【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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プロローグ~17歳で終わる人生~

4、

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 何度も何度もループした。
 何度も何度も同じ生を繰り返した。

 何度も何度も……

 そのたびに私は家族に殺された。手を下したのは領民であっても、そうさせたのは、家族。家族が私を殺したも同然。

 何度繰り返しても処刑されてしまう。そしてまた、私は首を斬られた。何度経験しても慣れることのできないその感触。首筋に冷たい刃が当たる感触。自分の首が胴体と別れる恐怖。

 そしてまた、私はループした。ループして、また人生を繰り返す。けれどどんなに足掻いても、状況を変えることができない。
 もうこれで何度目のループだろう? 数えるのをやめたのは何回目だっけ?

 外が騒がしい。何度も聞いた、民衆の声だ。
 暴動が起きたのだ。

 ──予定通りに。

 屋敷が襲われたのだ。

 ──これも予定通りに。

 追い詰められる私と家族。

 ──全てが予定通りに。

 固く閉ざされた扉の向こうに、押し寄せた民の気配を感じ、私は知らず体を震わせた。
 その扉が開けばどうなるか分かってるから……全て知ってるから。だからこそ余計に恐怖する。

 チラリと視線を横に向ければ、蒼白な顔の両親に兄に弟。兄に抱きしめられて震えてる義妹。

 義妹──全ての元凶。

 彼女の我儘に振り回された我が家族は、家紋を潰す事態にまで落ちぶれたのだ。
 もう、暴動は止まらない。

 いや。

「いや、いやよお父様……ミリスは死にたくないです」
「泣くなミリス、まだ手はある」

 兄の胸元を涙で濡らすミリスをいたわるように、優しい光を瞳に浮かべて語る父。
 手があると言うままに、私の顔を見た。その冷たい光に身震いする。

「財政の使い込みは全て一人の責任である事にするのだ。我儘に傍若無人に振舞った一人のせいにすれば良い。そうすれば、私達への怒りは消え、一人の犠牲で皆が助かるのだ」

 その一人とは誰か、聞かずとも分かる。

「ひ、一人って?」

 だが分からないミリスは震える声で問うた。本当は分かってるだろうに。誰の名が挙がるかなんて、この場に居る全員が知っている。

「リリア、良いな?」

 許可を得ようとする問いではない。
 それは問いに似せた命令。

「……」

 私はそれに何も答えない。
 だって何度もそれは経験してきたことだから。

 かつて私は泣き叫んで慈悲を請うた。
 かつて私は喚き散らして暴れた。
 かつて私は窓から逃げようとした。

 かつてかつて──

 けれど望みは一度とて叶う事は無かったのだ。

 誰あろう、確かに血を分けた家族に裏切られ。
 誰あろう、たった一人血の繋がらない義妹のために。

 私は生贄にされ、領民に処刑されたのだ。

 ……いや、今現在で見ればこれから処刑されるのだ。少なくともこの場に集う家族は誰もがそう信じて疑わない。

 誰も私が死ぬことを悲しまない。
 自分たちが助かる、ミリスが助かる。それだけを喜ぶ。

 何度時間を巻き戻したのだろう?
 何度同じ生を過ごしたのだろう?
 その都度努力した。家族に愛されるよう努力した。

 けれど最後は必ず裏切られた。

 ならばもう──期待はすまい。

 私はスッと無言で立ち上がる。そしてスタスタと扉へと向かうのだった。扉はけたたましい音を立てて揺れている。おそらく丸太か何かをぶつけて開けようとしてるのだろう。それほどに頑丈な部屋なのだ。何かあった場合の避難場所なのだから当然だ。

 だが。

 扉に手を伸ばす。
 鍵を開けてしまえば?
 それはいとも簡単に開くことだろう。

「お、おいリリア!?」

 焦ったように私の名前を呼ぶアルサン兄様。

 彼は理解出来ないだろう。
 私がどうして自ら死を選ぶような事をするのか。
 扉を開ければ、確実に死が待ってるはずなのに、どうしてこんな事をしようとしてるのか理解できまい。

 私は振り返って家族全員の顔を見た。義妹の顔も。
 全員が蒼白な顔で私を見守るのを見て、私はクスリと笑った。

「誰も私が死ぬことに反対しないのですね?」
「リリア……?」
「お母様は私が犠牲になれば、ミリスが助かると喜ぶのでしょうね」
「り、リリア……母様も苦しいのよ。でも可愛い妹のためでしょ、ね?」

 何が可愛い妹の為に、だ。
 貴女はお腹を痛めて生んだ私より、ミリスの方が可愛くて仕方ないのね。

「お父様が提案なさったことなのだから、当然この扉を開ける事を反対なさらないでしょう?」
「あ、ああ……リリア、お前の尊い犠牲は無駄にせん。お前の分まできっと幸せになるから……」

 ふざけるな。
 お前の分?
 私は一度も幸せだと思ったことなど無かったわ。私の幸せはゼロなのに、どうやったら私の分まで幸せになると言うの?

「お兄様にガルード」

 兄と弟を見る。
 二人とも、何も言わない。だから私も一瞥をくれただけで、無言で扉へと視線を戻した。

 手を伸ばし扉に触れる。外からは頑丈で開かない扉は、けれど中からは簡単に……カチャンと音を立てて鍵は開いた。

 復讐の扉が、今開かれる。
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