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第五話 浮気男
5、
しおりを挟む腹が減った。人間というのはどれだけ食べても時間と共に腹が減るという、実に面倒な生き物だ。
まあそんな事に文句を言ったところでどうにもならない。俺は乏しい財布の中身を見てから、さてどうするかと考えた。
何を考えてるかって?そりゃ当然、『どの女の所に行くか』だ。
色々迷ったが……昼に会ったばかりの早苗に電話する事に決めた。昼間の穴埋めとでも言えば、あの馬鹿女はホイホイ乗って来るだろう。
いや、それよりも……
「最後にやっとくかな」
今日会ったダチに早苗をやる事を約束した俺は、飽きたとはいえ何だか勿体ないので最後に早苗の体を堪能しておくことに決めた。最近ご無沙汰だったしな。
そうと決めた俺は早速携帯を取り出して早苗に電話した。
数コールで早苗は出た。
『克彦?どうしたの?』
「あ、早苗、昼はごめんね。会ってお詫びしたいというか……今日、お泊りデートしてもいいかな?」
急ではあるが、早苗は週休二日の会社なので明日も休みだ。予定が無ければ……いや、予定があってもきっと俺を優先するはず。
『いいよ~。散らかってるけど許してね』
「んなの気にしないよ。じゃあ今から行くし」
案の定の返答に俺はほくそ笑んで。
通話を終わらせて鼻歌混じりに早苗のマンションへと向かうのだった。
電車に乗るのは面倒だったし金もかかったが、まあ仕方ない。またなんだかんだ適当に理由つけて、早苗から金を巻き上げればいい事だ。
俺は駅から徒歩数分の早苗のマンションに着いた。鍵を差し込みエントランスを入る。勝手知ったる、である。
そして部屋の前に着くとインターフォンを鳴らした。すぐに早苗が出てきた。お待ちかねってか。
「いらっしゃ~い」
「遅くにごめんな」
「いいよいいよ、会えて嬉しいもん。入って入って」
湯上りだったらしい早苗は少し湿った髪で俺を出迎えてくれた。上だけ羽織って下は下着がチラチラ見えていた。おいおい艶めかしいな、誘ってんのか?
「ちょ、克彦……!?」
「いいだろ?」
俺はたまらず早苗の体を抱きしめた。そのまま床に押し倒そうとしたところで……早苗に強く拒まれた。
「ちょっと待ってって!喉乾いてるんだから、何か飲ませてよ」
「あ、俺もそういや乾いてるわ」
「もう……じゃあ少し待っててね」
そう言って早苗はキッチンへと向かって行った。
俺はと言うと、当然のように寝室へと向かう。
ゴロリとベッドに横になった──
カチ コチ カチ コチ
時計の針がやけにうるさい。
しばらく待っていたが、早苗はまだ来ない。
「おせえな」
何してんだ?
俺は昂ぶる自身のあれをもてあまし、遅い早苗に少し苛立ちを感じる。
カチ コチ カチ コチ
規則正しい針の音を聞くうちに、段々と眠気が襲ってきた。
そして 俺は
いつの間にか
眠って
しまった────
──
────
────なんだ?
覚醒は突然。
俺は目を覚ますと同時、違和感を感じてバッと目を開いた。
それは天井。
確かに先ほどまで居た、早苗の寝室の天井。
だが違和感はそれでは無かった。
「な、なんだ!?」
俺の手足は……拘束されていた。
ベッドの上で大の字状態で……両手両足をそれぞれベッドの端だかどこかに縛られていたのだ!
「あ、起きたあ?」
間延びした声を出しながら、俺の顔を覗き込む存在。それは紛れもなく早苗だった。
「お、おい、早苗?これは一体──」
「プレイだよプレイ。最近マンネリで飽きてきたでしょ?たまには刺激のあることしないとねえ」
そう言って薄笑いを浮かべる早苗の顔は、今まで見てきたどんな表情とも違っていた。
こいつ、こんな薄ら寒い笑いを浮かべるやつだったか?こんな感情を感じさせない上辺だけの、貼り付けたような笑みを……。
その表情にゾッとするものを感じた時だった。
「早苗、克彦起きたの?」
そう言って部屋に入って来たのは……
「か、佳奈!?」
早苗の友達の佳奈だった。
いや、二人は友達なのだ、早苗の家に居てもおかしくないだろう。
だが先ほど入って来た時には居なかった。なのにどうして……。
呼んだと言うのだろうか?それとも元々約束をしていたのか?
佳奈とは昨夜関係をもったばかりだ。何となく気まずく感じるが……佳奈は全く気にしてないようだ。
早苗と同じような嘘くさい笑みを浮かべている。
ふと、寒気を感じて、俺は自分が何も着ていない事に気付いた。な、なんでだ!?これから確かに早苗と事を成そうと思っては居たが……佳奈がいるなら話は別だろう!
「おい、俺の服はどこだ!?ていうかこれ外せよ!」
俺は怒りを感じながら、拘束してるロープをグイグイと引っ張った。だがビクともしない。
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