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第3話
3-16、
警察は確かに来た。複数台のパトカー、大勢の警察官。
救急車も来た。実況見分?とかいうやつ?の後に、二人の遺体は無事に運ばれて行った。
でもそれで終わり。
警察から、私たちや屋敷の人間への質問は一切なく、説明を求められることがないどころか、警察官と会話すらせぬまま終わる。
目の前で引き上げていく警察を前に私たちが出来る事といえば、呆然とすることだけ。
「なんなのよ一体!」
ダンッと、大きな玄関扉を殴って憤っていると、高雄さんがやって来た。
「伯父さん、これは一体……」
「これがあいつの……親父の力なんだよ」
苦々しげな顔に、どこか諦めの色が見える。
「権力ってやつだな。俺は親父の仕事を手伝いはしても、その詳細は……根っこにある本業は何も知らないんだ。本業、ま、いわゆる裏家業ってやつだな」
「そんな、まるで創作の世界のような話、本当にあるんですか?」
「あるさ。和久、気を付けろよ。あのタヌキ親父はその権力でもって、何をしでかすか分からない。もしかしたら信雄や姉さんの死だって、親父が仕組んだことかもしれないんだ」
「いくらなんでも、実の子供を……」
「あいつならやりかねないって言ってるんだ。あの男に家族の情があると思うか?無駄と思えば徹底的に排除するようなやつだ、だから美香は無理矢理別れさせられるのを恐れて駆け落ちしたんだぞ」
そう言って高雄さんは愛美さんを見る。
「パパとママの結婚は無駄なんかじゃないもん」
彼女の表情は暗い。
「今、親父に部屋に呼ばれたよ。遺産相続の権利、警察に通報した俺は剥奪だそうだ。ま、遺留分だけ貰えりゃ、もう俺はどうでもいい」
「そう、ですか……」
「和久も愛美も、命が惜しけりゃ遺留分だけで満足して帰るんだな。いくら金があろうと、命あっての物種なんだから」
それだけ言って、高雄さんは屋敷内へと戻って行った。今日はもう遅い。おそらく明日、帰宅するつもりなのだろう。
「和久さんと愛美さんは、どうされますか?」
「僕は……」
「私は残る!」
逡巡する和久さんとは対照的に、キッパリ言ったのは愛美さん。
「この程度で遺産を諦めてたまるもんですか!私はパパやママが苦労した分を取り戻してやるんだから!」
「死ぬかもしれませんよ?」
「大丈夫よ。だって犯人はきっとあの高雄伯父さんだもの!」
「どうしてそう思うんですか?」
「だってあの人しかいないじゃない!姉と弟を邪魔だと思ったんでしょ!」
「でも遺留分てのは兄弟平等ですし、残りの遺産は遺言書を見つけないことには、高雄さんのものにもなりませんよ?それに彼は……」
高雄さんは、既に相続の権利が剥奪されている。それが嫌なら、彼は頑なに通報なんてしなかっただろう。
「警察に通報した時点で、高雄さんが犯人である可能性はなくなりました」
「そんなの分かんないわよ!まだ裏の手があるかもしれないんだから!」
裏の手ってどんな手だ。
とはいえ、二人の死が他殺であるなら、犯人の可能性は高雄さんが一番高い。
「遺産目当てじゃない、別の理由がある……?」
調べてみる価値はあるな。
私はもう一度、各部屋をしらみつぶしに調べることにした。
「菜桜さん、夕飯の用意ができたそうですよ」
「……すぐ行くわ」
探偵の資本、体力を作るには食べるのは大事!
自分に言い訳して、私はいそいそと部屋に戻るのであった。
* * *
「菜桜さんを守るために、同じ部屋で寝泊まりすべきだと思うんですよ!?」
「あなたは和久さんを守りなさい!私は愛美さんを守るから!」
阿呆な助手の阿呆な提案を一蹴して、私は部屋の扉を閉めた。念のために鍵をかける。
「菜桜さーん!鍵を閉めちゃったら、襲われても助けに入れないじゃないですかー!!!!」
「今一番危険なのはあんたよ!」
ええい、こんな時にふざけおってからに!
いや、こんな時だからか?
重たくなる空気を払拭すべく、わざとトトは明るく振る舞っているのかもしれない。
不意に扉の向こうから、神妙な面持ちのトトの声が聞こえてきた。
「気を付けてくださいね、菜桜さん。本当に何かあれば、呼んでください」
「……うん」
心配してくれているのだと分かるから、私も素直に頷く。
遠ざかってゆく足音が聞こえなくなるまで、私は扉に手を当てていた。
「さて、寝るか」
切り替え早く、クルリと室内を振り向けば、向けられる視線。
「なにか?」
「菜桜たんもよくやるよねえ」
愛美さんが言わんとしていることが分からず首を傾げると、
「壱岐さんに家族を殺されているのに、守るなんて言葉、信じちゃってんの?」
とズバッと言ってきた。
「トトは私には危害を加えませんから」
「そんな保証、どこにあるの?」
「家族を殺されてから10年以上、何もされてません」
「え、壱岐さんって、捕まってないの?」
「事件当時、私は5歳で、彼は15歳……まあ逮捕されてるでしょうね。でも私は幼かったし、事件のことがショックで当時のことをよく覚えてないんです」
「お祖父ちゃんに育てられたんでしょ?話、聞いてないの?」
「祖父は、その話を私にしたがりませんでしたから」
「えー、でもさ~」
バンッ!
突然の大きな音に、ビックリした愛美さんがその口を閉じた。
私は脱いだ服をクローゼットに仕舞い、派手に閉じ、布団へと移動する。そのまま無言で布団をかぶった。
ああ本当に子供って無神経で嫌になる。
きっと私はまた見るんだ。過去の夢を。
会いたいのに見るのが怖い、愛する家族の夢を。あの日の夢を。
苛立ちと共に目を閉じれば、夢は過去へと私を誘う。
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