お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

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第五話 浮気男

4、

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 の、はずだったのだけど。
 私は確かに店を出て、駅に向かおうとしていたはずだった。

 だが、視界は突如暗転する。
 気付けば私は真っ暗闇の世界に居た。

 不意に眼前に人が現れる。

 それは──

「克彦!?」

『あ~あ、早苗もいい加減飽きて来たな。そろそろ潮時かもな』

 驚く私の前で、克彦が誰かに向かって言う。その顔は見たことないくらい下衆に歪んだ笑みを浮かべていた。

『結構もったんじゃないか?二年?』

 聞いたこと無い声がそれに答える。姿は見えないが、おそらくは克彦の友人だろう。

『そうだな。結婚におわせて最後にパッと金取って消えるか』
『うは、さいて~。他のはどうするよ?』
『佳奈か?佳奈はなあ、ちとケチだな。体は堪能したしアレももういいわ。他のもなあ……早苗に比べりゃどれもシケてやがるし未練はないな』
『じゃあやっぱ早苗を手放すの惜しいんじゃないか?もっと絞りとれよ~』
『いや、これ以上はまずいだろ。バレて金返せとか言われても面倒だからよ』
『今さっき会ってきたんだろ?』
『おー。飯食ってたら金足りなくなってな。呼び出して払わせてトンズラよ』
『ギャハハ、わっりい男~!!』
『へっ!騙される女がわりいんだよ!』

 やめてやめてやめて!
 嫌よやめて!

 これは何……なんて悪夢なの……!

 こぼれ落ちる涙を拭うのも忘れ、私は耳を塞いだ。

 だと言うのに、克彦の声はハッキリと聞こえ続ける。

『あ~今月も金がやべーな。早苗はさっき呼んだしなあ……愛里でも呼ぶかな』
『あの気弱そうな子か?お前あんな大人しそうな子の操まで奪っちゃってさあ。悪い男だよな』
『俺のお陰で恋愛ごっこが出来てんだ。礼の代わりに金貰って何が悪い』

 やめて

『愛里が駄目なら香織かなあ。あいついい体してんだよな~。でも金はあんま無いんだよな~』

 もうやめて

『真子ちゃんは?あの子、金はそこそこ持ってるって言ってたじゃないか』
『あいつ顔はいまいちなんだよ。そのくせ会うと必ず求めてくっから、うぜ~んだよな~』

 ──もう……

『け、モテる男も大変だね~』
『ま、女なんてどいつもこいつも馬鹿だからよ!!』
『『ギャハハハハハ!』』

「やめてええええっ!!」

 私は耳を塞いだまま、叫び続けた!

「やめて、やめてよ、もうやめて!どうしてそんな酷いことを言うの!?どうしてそんな酷いことが出来るの!?」

 許せない。
 許さない。

 涙が止まらない。頭の中ではこれまでの克彦との記憶が流れては消えていった。

 あの笑顔は嘘だったの?
 幸せな時間は全て作り物だったの?

 それでもなお、まだ信じたいと思う気持ちが微かに残る自分に嫌悪する。

 そんな私の気持ちなど分からぬ克彦は、更に会話を続けた。

『そうだ、別れる前に早苗お前に貸してやろうか?』
『マジで?いいのかよ』
『いいっていいって。俺もうアイツの体は飽きたからよ。お前にやるよ。そうだ、他にも何人か呼ぶか?』

 私を絶望に突き落とす言葉を吐く克彦。

 それが最後。
 私の気持ちを決定づける決め手となった。

「許さない……」

 私はそっと手を耳から離した。
 涙はもう止まっている。

 克彦なんて
 克彦なんて

「死んでしまえ!!」

 私は叫んだ。
 それが契約の言葉になると確信を持ちながら。

 克彦の確かな死を望んで──!!

 その瞬間。

「分かったわ」

 完結に。けれど確かに契約が為されたことを感じた私は、そっと目を閉じた。

 次に目を開けた私は、見覚えのある自分の部屋に居ることを理解し。呆然としながら、飾られた写真立てに目を向けて──

「さよなら、克彦……」

 そう、呟くのだった。






 
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