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どうか欲しいと言って(1)
しおりを挟む「お待たせしました、ガザニア様!」
中庭に向かえば、据え置かれたテーブルと椅子。日差し避けにパラソルが立てられ、その下で優雅にくつろぐ男性が一人。金髪なんて輝く色ではない、薄暗い黄色の髪を持った男性。その目を開けば茶眼がこちらを捉えた。ニコリと微笑む男性。──その目は確実にアイリスしか見ていない。
「そんなに待ってないよアイリス。こんにちはマーガレット」
「ご機嫌麗しゅう存じます、ガザニア様」
ガザニア様はこの国の第二王子であらせられる……私の婚約者様だ。
ほぼ毎日のように我が家に来られては、このようにお茶をして帰られるのだ。暇なんでしょうか?
「おやアイリス、可愛らしい帽子だね」
「うふふ」
王子が目ざとく帽子に目を向けた。細められるその目は、確かに熱がこもっている。それは恋する者のそれだ。
「お姉様がくださったの」
「そうか、良かったね。よく似合ってるよ」
アイリスと会話する王子。
私の話が出ても、一貫して王子の目はアイリスを捉えていた。その目が私に向く事はない。
政略で私とガザニア様の婚約が決まったが、ガザニア様は最初からこの話に乗り気ではなかった。あからさまにアイリスばかりを相手にする。その態度は最近顕著となってきた。
きっともうすぐ王立学園を卒業するからだろう。卒業すると同時に私と彼は結婚する。
結婚したら、彼は王家を出て我が家に養子に入る。侯爵家後継として生きるのだ。その事に不満はないようだが、相手が私であることに不満があるらしい。
ハッキリ言って、私だってこんな風に妹を溺愛する人なんて要らない。結婚したくない。だが王家と親が決めた事に異を唱えることなど出来るはずもない。
それが分かっているからこそ、お互いに──私も彼も我慢してるのだ。
愛のない結婚。
貴族ならばよくある話だと分かってはいても……頭で分かっていても心がなかなか納得できないでいる。
だが、全てを打破する一手が無い事もない。私は今日こそはと期待してアイリスを見た。
アイリスは数日前に16歳になったばかりだ。16歳とは即ちこの国では婚約者を決める年齢となる。
我が国では幼い頃に婚約者を決めるのをよしとしない。そこに本人たちの意思が存在しないがために起こる、後の問題を重要視した結果だ。
16にもなればそれなりに恋もすれば自分の意思もあるだろう、ということで16歳以上と決められている。
実際には、私とガザニア様のように互いの意思が尊重されないケースの方が多いけれど。だが仕方ないと諦め受け入れる覚悟はできる。幼い頃に勝手に決められたのでは大人になって納得できないし、怒りが生まれる。だが16ともなれば……怒りはもう抱く事ができない。
私のように諦めるのみ。
きっと両親はアイリスの意思を尊重することだろう。可愛い可愛いアイリスが、結婚したいと望む相手とさせることだろう。
そしてアイリスは権力が大好きだ。
侯爵家であることを誇らしく思っている。
王家ともなれば大好物だ。
ちなみに第一王子は既に結婚している。となれば有力候補は……
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