クラスのボッチが恋愛をする話。

Mono

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Ⅱ.不穏な作戦

クラスのボッチが恋愛する話。9

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「ここです。どうぞ、お先にお入り下さい」

「…………ああ」

 そう言って彼が入ったのは、彼等も慣れ親しんだ教室──六年二組の教室だった。

 真美に促されるままに教室に入った志貴が、踵を返して真美の方を見つめると、

 ──ガチャ。

 扉の鍵を閉めた音が響いた。

「……どういうつもりだ?」

「ふふ、安心してください。単に邪魔者を入れたくないだけですから」

 どう考えても信用ならないその言葉に、志貴はさらに警戒を強める。

「それで、話ってなんだ?」

「単刀直入に申し上げます。──私達に、協力しませんか?」

「いったい、どういう……」

 動揺する彼を差し置いて、真美は話を続ける。

「簡単な事です。貴方には、私達女子連盟のスパイとなって、男子連合を内部から崩してほしいのです」

「……それは、櫻井も合意したのか?」

「ええ、勿論。ですから、今日の凛子ちゃんにはなるべく大人しくしてもらったのです。出来るだけ、貴方に私達に対する悪印象を抱かせないために」

「なるほどな……」

 合点のいった志貴は、顎に手を当てて思案する。

 確かに、それならば辻褄もあう。しかしそれでは、ある問題が起こる。

「なら訊かせてもらうが──それ、俺へのメリットはあるのか?」

 そう。それこそが問題だった。

 確かに、今まで中立を貫いてきた志貴が女子達に協力すれば、男子を内側から瓦解させることも不可能ではないだろう。しかしそれは、女子達から見た話だ。志貴からすれば、メリットなど一つも存在しない。

「──ねえ、志貴さん。私、結構良い体してると思いませんか?」

「突然、何を……」

「先日の身体測定で私、胸のサイズが学年でも一番だったんですよ? 男の子はみんな、おっぱいが好きだって聞きましたし…………だから、ほら」

 そう言った彼女は、服の前側の裾を持って捲し上げる。そしてそれを口に含む事で固定し、彼女のあられもない姿を露わにした。

 この瞬間のためだろうか。下着は、黒い扇情的な物を付けており、流石に小学生には些か早すぎるようにも見える。しかし、幼い体とそれに似合わない胸──そしてそれを包む蠱惑的な下着は、男子には刺激の強すぎるものだった。朱色を帯びた頬と、憂いを帯びた彼女の双眸は、見たものを吸い込むかのような、抗いがたい魅力に溢れていた。

 ここまで自分の体を理解し、そしてその上で色仕掛けをする小学生も、そうはいないだろう。

「ねぇ、志貴さん。どうです、柔らかいでしょう? これが全部、貴方の物になるんですよ」

 志貴の手を取った真美は、そのまま彼の手を自らの胸にまで誘導し、そしてそのままそれを自身の手で包み込んだ。

 確かに、普通の男子ならばこれは抗いたい魅力だし、メリットとして十分過ぎるだろう。

「んっ……ねえ志貴さん……私、もう我慢できません。……このまま、めちゃくちゃにしてください……♡」

 志貴の手を包み込んだ片手で、真美は彼の手を軽く押した。それによって、彼の手には恐ろしいほどの柔らかさが伝わった。

 もう完全に発情モードの真美を志貴は、



「…………………………で?」



 酷く、冷たい目で真美を見つめていた。

「──え?」

「え、なに? 園町、この程度で俺を落とせるとか思ってたの? いや、流石にそれはないから」

 彼女の胸からさっさと手を離した志貴は、そのまま肩を竦めた。

「……本気、ですか? 自分で言うのもなんですけど、私結構可愛い方だと思いますよ」

「まあ、そうなんだろうけどさ。残念ながら、君は俺のタイプじゃない」

「……そう、ですか。──あーあ、私振られちゃいました♡」

 全く悲しくもなさそう声色で彼女はそう言うと、

「できればコレはしたくなかったんですけどね……。──ああ、もしもし私です。絶賛失恋中の私のために、ヤっちゃってください」

 ポケットから携帯を取り出した彼女は、どこかに電話をかけていた。

「園町、何を企んでいる……?」

「さて、なんのことですか? あ、そんな事より、今ならまだ間に合いますよ。犯しませんか?」

 軽い調子でそう言う彼女からは、貞操観念とかそういったものが一切感じられなかった。

「一応言っておきますけど、私まだヴァージンですよ。どうです、それでもヤりませんか?」

「残念ながら、俺には好みじゃない女子を抱く趣味はないんでな。悪いが他を当たってくれ」

「あらあら、酷いですね。うふふ、後で後悔しても知りませんよ♡」

「それって、どういう意味だ?」

 相変わらず柔らかい笑みを浮かべる真美に、志貴は眼光を鋭くする。

「さて、私にはなんとも。ただそうですね……妹さんに何かあれば、それは貴方のせいですよ」

「──────────まさか」

 その、最悪の答えに行き着いてしまった志貴は急いで教室から出ようとするが、

「…………っ」

「うふふ。残念でしたね」

 扉を開けようとした志貴だったが、それは叶わなかった。何故なら、この教室に入った時に真美は扉の鍵を閉めていたからだ。急ぐあまり、それを失念していた彼は一瞬の隙ができてしまう。そしてその一瞬に、真美が志貴の背中へと抱きついてきたのだ。

「私の鼓動、聞こえますか? すごい、ドキドキしてるんです。辛い事も、悲しい事も、全て私が忘れさせてあげますから……。だからどうか、私と一緒に愛を育みましょう♡」

 確かに、服越しに志貴に伝わる鼓動は、尋常ではない速さだった。それは即ち、真美の感情を表しているのだろう。加えて、彼の背中にダイレクトに伝わる柔らかい感触が、男子の理性を削っていく。

 そして、真美の伸ばした手がゆっくりと動き、彼のズボンのチャックに触れかけたところで、その動きは止まった。

 彼の手が、その手を上から包み込んだからだ。

「…………ぁ…………」

 小さく、感嘆の声が聞こえた。

「嬉しい……私の気持ちに応えてくれるんですね……さあ、一緒に気持ちよくなりましょう……♡」

 志貴が彼女の手を握ったのを、肯定の意思だと受け取ったのだろう。真美の抱きしめる力は一層強くなり、頬を彼の背中に押し付けてスリスリしている。

「……俺、こんな時の為に用意しておいた物があるんだ」

「それって……。もう、積極的なんですから……♡」

 彼がズボンのポケットに手を入れたのを見て、そこから取り出す物を想像した真美はさらに頬を赤く染める。

 しかし、それは大人のオモチャでも、ゴムでも、避妊薬でもない。

「え…………っ⁉︎」

 ビリッと彼女の手に一瞬だけ電流が走る。いきなりのことに、真美は反射的に後ろに下がってしまう。

「いやー、こんな時の為に用意しとくものだな」

「っ、まさかビリビリペンなんて物を使うなんて……」

 彼は真美の方を振り返って、ペンを見せびらかす。実際は、美咲を迎えに行った保健室で智恵に試した物なのだが、それは言わぬが花だろう。

「ですが、貴方が扉の鍵を開けている間にいくらでも捕まえる事は……」

「何言ってんの? 鍵なんか、とうの昔に開けたよ」

「──え」

 その言葉を証明するかのように、彼は簡単に扉を開けてみせる。

「それじゃ、またな。──余計なお世話だと思うが一つ。あんまり淫らに男子を誘惑するもんじゃないぞ。後で後悔しても遅いからな」

 それだけ言うと、踵を返した志貴は全力で廊下を走っていってしまった。

 そしてすぐに志貴が視界から消えてしまった真美はというと。

「うふふ。自分を罠にかけた相手にすら優しいだなんて……本当に、お人好しなんですから♡」

 頬に手を当てて体をクネクネさせる彼女の表情は、恍惚に染まっていた。
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