起こすと、その手を引いて一緒に洗面所へと向かい、揃って歯を磨いた。
「ふぅ……あ……」
「……くくっ……またそんな、大きな欠伸して……」
「明日お休みだと思ったら、気が抜けちゃって」
「気持ちわかるよ。俺もそう」
「眠たいって強いよね」
「それね。睡魔には勝てない」
「ゴメン……ちゃんと起きてようと思って、テレビもつけたんだけど……」
「別に良いよ? 美緒の可愛い寝顔も見られたことだし?」
「や、やだもう……」
「ま、俺のほうが遅く寝る時と、早く起きる時は毎回見てるんだけどね」
「……そういうの、余計恥ずかしいんですけど……」
「え? そう?」
「口元が笑ってるよ、ユウ君……わざとでしょ……」
「……ばれた?」
「もう!」
「いや、でも、可愛いのは事実だから。あと、見てるのも」
「……変態!」
こんなことは日常茶飯事だ。恥ずかしくなると美緒は、いつもそっぽを向いて悠斗から離れていた。……ただの照れ隠しだ。何か言い返すことも、恥ずかしくてできない。だからといって『可愛い』と言われたことに対して肯定もできないでいた。
そんな美緒に対し、悠斗はいつも同じ反応をする。恥ずかしがってはいるものの、怒ってはいないはず。そう考えている悠斗は、美緒の後を追いかける。
「……美緒?」
「……」
いつの間にか布団に潜り込んでいた美緒に声を掛ける。当の美緒は布団の中に潜り込み、悠斗に背中を向ける形で目を閉じていた。しっかりと、悠斗の入れるスペースを隣に残して。
悠斗は部屋の明かりを消して自分も布団へと入ると、背中から美緒を抱き締めた。
「……可愛い」
「……べ、別に可愛くないし……」
「可愛いよ? 一番。俺の中では誰よりも」
「……そんなことないし」
「……うーん。美緒、自分が人気あるのわかってる?」
「……え?」
「会社でね。付き合ってる間も、結婚してからも、『美緒ちゃん可愛い』とか『付き合ってくれないかな』とか、『一緒にご飯行ってくれないかな』とか周りが言ってるからね。……俺の奥さんを気安く『美緒ちゃん』なんて呼んでほしくないんだけどね」
「そ、それはユウ君も一緒だよ……?」
「え、俺?」
「うん……。今日、給湯室のところで聞いちゃったんだよね。『カッコイイ』とか『彼女になりたい!』とか、新人の子たちが言ってるの」
「それ、ホントに俺の話?」
「そうだよ! ……その場にシステム部の新人の男の子がいて、その子が喋ってるの聞いたら、間違いなくユウ君の話だったもん」
「はぁ……俺もそんな風に言われてるんだ」
「らしいよ。今日、笹野さん……奥さんのほうね? にも言われたんだけど。ファンクラブがあるとか何とか……」
「ふっ……ふふっ……! 何だそれ。変なの」
「おかしいよね?」
「まぁ、でも、美緒のほうはわからんでもないな。自分で気が付いてないだけで、システム部でも結構よく聞くからね。……みんな、旦那の俺がいるのに、よくもまぁあんなにあけすけに話すなと思うけど」
美緒は驚いた。悠斗も自分と同じように、全く知らないと思っていたからだ。思わず回されていた悠斗の腕を外し、目線が合うように身体を動かす。そして、甘えるように悠斗の胸に顔を埋めた。
「……知らなかったの、私だけ?」
「ファンクラブの話と、俺も何か言われてるのは知らなかったよ。美緒の話は知ってた。……変に意識されたくないから、黙ってたけど」
「……ちょっとくらい教えてほしかったよ?」
「美緒は俺のなんだから、そんなこと気にしなくて良いの」
(うあぁ……何それ照れる……!)
美緒は緩む口元を抑えるために、真一文字に唇を結んだが、ピクピクと反応している。悠斗といえば、『当然のことでしょ?』とでも言うように、真顔から表情を崩していない。実はこの時、悠斗は心の底からそう思っていたが、美緒はまた揶揄われていると捉えていた。
「もしかしたら、他にも変な話出てきちゃうのかな……?」
「可能性はあるかもね。ま、無視して良いと思うけど。……あ、でも、誘いには乗るなよ? あわよくば狙ってそうな人たちも多そうだし」
「わかってるよ……。……ユウ君もね?」
「はいはい、わかってる」
「……ユウ君優しいから、困ってたら一緒にご飯とか行っちゃいそうだし」
「それは美緒のほうだと思うけど? 俺以外について行かないように。良いね?」
「……わかってるもん……」
「もしついて行ったら……俺のだってわかるまで……どうしてあげようかな?」
「ユウ君だって私のだもん!」
「俺はついて行かないよ? 美緒一筋だけど?」
「同じ! 私も! むしろ私のほうが好きだし! 絶対!」
「俺の気持ち、わかってないなぁ。……まぁ良いや。そういうことにしといてあげる」
「えぇ……何それぇ……」
「別に? ……ところで美緒」
「何?」
「目、覚めてきた?」
「……あ、う、うん。ちょっと、ね」
「じゃあ、さっきの続き」
「……え?」
「こっち、向いて?」
悠斗の言葉に美緒は顔を上げる。暗闇に慣れた目には、しっかりと悠斗の顔が映っていた。もちろん、悠斗の目には美緒の顔が映っている。
「……ん……」
ニコリと微笑むと、悠斗は美緒にキスをした。
「ん……」
「……ね? ホラ、可愛い」
「……もう!」
(だから……! 恥ずかしいの……!)
口にしては悠斗の思うツボだ。そう思う美緒は決して口には出さない。なぜならば、そんな台詞を吐いた美緒に向かって、悠斗はまた『可愛い』と言うからだ。そんなことを言われたら、その言葉に対してまた照れてしまう。美緒はまた、悠斗の胸に顔を埋めた。
「ダメだよ、美緒」
「ユウく……んん……っ……」
「……こうしたら、こっち見てくれる?」
「あ……まっ……ん……っ!」
悠斗の手が、美緒のパジャマの中にするりと入り込む。
「スベスベで気持ち良いよ、美緒の肌」
「やっ……ちょ……ん……んぅ……んんっ……ふ……ぅ……」
耳元で囁くと、悠斗はすぐに美緒の唇を自分の唇で塞いだ。そして、ゆっくりと舌を唇に這わせると、そのまま口の中へと入れて美緒の舌を蹂躙する。
「ん……う……っ……ふぅ……ぅ……」
お互いに舌を絡めると、吸い付くような音と唾液の混ざる音が寝室に響いた。
「……んぅ……!」
パジャマに入り込んだ悠斗の手は美緒の肌をそのまま堪能していた。てのひら全体で撫でるように、時には指先でくすぐるように、美緒に刺激を与える。その手は背中、胸元、お腹、太ももと、反応を楽しむように一箇所にはとどまらず移動していた。
「ぅあ……っ……! ぁ……ゆ……ゆう、くん……」
「……美緒の反応が可愛いからさ。背中、気持ち良い?」
「あぁっ……!」
「うん、気持ち良いね? 俺も、触ってて気持ち良いよ?」
「ふぅ……ん……っ……んんぅ……あっ……ぁ……」
「……ふふっ。太もももスベスベ。ずっと触っていたいくらい」
「うぅ……や、だ、よぅ……」
「どうして? 美緒だって、触られるのは気持ち良いでしょう? それなら、ずっと触ってても良いんじゃない?」
悠斗の指の動きに合わせて、美緒の身体が跳ねる。この反応を見れば、誰もが『気持ち良いんだろう』と、そう思うだろう。実際、『気持ち良い?』の台詞に対して、反論することはできなかった。悠斗に撫でられるだけで気持ち良いのは、間違いなかったからだ。
「……このまま、シても良い?」
美緒は悠斗の顔を見ないまま、コクリと頷いた。
「眠いかな? って思ったから。……良かった」
「……ユウ君」
指の動きが止まった隙をついて、美緒は悠斗の顔を見る。そして少しだけ口を開いた状態で、悠斗にキスをした。
「ん……」
「……」
「……ふ……ぅ……ん……んん……っ……」
指の動きが再開するのと同時に、悠斗の舌が美緒の口に滑り込む。優しく、時に激しいキスに、美緒の心臓の鼓動は速くなった。
不思議と、何度キスをしても胸はときめき、何度でもキスをしたくなった。不意にキスをしても、悠斗はそっといつもそれを受け止めてくれる、そんな安心感があったからかもしれない。
「美緒、ホントにキスするの好きだね?」
「……ユウ君とするのが好きなんだもん」
「……もう一回言って?」
「……やだ」
「何で?」
「何でも!」
「……まぁ良いや。俺も好きだし」
ピクリ、と美緒の身体が動いた。悠斗の指先がショーツをなぞったからだ。
「……っ」
悠斗の指は、優しくショーツの上から美緒の肌を撫でると、美緒の一番弱い場所を爪の先で弾くように撫でた。
「んっ……!」
何も言わないまま、悠斗は何度も弾いた。優しいその指使いは、美緒の心臓の音をより速くさせた。
「ふぅぅ……」
布団を握る美緒の手に力が入る。美緒の弱い場所、クリトリスを撫でる悠斗の指が段々と強く、そして早く動くように変わったからだった。爪の先がいつの間にか指の腹になり、ショーツの上から外すことなく刺激してきている。強くもなく、決して弱くもないその力加減は、美緒の呼吸を荒くさせ、堪えた声を出させるのには十分だった。
「あっ……あっ……」
「……美緒、ココ触られるの好きだもんね?」
「んぅ……っ……」
「いっぱいしてほしい?」
返事はしない――恥ずかしくて返事ができない。今まで、何度同じことを聞かれただろうか。その度、否定できずにイッてしまう。間違いなく、気持ち良かった。ただ刺激されているからではない。大好きな悠斗に、まるで言葉攻めのような台詞を囁かれながら、気持ち良い場所を触られるのがたまらないのだ。
何も言わない美緒を、悠斗はそのまま刺激する。
「うぅ……っ……あ……っ……」
悠斗はクリトリスを撫で続ける。しばらくすると、美緒は掴んでいた布団から片方の手を離し、空いていた悠斗の手を握った。
「……身体がビクビクしてる。もうすぐイッちゃいそう?」
「……ふぅ……ぁ……」
「……それとも、気持ち良くない?」
その問いに、美緒は思わず首を振った。
「そっか、良かった」
そう言って、悠斗は指の動きを少しだけ速くする。そうすると、美緒の悠斗の手を握る力も強くなった。呼吸も荒くなり、力の入った手も震えている。手だけではない。身体全体が、何かを我慢するように力が込められ、足や指の先が動いてはシーツが擦れる音を何度も鳴らしていた。
「そろそろイキそう? 良いよ、イッても」
「んぁ……っ……あぁ……っ……」
「ホラ。……イキなよ、美緒」
「あぁぁ……っ……!」
悠斗の指と耳元で響く声に導かれるように、美緒は快楽に身を委ねて果てた。
ビクビクと大きく身体をのけ反らせ、はぁはぁと荒く息を吐く。絶頂を迎えた後の身体は、美緒の意志とは別にプルプルと身体を震わせた。
「……気持ち良かった?」
「うぅ……」
耳元で囁く声に、言葉で返事をすることができない。代わりに、小さく二度頷いた。
「そっか。……じゃあ、もう一回」
「え……?」
まだ余韻の残る美緒をよそに、悠斗は布団の中へと潜り込む。そして、パジャマのズボンとショーツを脱がせると、イッたばかりの身体を再度刺激し始めた。
「ん──んぅ──!」
まだ身体は落ち着いていない。先ほどまではショーツ越しに刺激していたのに、今回は指の腹で直接クリトリスに触れていた。上下に円を描くように擦り、そして突くように刺激を与える。
「あっ……あっ……あ……ぁ……」
そして、敏感になっているソレにゆっくりと息を吹きかけると、舌先で愛撫を始めた。
「ひっ……あっ……まっ……あぁ……っ……!」
おそらく『待って』と言いたいのだろう。しかし、その言葉は悠斗には届かない。舌を這わせ、唾液で濡らすと、何度も何度も美緒の弱い部分を攻め立てた。
「う……うぅ……ぁ……」
「……美緒、これ好きだもんね?」
クリトリスから唇を離した悠斗は、布団から顔を出して美緒に話しかけた。そしてまたすぐに布団の中へと戻る。
「……? ──あ──」
またクリトリスに舌先が触れると同時に、ゆっくりと秘部に指が入る。その指は中へ自分を押し付けるようにして進むと、奥のほうを刺激した。
「んんっ……んっ……」
(ダメ……ダメっ……!!)
身体はイッたばかりなのに、また次の絶頂を迎えようとしていた。中と外から気持ち良い部分を擦られ、今、美緒はほぼ強制的にイカされようとしていた。
「い……っ……ぅ……あっ……」
「……」
悠斗の舌使いと指の動く速度が速くなる。舌先で舐めていたのが、いつの間にか舌全体で覆うように舐めている。唇は、クリトリスを吸うようにして離さない。その裏側を刺激するかの如く、一本から二本に増えた指は、決まった場所を何度も何度も不規則な動きで擦っていた。
「はっ……はっ……だっ……あっ……。っ――んん――!」
身体が絶頂するのを、止めることはできない。既に一度絶頂を迎え快楽に身を委ねていた美緒は、悠斗の舌と指によって、呆気なく二度目の絶頂を迎えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
布団から出てきた悠斗は、美緒の髪を撫でキスをした。
「……ねぇ美緒、挿れても良い?」
「……うん」
美緒の返事を聞いて、悠斗は既に大きくなっていた自分のモノを取り出すと、ゆっくりと美緒の中へと挿れた。
結婚してから、避妊することはやめた。元々子どもが好きな二人は、結婚したらいつできても構わないね、と、意見が一致したからだ。すぐにできるとは限らない。こればかりは神様に任せながら、自分たちはソレを待つことにした。
「……んんぅ……」
「大丈夫?」
「う、うん……大丈夫……」
「ごめんね? 眠たいのに……」
「そんなの……良いの」
「……あー……美緒の中すごい……。二回イッたから? もうトロトロなんだけど」
「うっ……い、言わないでよそんなこと──んんっ……」
「どうして? 気持ち良いから教えてあげようと思って」
「――っ! あっ……いっ……いらないもん……そんなの……っぅ……」
正常位を選んだ悠斗の顔が見える。暗さに慣れた今、目を開けばその目の前にある悠斗の顔がよく見えた。その瞳はまっすぐ美緒を捉えている。恥ずかしい気持ちから、美緒は慌てて目を閉じた。
(あの表情……気が付いてるのかな……)
美緒が好きな悠斗の表情。それは、正常位の時に少し離れた位置から見上げると見える、悠斗の優越感に浸ったような、満足気な表情だ。少しだけ口角が上がり、やや細めた目。それはまるで、『悠斗が美緒を征服し、悦に入っている』ようにも見え、程度はわからなくともMだと自覚している美緒にとっては、たまらない表情だった。
いつもこの表情をするわけではない。ふとした瞬間、たまたま見られるモノだった。だからこそ、美緒はこの表情を見ると、胸がキュッと締め付けられて、心がくすぐられるような、甘酸っぱい感覚に襲われていた。
こんな顔、誰も知らないだろう。いいや、知っていたら困る。それに嫌だ。仕事をしている悠斗からは、想像できない表情。自分が悠斗に堕ちていくのがわかる。彼のこの表情をもっと見たい。もっとこの表情を向けてほしい。
「……どうかした?」
「う、ううん……何でもない……」
「……ふーん……なら良いけど」
「……っ……く……ぅ……」
「わかる? 奥まで当たってるの」
「う……うぅ……」
上手く言葉にならず、また恥ずかしさもあり美緒は目を瞑りながらコクコクと頷いた。
「ココね、コリコリしてるの。……何度も押したら気持ち良いかなぁ?」
「ふぁ……っ……んんぅ……ぁ……」
「それとも、押し付けたまま、奥に押すほうが良い?」
「んっ……う……っ……」
はぁはぁと漏れる声に息が混じる。嫌いではない。が、何とも表現しがたいこの感覚。美緒は、どちらであるとも返事はしなかった――正確には『返事ができなかった』と言うべきかもしれない。
悠斗の言う『コリコリしている』場所を何度押されても、グリグリと押し付けられても、言葉にならない声が漏れる。気持ち良いのか、そう問われると、『そうです』と答えることは難しかった。痛いわけではない。それに、全く気持ち良くないかと聞かれると、そうでもない。しかし、気持ち良いとは言い切れない。……一つ言えるとするならば、『何かに無性にしがみつきたい』だった。
漏れ出る声をそのままに、美緒は素直に悠斗へと手を伸ばす。美緒のしたいことがわかった悠斗は、自分の身体を美緒のほうへと寄せ、伸ばした腕を自分に絡ませた。
「どうかした?」
しっかりと腕を絡ませ、美緒は自分の顔を悠斗の首元へと埋める。そして、左右に首を振った。
ギシリと音を立ててベッドが沈む。悠斗は美緒を髪に指を絡ませ、顔を浮かせるとペロリとその首筋を舐めた。
「ふぅぅ……」
「面白いくらいに弱いよね、ココ」
「き……気のせいだもん……!」
「気のせい? ……そっか、じゃあ平気なんだよね」
「うっ……ひぁっ……!」
「……」
「……ん……ぁ……」
その顔が見えないからだろうか。意地悪そうな笑みを浮かべて、悠斗は首筋に舌を這わせている。我慢できずに漏れる声をすぐ近くで聞きながら、楽しそうに。
「ぅ……ぁ……んっ……! ぁあ……っ……」
悠斗は少しの間だけ身体を動かすことをやめていた。しかし、首への刺激を堪えきれずに、しがみつく場所を探すかのように指を動かす美緒の姿に耐え切れなかったのか、すぐに貪るように美緒の身体を求めた。
悠斗の動きに合わせるかのようにピクピクと動く美緒の指先は、まるで『もっと、もっと』と求められているようにも思え、それに応えるかのように更に奥へ奥へと自分のモノを押し進めていく。
「ゆ……ゆ、う……く……っ……んん……」
「……っ……ごめ……美緒、痛かった?」
「ちがっ……」
「ゴメン、夢中になっちゃった……」
「だ、大丈夫……その……えっと……」
「どうしたの?」
「あの、ゆ、ユウ君も、気持ち良いのかな……って……」
「……気持ち良くないわけないじゃん? 美緒の中、こんなになってるのに」
「うっ……」
「……ふふっ。美緒が俺に聞いたのに、美緒が照れるんだ」
「だ、だって……」
「……美緒としてるんだよ? 気持ち良くないなんて、有り得ないと思うんだけどな?」
「も、もう良いです……」
「どうして? 遠慮しなくて良いのに。聞きたいんでしょ?」
「ふぅぅ………!」
「……くくっ……。ゴメンゴメン。ちょっとだけ揶揄ってみたくなったの」
「もう……」
「……でもさ、美緒だってわかってるでしょ?」
「……え?」
「聞かなくたって、知ってるくせに」
耳元でそう囁くと、悠斗は身体を起こしてまた美緒を見下ろす姿勢を取る。そして、美緒のクリトリスに指を伸ばすと、指の腹でクリトリスを刺激し始めた。
「中に入れながら、ココ触るの、美緒大好きだもんね?」
「あぁぁ……っ……」
「気持ち良いね? 言わなくても良くわかるよ? キュウキュウ締まるから俺も気持ち良い」
「あぁ……っ……んっ……んっ……」
「我慢せずに、イキたくなったらイッて良いからね?」
「んん……あ……っ……ぅ……」
「俺、美緒のイク顔もっと見たいもん」
悠斗の言葉に、美緒は思わず首を振った。――恥ずかしい。率直な意見はそれだった。だが、美緒が恥ずかしがるような言葉を選んで、悠斗はわざと投げかけている。その恥ずかしがる姿も、悠斗にとっては愛おしい姿だった。
「……ぅ……はっ……あっ……うぅ……ぅ……っ」
「……あぁ、すごいね。さっきより中がキュってなってる。……あー……ホント、可愛い……」
「ふっ……うぅ……あ……っ……」
悠斗の指も、その腰の動きも止まらない。美緒が絶頂を迎えようとしている今、悠斗は嬉しそうにただ刺激を与え続けていた。
「だ……っ……だ、め……ぇ……っ……」
「……」
「……っ……ぅ……」
時間の感覚はわからない。時々聞こえるテレビの音が、辛うじて眠りかけの頭を現実に呼び戻す。だがそれも長くは続かない。
「……」
もう完全に落ちる。誰かがその場にいたらきっと、そう思ったであろうその時。
「……美緒?」
「……ん……」
戻った悠斗が美緒に声を掛けた。
「あ、ゴメン。寝てたね」
「ん……んんぅ……だい、じょうぶ……」
「うそうそ。寝てたでしょ。遅くなっちゃったね、ゴメンね?」
「……ううん……ふぁ……」
「ホラ、欠伸してる。歯磨いて、ベッド行こう?」
「……うん」
悠斗はゆっくりと美緒の身体を起こすと、その手を引いて一緒に洗面所へと向かい、揃って歯を磨いた。
「ふぅ……あ……」
「……くくっ……またそんな、大きな欠伸して……」
「明日お休みだと思ったら、気が抜けちゃって」
「気持ちわかるよ。俺もそう」
「眠たいって強いよね」
「それね。睡魔には勝てない」
「ゴメン……ちゃんと起きてようと思って、テレビもつけたんだけど……」
「別に良いよ? 美緒の可愛い寝顔も見られたことだし?」
「や、やだもう……」
「ま、俺のほうが遅く寝る時と、早く起きる時は毎回見てるんだけどね」
「……そういうの、余計恥ずかしいんですけど……」
「え? そう?」
「口元が笑ってるよ、ユウ君……わざとでしょ……」
「……ばれた?」
「もう!」
「いや、でも、可愛いのは事実だから。あと、見てるのも」
「……変態!」
こんなことは日常茶飯事だ。恥ずかしくなると美緒は、いつもそっぽを向いて悠斗から離れていた。……ただの照れ隠しだ。何か言い返すことも、恥ずかしくてできない。だからといって『可愛い』と言われたことに対して肯定もできないでいた。
そんな美緒に対し、悠斗はいつも同じ反応をする。恥ずかしがってはいるものの、怒ってはいないはず。そう考えている悠斗は、美緒の後を追いかける。
「……美緒?」
「……」
いつの間にか布団に潜り込んでいた美緒に声を掛ける。当の美緒は布団の中に潜り込み、悠斗に背中を向ける形で目を閉じていた。しっかりと、悠斗の入れるスペースを隣に残して。
悠斗は部屋の明かりを消して自分も布団へと入ると、背中から美緒を抱き締めた。
「……可愛い」
「……べ、別に可愛くないし……」
「可愛いよ? 一番。俺の中では誰よりも」
「……そんなことないし」
「……うーん。美緒、自分が人気あるのわかってる?」
「……え?」
「会社でね。付き合ってる間も、結婚してからも、『美緒ちゃん可愛い』とか『付き合ってくれないかな』とか、『一緒にご飯行ってくれないかな』とか周りが言ってるからね。……俺の奥さんを気安く『美緒ちゃん』なんて呼んでほしくないんだけどね」
「そ、それはユウ君も一緒だよ……?」
「え、俺?」
「うん……。今日、給湯室のところで聞いちゃったんだよね。『カッコイイ』とか『彼女になりたい!』とか、新人の子たちが言ってるの」
「それ、ホントに俺の話?」
「そうだよ! ……その場にシステム部の新人の男の子がいて、その子が喋ってるの聞いたら、間違いなくユウ君の話だったもん」
「はぁ……俺もそんな風に言われてるんだ」
「らしいよ。今日、笹野さん……奥さんのほうね? にも言われたんだけど。ファンクラブがあるとか何とか……」
「ふっ……ふふっ……! 何だそれ。変なの」
「おかしいよね?」
「まぁ、でも、美緒のほうはわからんでもないな。自分で気が付いてないだけで、システム部でも結構よく聞くからね。……みんな、旦那の俺がいるのに、よくもまぁあんなにあけすけに話すなと思うけど」
美緒は驚いた。悠斗も自分と同じように、全く知らないと思っていたからだ。思わず回されていた悠斗の腕を外し、目線が合うように身体を動かす。そして、甘えるように悠斗の胸に顔を埋めた。
「……知らなかったの、私だけ?」
「ファンクラブの話と、俺も何か言われてるのは知らなかったよ。美緒の話は知ってた。……変に意識されたくないから、黙ってたけど」
「……ちょっとくらい教えてほしかったよ?」
「美緒は俺のなんだから、そんなこと気にしなくて良いの」
(うあぁ……何それ照れる……!)
美緒は緩む口元を抑えるために、真一文字に唇を結んだが、ピクピクと反応している。悠斗といえば、『当然のことでしょ?』とでも言うように、真顔から表情を崩していない。実はこの時、悠斗は心の底からそう思っていたが、美緒はまた揶揄われていると捉えていた。
「もしかしたら、他にも変な話出てきちゃうのかな……?」
「可能性はあるかもね。ま、無視して良いと思うけど。……あ、でも、誘いには乗るなよ? あわよくば狙ってそうな人たちも多そうだし」
「わかってるよ……。……ユウ君もね?」
「はいはい、わかってる」
「……ユウ君優しいから、困ってたら一緒にご飯とか行っちゃいそうだし」
「それは美緒のほうだと思うけど? 俺以外について行かないように。良いね?」
「……わかってるもん……」
「もしついて行ったら……俺のだってわかるまで……どうしてあげようかな?」
「ユウ君だって私のだもん!」
「俺はついて行かないよ? 美緒一筋だけど?」
「同じ! 私も! むしろ私のほうが好きだし! 絶対!」
「俺の気持ち、わかってないなぁ。……まぁ良いや。そういうことにしといてあげる」
「えぇ……何それぇ……」
「別に? ……ところで美緒」
「何?」
「目、覚めてきた?」
「……あ、う、うん。ちょっと、ね」
「じゃあ、さっきの続き」
「……え?」
「こっち、向いて?」
悠斗の言葉に美緒は顔を上げる。暗闇に慣れた目には、しっかりと悠斗の顔が映っていた。もちろん、悠斗の目には美緒の顔が映っている。
「……ん……」
ニコリと微笑むと、悠斗は美緒にキスをした。
「ん……」
「……ね? ホラ、可愛い」
「……もう!」
(だから……! 恥ずかしいの……!)
口にしては悠斗の思うツボだ。そう思う美緒は決して口には出さない。なぜならば、そんな台詞を吐いた美緒に向かって、悠斗はまた『可愛い』と言うからだ。そんなことを言われたら、その言葉に対してまた照れてしまう。美緒はまた、悠斗の胸に顔を埋めた。
「ダメだよ、美緒」
「ユウく……んん……っ……」
「……こうしたら、こっち見てくれる?」
「あ……まっ……ん……っ!」
悠斗の手が、美緒のパジャマの中にするりと入り込む。
「スベスベで気持ち良いよ、美緒の肌」
「やっ……ちょ……ん……んぅ……んんっ……ふ……ぅ……」
耳元で囁くと、悠斗はすぐに美緒の唇を自分の唇で塞いだ。そして、ゆっくりと舌を唇に這わせると、そのまま口の中へと入れて美緒の舌を蹂躙する。
「ん……う……っ……ふぅ……ぅ……」
お互いに舌を絡めると、吸い付くような音と唾液の混ざる音が寝室に響いた。
「……んぅ……!」
パジャマに入り込んだ悠斗の手は美緒の肌をそのまま堪能していた。てのひら全体で撫でるように、時には指先でくすぐるように、美緒に刺激を与える。その手は背中、胸元、お腹、太ももと、反応を楽しむように一箇所にはとどまらず移動していた。
「ぅあ……っ……! ぁ……ゆ……ゆう、くん……」
「……美緒の反応が可愛いからさ。背中、気持ち良い?」
「あぁっ……!」
「うん、気持ち良いね? 俺も、触ってて気持ち良いよ?」
「ふぅ……ん……っ……んんぅ……あっ……ぁ……」
「……ふふっ。太もももスベスベ。ずっと触っていたいくらい」
「うぅ……や、だ、よぅ……」
「どうして? 美緒だって、触られるのは気持ち良いでしょう? それなら、ずっと触ってても良いんじゃない?」
悠斗の指の動きに合わせて、美緒の身体が跳ねる。この反応を見れば、誰もが『気持ち良いんだろう』と、そう思うだろう。実際、『気持ち良い?』の台詞に対して、反論することはできなかった。悠斗に撫でられるだけで気持ち良いのは、間違いなかったからだ。
「……このまま、シても良い?」
美緒は悠斗の顔を見ないまま、コクリと頷いた。
「眠いかな? って思ったから。……良かった」
「……ユウ君」
指の動きが止まった隙をついて、美緒は悠斗の顔を見る。そして少しだけ口を開いた状態で、悠斗にキスをした。
「ん……」
「……」
「……ふ……ぅ……ん……んん……っ……」
指の動きが再開するのと同時に、悠斗の舌が美緒の口に滑り込む。優しく、時に激しいキスに、美緒の心臓の鼓動は速くなった。
不思議と、何度キスをしても胸はときめき、何度でもキスをしたくなった。不意にキスをしても、悠斗はそっといつもそれを受け止めてくれる、そんな安心感があったからかもしれない。
「美緒、ホントにキスするの好きだね?」
「……ユウ君とするのが好きなんだもん」
「……もう一回言って?」
「……やだ」
「何で?」
「何でも!」
「……まぁ良いや。俺も好きだし」
ピクリ、と美緒の身体が動いた。悠斗の指先がショーツをなぞったからだ。
「……っ」
悠斗の指は、優しくショーツの上から美緒の肌を撫でると、美緒の一番弱い場所を爪の先で弾くように撫でた。
「んっ……!」
何も言わないまま、悠斗は何度も弾いた。優しいその指使いは、美緒の心臓の音をより速くさせた。
「ふぅぅ……」
布団を握る美緒の手に力が入る。美緒の弱い場所、クリトリスを撫でる悠斗の指が段々と強く、そして早く動くように変わったからだった。爪の先がいつの間にか指の腹になり、ショーツの上から外すことなく刺激してきている。強くもなく、決して弱くもないその力加減は、美緒の呼吸を荒くさせ、堪えた声を出させるのには十分だった。
「あっ……あっ……」
「……美緒、ココ触られるの好きだもんね?」
「んぅ……っ……」
「いっぱいしてほしい?」
返事はしない――恥ずかしくて返事ができない。今まで、何度同じことを聞かれただろうか。その度、否定できずにイッてしまう。間違いなく、気持ち良かった。ただ刺激されているからではない。大好きな悠斗に、まるで言葉攻めのような台詞を囁かれながら、気持ち良い場所を触られるのがたまらないのだ。
何も言わない美緒を、悠斗はそのまま刺激する。
「うぅ……っ……あ……っ……」
悠斗はクリトリスを撫で続ける。しばらくすると、美緒は掴んでいた布団から片方の手を離し、空いていた悠斗の手を握った。
「……身体がビクビクしてる。もうすぐイッちゃいそう?」
「……ふぅ……ぁ……」
「……それとも、気持ち良くない?」
その問いに、美緒は思わず首を振った。
「そっか、良かった」
そう言って、悠斗は指の動きを少しだけ速くする。そうすると、美緒の悠斗の手を握る力も強くなった。呼吸も荒くなり、力の入った手も震えている。手だけではない。身体全体が、何かを我慢するように力が込められ、足や指の先が動いてはシーツが擦れる音を何度も鳴らしていた。
「そろそろイキそう? 良いよ、イッても」
「んぁ……っ……あぁ……っ……」
「ホラ。……イキなよ、美緒」
「あぁぁ……っ……!」
悠斗の指と耳元で響く声に導かれるように、美緒は快楽に身を委ねて果てた。
ビクビクと大きく身体をのけ反らせ、はぁはぁと荒く息を吐く。絶頂を迎えた後の身体は、美緒の意志とは別にプルプルと身体を震わせた。
「……気持ち良かった?」
「うぅ……」
耳元で囁く声に、言葉で返事をすることができない。代わりに、小さく二度頷いた。
「そっか。……じゃあ、もう一回」
「え……?」
まだ余韻の残る美緒をよそに、悠斗は布団の中へと潜り込む。そして、パジャマのズボンとショーツを脱がせると、イッたばかりの身体を再度刺激し始めた。
「ん──んぅ──!」
まだ身体は落ち着いていない。先ほどまではショーツ越しに刺激していたのに、今回は指の腹で直接クリトリスに触れていた。上下に円を描くように擦り、そして突くように刺激を与える。
「あっ……あっ……あ……ぁ……」
そして、敏感になっているソレにゆっくりと息を吹きかけると、舌先で愛撫を始めた。
「ひっ……あっ……まっ……あぁ……っ……!」
おそらく『待って』と言いたいのだろう。しかし、その言葉は悠斗には届かない。舌を這わせ、唾液で濡らすと、何度も何度も美緒の弱い部分を攻め立てた。
「う……うぅ……ぁ……」
「……美緒、これ好きだもんね?」
クリトリスから唇を離した悠斗は、布団から顔を出して美緒に話しかけた。そしてまたすぐに布団の中へと戻る。
「……? ──あ──」
またクリトリスに舌先が触れると同時に、ゆっくりと秘部に指が入る。その指は中へ自分を押し付けるようにして進むと、奥のほうを刺激した。
「んんっ……んっ……」
(ダメ……ダメっ……!!)
身体はイッたばかりなのに、また次の絶頂を迎えようとしていた。中と外から気持ち良い部分を擦られ、今、美緒はほぼ強制的にイカされようとしていた。
「い……っ……ぅ……あっ……」
「……」
悠斗の舌使いと指の動く速度が速くなる。舌先で舐めていたのが、いつの間にか舌全体で覆うように舐めている。唇は、クリトリスを吸うようにして離さない。その裏側を刺激するかの如く、一本から二本に増えた指は、決まった場所を何度も何度も不規則な動きで擦っていた。
「はっ……はっ……だっ……あっ……。っ――んん――!」
身体が絶頂するのを、止めることはできない。既に一度絶頂を迎え快楽に身を委ねていた美緒は、悠斗の舌と指によって、呆気なく二度目の絶頂を迎えた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
布団から出てきた悠斗は、美緒の髪を撫でキスをした。
「……ねぇ美緒、挿れても良い?」
「……うん」
美緒の返事を聞いて、悠斗は既に大きくなっていた自分のモノを取り出すと、ゆっくりと美緒の中へと挿れた。
結婚してから、避妊することはやめた。元々子どもが好きな二人は、結婚したらいつできても構わないね、と、意見が一致したからだ。すぐにできるとは限らない。こればかりは神様に任せながら、自分たちはソレを待つことにした。
「……んんぅ……」
「大丈夫?」
「う、うん……大丈夫……」
「ごめんね? 眠たいのに……」
「そんなの……良いの」
「……あー……美緒の中すごい……。二回イッたから? もうトロトロなんだけど」
「うっ……い、言わないでよそんなこと──んんっ……」
「どうして? 気持ち良いから教えてあげようと思って」
「――っ! あっ……いっ……いらないもん……そんなの……っぅ……」
正常位を選んだ悠斗の顔が見える。暗さに慣れた今、目を開けばその目の前にある悠斗の顔がよく見えた。その瞳はまっすぐ美緒を捉えている。恥ずかしい気持ちから、美緒は慌てて目を閉じた。
(あの表情……気が付いてるのかな……)
美緒が好きな悠斗の表情。それは、正常位の時に少し離れた位置から見上げると見える、悠斗の優越感に浸ったような、満足気な表情だ。少しだけ口角が上がり、やや細めた目。それはまるで、『悠斗が美緒を征服し、悦に入っている』ようにも見え、程度はわからなくともMだと自覚している美緒にとっては、たまらない表情だった。
いつもこの表情をするわけではない。ふとした瞬間、たまたま見られるモノだった。だからこそ、美緒はこの表情を見ると、胸がキュッと締め付けられて、心がくすぐられるような、甘酸っぱい感覚に襲われていた。
こんな顔、誰も知らないだろう。いいや、知っていたら困る。それに嫌だ。仕事をしている悠斗からは、想像できない表情。自分が悠斗に堕ちていくのがわかる。彼のこの表情をもっと見たい。もっとこの表情を向けてほしい。
「……どうかした?」
「う、ううん……何でもない……」
「……ふーん……なら良いけど」
「……っ……く……ぅ……」
「わかる? 奥まで当たってるの」
「う……うぅ……」
上手く言葉にならず、また恥ずかしさもあり美緒は目を瞑りながらコクコクと頷いた。
「ココね、コリコリしてるの。……何度も押したら気持ち良いかなぁ?」
「ふぁ……っ……んんぅ……ぁ……」
「それとも、押し付けたまま、奥に押すほうが良い?」
「んっ……う……っ……」
はぁはぁと漏れる声に息が混じる。嫌いではない。が、何とも表現しがたいこの感覚。美緒は、どちらであるとも返事はしなかった――正確には『返事ができなかった』と言うべきかもしれない。
悠斗の言う『コリコリしている』場所を何度押されても、グリグリと押し付けられても、言葉にならない声が漏れる。気持ち良いのか、そう問われると、『そうです』と答えることは難しかった。痛いわけではない。それに、全く気持ち良くないかと聞かれると、そうでもない。しかし、気持ち良いとは言い切れない。……一つ言えるとするならば、『何かに無性にしがみつきたい』だった。
漏れ出る声をそのままに、美緒は素直に悠斗へと手を伸ばす。美緒のしたいことがわかった悠斗は、自分の身体を美緒のほうへと寄せ、伸ばした腕を自分に絡ませた。
「どうかした?」
しっかりと腕を絡ませ、美緒は自分の顔を悠斗の首元へと埋める。そして、左右に首を振った。
ギシリと音を立ててベッドが沈む。悠斗は美緒を髪に指を絡ませ、顔を浮かせるとペロリとその首筋を舐めた。
「ふぅぅ……」
「面白いくらいに弱いよね、ココ」
「き……気のせいだもん……!」
「気のせい? ……そっか、じゃあ平気なんだよね」
「うっ……ひぁっ……!」
「……」
「……ん……ぁ……」
その顔が見えないからだろうか。意地悪そうな笑みを浮かべて、悠斗は首筋に舌を這わせている。我慢できずに漏れる声をすぐ近くで聞きながら、楽しそうに。
「ぅ……ぁ……んっ……! ぁあ……っ……」
悠斗は少しの間だけ身体を動かすことをやめていた。しかし、首への刺激を堪えきれずに、しがみつく場所を探すかのように指を動かす美緒の姿に耐え切れなかったのか、すぐに貪るように美緒の身体を求めた。
悠斗の動きに合わせるかのようにピクピクと動く美緒の指先は、まるで『もっと、もっと』と求められているようにも思え、それに応えるかのように更に奥へ奥へと自分のモノを押し進めていく。
「ゆ……ゆ、う……く……っ……んん……」
「……っ……ごめ……美緒、痛かった?」
「ちがっ……」
「ゴメン、夢中になっちゃった……」
「だ、大丈夫……その……えっと……」
「どうしたの?」
「あの、ゆ、ユウ君も、気持ち良いのかな……って……」
「……気持ち良くないわけないじゃん? 美緒の中、こんなになってるのに」
「うっ……」
「……ふふっ。美緒が俺に聞いたのに、美緒が照れるんだ」
「だ、だって……」
「……美緒としてるんだよ? 気持ち良くないなんて、有り得ないと思うんだけどな?」
「も、もう良いです……」
「どうして? 遠慮しなくて良いのに。聞きたいんでしょ?」
「ふぅぅ………!」
「……くくっ……。ゴメンゴメン。ちょっとだけ揶揄ってみたくなったの」
「もう……」
「……でもさ、美緒だってわかってるでしょ?」
「……え?」
「聞かなくたって、知ってるくせに」
耳元でそう囁くと、悠斗は身体を起こしてまた美緒を見下ろす姿勢を取る。そして、美緒のクリトリスに指を伸ばすと、指の腹でクリトリスを刺激し始めた。
「中に入れながら、ココ触るの、美緒大好きだもんね?」
「あぁぁ……っ……」
「気持ち良いね? 言わなくても良くわかるよ? キュウキュウ締まるから俺も気持ち良い」
「あぁ……っ……んっ……んっ……」
「我慢せずに、イキたくなったらイッて良いからね?」
「んん……あ……っ……ぅ……」
「俺、美緒のイク顔もっと見たいもん」
悠斗の言葉に、美緒は思わず首を振った。――恥ずかしい。率直な意見はそれだった。だが、美緒が恥ずかしがるような言葉を選んで、悠斗はわざと投げかけている。その恥ずかしがる姿も、悠斗にとっては愛おしい姿だった。
「……ぅ……はっ……あっ……うぅ……ぅ……っ」
「……あぁ、すごいね。さっきより中がキュってなってる。……あー……ホント、可愛い……」
「ふっ……うぅ……あ……っ……」
悠斗の指も、その腰の動きも止まらない。美緒が絶頂を迎えようとしている今、悠斗は嬉しそうにただ刺激を与え続けていた。
「だ……っ……だ、め……ぇ……っ……」
「……」
「……っ……ぅ……」
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