5 / 42
第一章 戻る時間
1、
しおりを挟む目を開ければそこは暗闇だった。
(暗いわね……)
当たり前の事を考えて目を閉じる。閉じても同じ暗闇だ。
手を伸ばせば指先に感じる壁の感触。ここが何処かなんて、考えるまでも無かった。
何度も何度も死を迎え、時が戻る。戻って目覚めるのは、いつもこの暗闇だった。暗い、箱の中だった。
いつもお仕置きとして入れられた場所だ。
小部屋と呼ぶにも小さすぎるその場所を、私は『箱』と呼んでいた。
悪さをしたらお祖父様はいつも箱に私を閉じ込めた。
けれど私は何もしていない。では何故入れられてるのか?
答えは簡単。
義妹の身代わりだ。
神の祝福を受けたかのように美しい義妹、ミリス。金色の髪をキラキラ輝かせ、空より青い瞳は何より澄みきっている。白い肌に浮かぶ唇はまるで紅を引いたかのような赤みを持ち、その口が紡ぐ美声に誰もが聞きほれた。
祖父の知り合いの孫娘。その知り合い一家が亡くなってしまい、身寄りの無い彼女は我が公爵家へとやって来た。
私の義妹として。
今日は兄と義妹ミリスと私、三人で遊んでいたのだ。11歳の兄、10歳の私、9歳のミリスで。駆けっこをして遊んでいた。
庭ですれば良いものを、子供と言うのはどうしても反発するもので……やってはいけないと言われていた屋敷内で追いかけっこをしていたのである。
結果、ミリスが祖父の大事にしていた壺を──王家より賜ったという壺を割ってしまった。
焦る私に兄とミリス。
割れてるのを発見し、怒り心頭の祖父に理由を説明しようとする、私より早く。
『リリアがやりました!!』
そう叫んだのは……誰あろう兄だった。
違うと叫んでも。私じゃないと泣いても。
祖父は兄の言葉を絶対と信じ、後継で長子である兄の言葉が嘘とは露ほども考えず、私に罰を与えた。
それが今だ。
10歳の私をこんな狭くて暗い箱に閉じ込めるなんて、どうかしてる。
だがかつての私、『本当に10歳だった私』には、それがおかしいと分からなかった。
泣いて泣いて、最後には謝って。『嘘』をつくなと怒られたくなくて、自分がやったと『嘘』をついたのだ。
そうしてやっと箱から出してもらった私。その後に兄とミリスが放った言葉は──
思い出したら気分が悪くなり、フルリと頭を振った。
思い出すのはよそう。それは『まだ起きてないこと』なのだから。
私が死ぬのはいつも同じ、17歳の時。
己の欲望に忠実に突き進んだ公爵家は、当然のように領民の怒りを買い、結果暴動が起きた。その時に生贄となるのだ。それは何度時が戻り、人生を繰り返しても、与えられる同じ結果。
はたしてその後、家族が助かったのか……領民に許されたのかは分からない。
だって死んでしまったのだから。
過去の事は覚えていても、死後の事まで知るはずもない。だがそれでいい、知る必要などないのだ。
「今度こそ、未来を変えてみせる──」
もう何度目のループか分からないが、きっと必ず終わりは来るはずだ。
そしてそれは、私が『生存』する事がカギとなる。
誰に言われなくとも、それを私は理解していた。
132
あなたにおすすめの小説
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる