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しおりを挟む三年前、私は確かに旦那様──テリー様を愛していた。
17歳と若かった私にとって、20歳の彼は凄く大人に見えたのだ。金髪碧眼をもち、整った顔立ちで誰もが見惚れる素敵な彼が私を愛してると言ってくれた時は天にも昇る心地だった。
醜いとまでは思わないけれど、けして美人の類には入らない私。
茶髪茶眼をもち、秀でる部分があるわけでもない平凡な顔立ちの私のことを、どうして彼が愛してくれたのか分からない。
──それは今持って謎。深い深い谷間の底に眠るそれであるかのごとく、解明不可能な謎だ。
だが確かにあの時のテリー様は熱を帯びた目で私を見ていた。それは確かに恋する男の目だった。
そしてかつての私もまた、目がハートになっていたことだろう。
今から思えば、なんと若かったことか。
テリー様は勿論のこと、私自身も彼の何が良くて愛してると思ったのか……。
きっと恋に恋していたのだろう。そういったことに縁遠かった私は、想い人であるテリー様に愛してると言われて冷静さを欠いていたのだ。
彼にはたくさんの恋人が居たことを、知ったのは結婚してすぐのこと。
最初は良かったのだ、最初は。最初だけは。
彼は自分を大切にしてくれた。確かに愛してくれた。
でもそれは本当に最初だけだった。
程なくして、テリー様が屋敷に戻らない日が出てきた。忙しいのだろうと最初は気にも留めていなかったが、その頻度はどんどん増していった。
さすがにおかしいと思う頃には、週の半分以上戻らなくなってきた頃。
侯爵家ではなく、信頼できる実家──伯爵家の息がかかった者に調べさせた結果。
日替わりで複数の愛人宅を巡ってる事が露呈したわけである。
悲しんで落ち込んで泣いて。
久々に戻ったテリー様に泣いて縋ったのは結婚わずか半年後のこと。
涙ながらに、愛人が複数居るというのは本当なのかと問い詰める私に、テリー様はヘラヘラとふざけた笑みを浮かべて言ったのだ。言ってのけたのだ。
『大丈夫だよエリス、俺が本当に愛してるのはキミだけだ。ただね、男ってのは遊びたいものなんだよ、束縛を嫌うものなんだよ。ちょっとつまみ食いしたくらいで目くじらを立てられたら、百年の愛も冷めてしまう。それは嫌だろう?僕に愛してほしいだろう?だったら少しくらい我慢しなくちゃ。大丈夫大丈夫、俺が愛してるのはエリスだけなんだから。愛人はちょっとした遊びだから。大丈夫大丈夫♪』
──と。
「大丈夫じゃねえわ!!!!」
思い出したら腹が立ってきた!思わず私は叫んで、近くのクッションを殴ってしまったよ。そしてクッションに罪はないなと、慌ててポンポンと叩いて形を整える。ごめんクッション、君は悪くない。
悪いのは
全て悪いのは
「あのクソ男ぉぉっ!!」
テリーだ!!
結婚して三年、まだ三年、もう三年。
恋する乙女(…)だった私もすっかりやさぐれた。やさぐれるには十分な時間を過ごした。
「おのれええ、あのクソ男め!何が『俺はキミを愛している、キミしか見えない、キミ無しでは居られない、一生キミを愛すると自信をもって断言できる。だからどうか俺と結婚してはくれないだろうか。幸せにすると誓う』だ!ふざけやがって!!」
「さすが奥様、旦那様のお言葉を一言一句間違えずに覚えておいでとは!」
「ユーシア黙りなさい」
「……」
黙れと言えばすかさず黙る優秀な執事ユーシア。拍手しながら私の記憶力を褒めるという、ちょっと空気読めないとこもあるけれど、それでも仕事はできる有能さだ。仕事もせずに愛人宅を練り歩いてる馬鹿旦那が居なくても、侯爵家が存続出来てるのは彼の功績が大きいと言えよう。
でもって私も侯爵家のお仕事やってるからね。
そうだよ、私、侯爵夫人なんだよ。そのはずなんだよ。なのに目の前の書類の山は何かね。ここ、侯爵夫人の部屋であって、当主の執務室じゃないんだよ、なのになんで書類の山なんだよ。
「人はどうして山を登ろうと思うのかしら」
「そこに山があるからです」
「……どうして旦那様は愛人宅に入り浸って帰らないのかしら」
「そこに裸の女性が居るからです」
そこの執事、凄い事言うな!奥方の前で凄いこと言うね!その歯に衣着せぬ物言いが、けれどやさぐれた私には心地いいですことよ!
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