隣のあいつはSTK

どてら

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き、君の名は

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 その日は特別疲れていたんだと思う。
玄関に足を踏み入れてすぐ肩の力が抜けた。身体を引きずるように何とかベッドまでたどり着いたのにベッドに上がる気力が出ず、上半身だけ乗せるように倒れ込んだ。
眼鏡外さないと歪んでしまう.......でもそんなひと手間すら面倒だ。


 疲れた、それだけならいつも通りじゃないか。どうして自分がこんなにも疲弊しているのか分からないまま重いまぶたの裏で今日あった出来事が鮮明に思い出された。


「困るんだよ君みたいに仕事の出来ない奴は」
会社の上司に言われた言葉が胸の内につっかえて離れない。浴びせられた罵声の数々がエンドレスで流れていく。

「これだから出来損ないは」

「甘えてる自覚すらないのか」

耳にした直後は何ともなかったはずだ。いつも通りだと受け流して頭を下げ、申し訳ございませんなんて壊れたレコードのように再生し続ければいいだけだったそれになのに。

「君みたいなのはもう要らないんだよ」

何気なく放たれた発言にガラガラと足元が崩れ落ちていく錯覚を覚える。

────ここで必要とされなかったら、俺は一体何処に居場所があるんだ?

 不意に浮かんだ考えに息が出来なくなった。そこからどうしたのかはよく覚えていない。気がつけば電車に揺られて重い足を動かしていたのだ。


「はぁ.......」



ベッドに顔を踞せながらため息を吐く。誰にも悟られないように、自分にすら気づかれないよう吐き出した息の中にそっと嘆きを混ぜてみた。もう駄目かもしれない。

今まで自分は感情が希薄なんだと思い込んでいた、だから何を言われても何をされても気にしないでいられるんだと目を背けていたのだ。

けど実際はそんな強い人間じゃなかったみたいだ。
目を背けていたのは所詮敢えて見ないようにしていただけで傷ついてなかったわけじゃない。希薄だと思っていた感情も溢れ出すタイミングを失っていただけに過ぎなかった。


もう駄目だ。会社行きたくない、働きたくない、上司に怒られたくない。残業嫌だ、ブラック企業滅びろ、朽ちろ、果てろ、頼むから労基仕事してくれ。

「誰か助けて」
縋るように絞り出した声。



その途端、玄関の扉が慌ただしく開き知らない足音が耳に入ってきた。俺が顔を上げるより先にそっと抱き寄せられる。


「もう大丈夫だよ」


低い心地のいい声だ。癒されるような温かさに包まれる。
「君は十分頑張った」

あまりに優しいその言葉に零れ落ちた涙が男の服を濡らしてしまった。

「よしよし~もう我慢しなくていいからね」
子供みたいにあやされてしまう。男の腕の中で頭を擦り寄せていれば悶えるような声が聞こえてきた。
「えっ何それ可愛い」
俺は何かぶつぶつ呟いている男の服を決して離さないよう掴むとようやく口を開いた。










「お前、誰だよ」




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