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第1話
1-3、
しおりを挟む「弟さんが死にたいと言った理由に、思い当たることは?」
会話は続く。先ほどまでとは状況が変わっているけれども、続いている。
今現在、僕ら三人は車の中。
菜桜さん愛用の真っ赤な軽自動車を、助手である僕が運転する状況での会話。
余談だが、菜桜さんは免許を持ってるが完全なるペーパー。ならなぜ車を買ったかと言えば、僕に運転させる気まんまんだったから。実に電車やバスが嫌いな菜桜さんらしい。
運転席は僕、助手席に高野さん、後部座席で一人スペースを陣取っているのが菜桜さん。普通高野さんと菜桜さんの位置は逆じゃない?
「分かりません。なにぶん私は一緒に住んでおりませんでしたから」
「そういえば高野さんは、おいくつなんですか?ご実家を出られて何年?」
「私は短大を卒業と同時に就職して家を出ました。今年24歳になります」
「おや年上ですか、これは失礼」
「え?あの、金ケ原さんはおいくつなんですか?随分お若く見えますけれど」
「女性に年齢を聞くもんじゃないですよ。18歳です」
先に年齢を聞いたのはあなたでしょ。
という言葉を高野さんが飲み込んだかどうかは分からない。ただ少しばかり驚く気配は伝わって来た。
チラリとカーナビを確認して、左に曲がる。高野さんから聞いた郵便番号を入力したので、目的地への道のりはバッチリだ。菜桜さんは元より、高野さんも会話しているからナビを頼れない。僕が居なかったら、電車で行くつもりだったんだろうか。
「見た目通りにお若いんですね」
「不安になりましたか?」
「いえ。信頼できるかたと聞いてますから」
「そういえば、うちに来たのは誰かの紹介で?」
最初に聞くべき質問だったのだろうけど、いきなり『弟を殺した犯人を見つけて』なんて言われたものだから、うっかりしていた。
高野さんも「そうだった」というように、名刺を差し出してきた。
「仕事先でよくお会いするかたでして、顔が広いという噂を聞いてました。それでその、私はこういったことを調べてくださる、いわゆる探偵というものに疎かったもので。相談したら……」
「私を紹介された、と」
「はい」
菜桜さんはチラリと名刺を確認してから、興味なさげにドサリと背もたれに体重を預ける。
信号につかまったので、僕も名刺を見せてもらう。ああ、あの人か、と思った。目はすぐに信号へ戻す。
「家族構成をもう一度教えていただけますか?」
「はい。祖母は一昨年に亡くなり、祖父と両親、兄の正彦と亡くなった弟の奏介。それから家を出て4年の私です」
あと母方の祖父母は遠方の田舎で、伯父夫婦と暮らしてます。
そう付け加えてから、「あ、そこはその道を行った方が近道になりますよ」と抜け道を教えてくれた。
裏道に詳しくなったということは……
「もうすぐですか?」
「はい、もうすぐです」
確かにカーナビの到着時間は、あと1分となっている。
「そこの角を右に曲がれば、小さな印刷工場が見えて、その横に家があります」
言われるまま曲がる。
すると「高野シール印刷」と書かれた看板の建物と、それに連なるように一軒家が見えた。
なるほど、確かに小さい。印刷会社というと大きな会社のイメージがあるが、こういう町の印刷屋さんという感じのは小さいものだな。いやまあ、会社の規模なんて場所に関係なく色々だろうけど。
「工場の横に来客用のガレージがありますので、そこに停めてください」
住宅街の中にポッと出てきた小さな工場。ひっそりとたたずむそれは、もう廃業しているんじゃないかとさえ思えてくる。
だが車を停めて外に降り立てば、確かに聞こえてくる機械の音。扉は閉ざされているが、その先で確かに今も現役で印刷が行われているのだ。
僕らが車を降りると同時、工場の扉が開いて中年男性が出てきた。
「美咲じゃないか」
「ただいま、お父さん」
少し驚いたように眉を上げる男性に、美咲さんは笑顔を向ける。どうやらこの人が美咲さんのお父さんらしい。
機械音はまだ聞こえるから、中ではまだ誰かが作業しているのだろう。
「突然どうした?」
「えっと、実は……」
どう説明したものかと言いよどむ美咲さん。
彼女が視線をさまよわせていると、また工場の扉が開いた。
今度は年配の男性。
「美咲じゃないか」
セリフは同じだが、先ほどよりはいくぶん力弱い、しわがれた声。
「ただいま、お祖父ちゃん」
これでまた一人の紹介が終わる。なるほど杖を突いてはいるが、まだまだ達者そうな眼光鋭いその人は、美咲さんの祖父なわけだ。
にしても、父親は随分と寂しい頭を光らせているのに、お祖父さんは白一色とはいえフサフサだなあ。隔世遺伝だろうか。悲しい男の現実を見て、育毛剤は今からやっておくべきかと思ってしまった。
未来への対策は早めが大事。
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