25 / 64
第五話 浮気男
4、
しおりを挟むの、はずだったのだけど。
私は確かに店を出て、駅に向かおうとしていたはずだった。
だが、視界は突如暗転する。
気付けば私は真っ暗闇の世界に居た。
不意に眼前に人が現れる。
それは──
「克彦!?」
『あ~あ、早苗もいい加減飽きて来たな。そろそろ潮時かもな』
驚く私の前で、克彦が誰かに向かって言う。その顔は見たことないくらい下衆に歪んだ笑みを浮かべていた。
『結構もったんじゃないか?二年?』
聞いたこと無い声がそれに答える。姿は見えないが、おそらくは克彦の友人だろう。
『そうだな。結婚におわせて最後にパッと金取って消えるか』
『うは、さいて~。他のはどうするよ?』
『佳奈か?佳奈はなあ、ちとケチだな。体は堪能したしアレももういいわ。他のもなあ……早苗に比べりゃどれもシケてやがるし未練はないな』
『じゃあやっぱ早苗を手放すの惜しいんじゃないか?もっと絞りとれよ~』
『いや、これ以上はまずいだろ。バレて金返せとか言われても面倒だからよ』
『今さっき会ってきたんだろ?』
『おー。飯食ってたら金足りなくなってな。呼び出して払わせてトンズラよ』
『ギャハハ、わっりい男~!!』
『へっ!騙される女がわりいんだよ!』
やめてやめてやめて!
嫌よやめて!
これは何……なんて悪夢なの……!
こぼれ落ちる涙を拭うのも忘れ、私は耳を塞いだ。
だと言うのに、克彦の声はハッキリと聞こえ続ける。
『あ~今月も金がやべーな。早苗はさっき呼んだしなあ……愛里でも呼ぶかな』
『あの気弱そうな子か?お前あんな大人しそうな子の操まで奪っちゃってさあ。悪い男だよな』
『俺のお陰で恋愛ごっこが出来てんだ。礼の代わりに金貰って何が悪い』
やめて
『愛里が駄目なら香織かなあ。あいついい体してんだよな~。でも金はあんま無いんだよな~』
もうやめて
『真子ちゃんは?あの子、金はそこそこ持ってるって言ってたじゃないか』
『あいつ顔はいまいちなんだよ。そのくせ会うと必ず求めてくっから、うぜ~んだよな~』
──もう……
『け、モテる男も大変だね~』
『ま、女なんてどいつもこいつも馬鹿だからよ!!』
『『ギャハハハハハ!』』
「やめてええええっ!!」
私は耳を塞いだまま、叫び続けた!
「やめて、やめてよ、もうやめて!どうしてそんな酷いことを言うの!?どうしてそんな酷いことが出来るの!?」
許せない。
許さない。
涙が止まらない。頭の中ではこれまでの克彦との記憶が流れては消えていった。
あの笑顔は嘘だったの?
幸せな時間は全て作り物だったの?
それでもなお、まだ信じたいと思う気持ちが微かに残る自分に嫌悪する。
そんな私の気持ちなど分からぬ克彦は、更に会話を続けた。
『そうだ、別れる前に早苗お前に貸してやろうか?』
『マジで?いいのかよ』
『いいっていいって。俺もうアイツの体は飽きたからよ。お前にやるよ。そうだ、他にも何人か呼ぶか?』
私を絶望に突き落とす言葉を吐く克彦。
それが最後。
私の気持ちを決定づける決め手となった。
「許さない……」
私はそっと手を耳から離した。
涙はもう止まっている。
克彦なんて
克彦なんて
「死んでしまえ!!」
私は叫んだ。
それが契約の言葉になると確信を持ちながら。
克彦の確かな死を望んで──!!
その瞬間。
「分かったわ」
完結に。けれど確かに契約が為されたことを感じた私は、そっと目を閉じた。
次に目を開けた私は、見覚えのある自分の部屋に居ることを理解し。呆然としながら、飾られた写真立てに目を向けて──
「さよなら、克彦……」
そう、呟くのだった。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる