人でなしの手懐け方

どてら

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十三話

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 アーノルド邸の庭は広くそして緑豊かだ。丁寧に刈られた芝生を足で踏みしめながらガーデニングに目を向ける。立ち寄った者が腰をかけるためのベンチにガーデン・ノームと呼ばれる人形が何体か並べられ、つるバラのアーチが彩やかに仕立てられている。建物自体は古いがこういった細かい物に関してはかなり手入れが行き届いているようだ。
「この庭は専属の庭師に任せてるんですよ」
「それは、凄いですね」
庭師の腕がいいんだろう。素人目に見てもこの庭は手が凝っていることが一目瞭然だった。
「もう老父なんですけどね。跡取りが早く欲しいってよく騒いでます」
そんなたわいもない話しにどう返事しようか考えていた時、耳に大きな罵声が飛び込んできた。

「このど阿呆!! 何度言ったら分かるんだよ、俺らは庭師なんだから目立たせるのは庭にしろって言ってるだろうが!!!! どうしてお前さんの方が派手な髪の毛にしてんだ」
「自分をデコることで創作意欲が湧いてくるんです!! 最高の庭を造るにはまず最高の自分をつくらないと」
「鏡みて来いこのウスラトンカチ! どこが最高だ、どう見ても鶏のトサカじゃねぇか!!」
「ひでぇ!? ファッションの最先端なのに~」
「お前さんの時代は永遠に来ねぇよ!!」
驚いて思わずケイトさんの方を見た。彼は呆れた様子で頭を抱えている。

「あの、あれは」
「さっき言ったうちの専属庭師.......とその弟子」
騒ぎの中心にいるのは白髪のおじいさんと真っ赤な髪を逆立てている少年だった。歳は俺と同じかそれより下。よく日に焼けた肌と髪の色とミスマッチなエメラルドの瞳。
「パーカーさん、そこまでにしてあげて下さいな」
止めに入ったケイトさんの姿でようやく俺たちの存在に気づいたらしいおじいさんが気まずそうにこちらを見た。
「あぁケイトさん。お恥ずかしい所を見られてしまいましたのぉ」
「いえ、気にしてませんよいつもの事ですから」
ボソリととんでもないことを呟くケイトさん。この激しいやり取りがいつもなのか。
「なぁなぁケイトさんそいつ誰?」
俺の方を指差してきた少年(その指を失礼だとおじいさんに叩かれた)。
「今日からうちで働いて貰うノアくんです」
「ノア・カーライトと申します。仕事自体が初めてで至らない点だらけだと思いますがどうか宜しくお願いします」
頭を下げるとふいにおじいさんからわしゃわしゃと撫でられた。
「いい子だ、この子いい子だ~こういう子が欲しかったんだよなぁ」
「爺ちゃんにはオレがいるじゃん!!」
「そんな髪の弟子は知らんっ」
「えぇ!?」
このやり取りなんか楽しそうだなぁ。そういえば俺の正体が元敵国の人間だって知られてないのか? バレたらきっと話しかけてなんて貰えないよな。
「何暗い顔してんの? あっ、オレはレオナルド・パーカー!! こっちの爺ちゃんがオレの師匠のボンズ爺ちゃん。オレのことはレオでいいよ~オレもノアって呼ぶし」
「馴れ馴れしい奴だなお前。ボンズだ、よろしくなノアくん」
「爺ちゃん人の事言えなくない!?」
「そろそろ落ち着いてくださいよ二人とも。ノアくん困ってますよ」
「いえそんな.......えっとレオとボンズさん?」
レオは愛称呼びなんてして大丈夫か? 俺が戦場でどうやって生きてきたか知ったら離れていくのに。俺の心配は他所にレオとボンズさんは口角をこれでもかと言うくらい上げて笑いかけてくれた。

「よろしくな、ノア。ところでお前って歳いくつ? 歳上は敬うべきなんだぜ少年~」
「十八だけど」
「何だレオの三つも上か。それにしては小柄だな、ちゃんと食べてるのか?」
うっ気にしてる所を突かれた。三つも年下のはずのレオと背丈が変わらないのは自分でも情けなく思えてくる。
「ノアくんはこれからが成長期なんですよ! ね、ノアくん?」 
ケイトさん.......フォローまでしてくれて本当に優しい人だ。



「まぁノアが伸びだ倍オレも成長するけどな!!」
「お前はまずデリカシーを育てろこの馬鹿!!」


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