だからあなたを殺したいのです

リオール

文字の大きさ
6 / 8
第1話

1-5、

しおりを挟む
 
「奏介は……昼間は大学で食べておりましたから」
「でも夕飯は家で食べていたでしょう?」
「大学の友人とよく飲み会とやらをしてまして、一人暮らしの友人の家に泊まることが多かったんです」
「つまり外泊?……奏介さんはあまり家に帰ってこなかったのですか?」
「ええまあ、そうですね」

 苦い顔で頷く母親。
 でもまあ世間一般の男子大学生なんてそんなものだろう。これも想像でしかないが。多分ってことで。

「奏介は、高校までは勉強一辺倒だったんです。それで、その……」
「大学デビューしちゃったんですね」

 美咲さんが言いにくそうにしているのに、菜桜さんはズバッと言って相手の苦笑を買った。
 でも実際のところ、菜桜さんの言ったことが正解らしく、否定の言葉はなかった。

「まったくあいつは!なにが大学だ、なにが飲み会じゃ!あいつは家を継ぐんだからそんなもん必要なかった、高校卒業したら家業の手伝いをすれば、死ぬようなこともなかったろうに。本当にあの大馬鹿もんは!」

 沈黙の後にバンと荒々しくテーブルを叩いたのは、お祖父さん。苦々し気に怒鳴って立ち上がり、チャーハンを残して去ってしまった。

「ごっそさん」

 父親もそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。おそらくは工場へと向かったのだろう。
 続けて正彦さんも完食したところで茶を一口。それから手を合わせて言った。

「ごちそうさま、俺も仕事に戻る。美咲は泊まってくのか?てか仕事は?」
「今日は土曜でお休みだよ。明日も休みだから、多分泊まってく」

 その場合、僕らはどうすればいいんですかね?
 一時間かけて車で戻れってことですかね、そうですよね、僕が運転ですね、菜桜さんは今度こそ助手席に座ってくれるかな。

「そうか。じゃあまた後で」
「うん。お仕事ご苦労様」

 僕が阿呆な思考を巡らせているうちに正彦さんは仕事に戻り、また菜桜さんのズゾゾ……という麺をすする音が響いた。

「……まだ食べてるんですか?冷めてぬるくなったでしょうに」
「これくらいが丁度いいのよ」

 とっくにスープまで飲み干した僕に、スープは残して食べ終えた美咲さんは、菜桜さんが食べ終わるまでお茶を飲んで待つのであった。

「壱岐さん、食後のコーヒーでも飲みますか?」
「ありがとうございます、いただきます」
「金ケ原さんも飲まれます?」

 スープをすすっている菜桜さんは、問いにコクリと頷いて是を返す。
 立ち上がった美咲さんは冷蔵庫を開けて、作り置きであろうボトルのアイスコーヒーを出して来た。

「これ、朝に母が豆を挽いて淹れてるコーヒーなんです。とても美味しいんですよ、良かったら好きに飲んでください」
「それはありがたい」
「金ケ原さん、コーヒーお好きなんですか?」
「ええ、大好物です」

 本当は、今日のように暑い日でもホットコーヒーが好きな菜桜さんだけど、さすがによそ様の家でそんな要求はしない。

 ようやく食べ終えた菜桜さんと、僕の前に氷の入ったアイスコーヒーのグラスが置かれる。
 でも僕の前にはミルクが置かれてるのに、菜桜さんの方にはなにもない。紙包みに入ったストローがチョンと置かれているだけ。

「菜桜さんはブラックですよね?」
「え?」
「だって、事務所で何も入れずに飲んでおられたから……」

 よく見ているなという感じで眉を上げる菜桜さん。

「あれは私の好みをしってるトトが、事前に入れてくれてるからです。私は、コーヒーは砂糖もミルクもたっぷり入れる派なんです」
「そうなんですね。じゃあミルクを用意します」
「もしかしてシロップ切れてます?」

 調味料のお砂糖でもいいんですが……と言いかけた菜桜さんに、美咲さんは「違うんです」と笑う。

「うちの家族も、全員コーヒーに砂糖を入れる派なんです。だから母はコーヒーを淹れた時点で砂糖を入れてるので、既に甘いんですよ」
「ああなるほど」
「ミルクに関しては、父と祖父は入れない人なので、各自で用意することになってます」
「へえ……」

 興味深げに聞く様子に、少し胸が痛む。きっと菜桜さんは自身の家族のことを思い出しているのだろう。その記憶が彼女を苦しめることになっても、彼女はことあるごとに家族を思い出す。

「あ、僕はミルクなしで大丈夫です」

 僕の声が彼女の思考を遮ることができればと声を上げれば、フイと菜桜さんが僕を見た。

「そもそもトトこそがブラック派だよね」
「え、そうなんですか?ごめんなさい、うちにブラックはなくて……あ、来客用にペットボトルのがあったかな?」

 慌てたように冷蔵庫を開ける美咲さん。
 いえいえ、一番好きなのはブラックですが絶対のこだわりなんてありませんから、なんでも飲みますよ。

 そう言おうとするより先に、僕より冷蔵庫に近かった菜桜さんが立ち上がった。

「これ、ひょっとしてブラックなのでは?」
「あ、それは……」

 菜桜さんが指さす先には、今美咲さんが用意してくれた母親が淹れたコーヒーボトルとは別のボトル。
 同じくガラス製の1リットル容量であろうそれには、半分ほど真っ黒な液体が満たされていた。

 ちょっと、勝手に失礼ですよ。
 ボトルに手を伸ばそうとする菜桜さんを咎めようと腰を浮かした時。

「それに触るな!!!!」

 大きな怒鳴り声が響いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】断罪された占星術師は、処刑前夜に星を詠む

佐倉穂波
恋愛
 星は、嘘をつかない。嘘をついていたのは——わたし自身だった。  王宮の卜部に勤める十七歳の占星術師リュシア・アストレアは、ある日、王太子妃候補の婚儀に「凶」の星を読んだ。星が告げるままに報告したに過ぎなかったのに、翌朝には牢に入れられていた。罪状は「占星術を用いて王家を惑わせ、王太子暗殺を画策した」こと。  言いがかりだ。  しかし、証明する術がない。  処刑は五日後の朝と告げられ、リュシアは窓もない石の牢に閉じ込められた。  そこで彼女は気づいてしまう。占いが外れ続けていた本当の理由に。  道具も星図もない暗闇の中で、生まれて初めて、星の声を正しく聞いた。  瞼の裏に広がる夜空が、告げる。  【王太子が、明後日の夜に殺される】  処刑前夜に視た予言を、誰が信じるというのか。それでも、若き宰相クラウス・ベルシュタインは深夜の牢へ足を運び、断罪された少女の言葉に耳を傾けた。  二人の出会いは、運命をどう変えていくのかーー。

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

私には婚約者がいた

れもんぴーる
恋愛
私には優秀な魔法使いの婚約者がいる。彼の仕事が忙しくて会えない時間が多くなり、その間私は花の世話をして過ごす。ある日、彼の恋人を名乗る女性から婚約を解消してと手紙が・・・。私は大切な花の世話を忘れるほど嘆き悲しむ。すると彼は・・・? *かなりショートストーリーです。長編にするつもりで書き始めたのに、なぜか主人公の一人語り風になり、書き直そうにもこれでしか納まりませんでした。不思議な力が(#^^#) *なろうにも投稿しています

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

処理中です...