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第一章 戻る時間
2、
しおりを挟む何度も死んで何度も時が戻った。戻った時の始まりの場所はいつもこの暗闇だった。
──それはつまり、今これからの行動次第で未来が変わるという事だ。
何度も繰り返すうちにいい加減頭も冷静になる。目を閉じてるのか開いてるのか自分でも分からないくらいの闇の中で、けれど逆に思考がしやすいというもの。
私はこれまでの行動を思い出していた。
選択肢は数多ある。その中で、私が最も行ったのは泣き喚く、だ。
だがそれは何の意味も為さなかった。
泣いて喚いて疲れて眠る。
そして夜にようやく解放される。
そのパターンを何度繰り返したことか。たしかループ最初の頃はそればかりやっていたっけ。精神がまだまだ幼かったのだろう。
ループ後半になると、精神はだいぶ成長した。というか達観せざるを得なかったというべきか。少なくとも、この人生ループは10回を超えている。嫌でも慣れるし、泣き喚くという行為の馬鹿らしさに気付くというものだ。
だから泣かずにじっと耐える。それが後半の主な行動。
そして今回もそれを選んだ。けれどそれで良いのだろうか?
ループはここから始まる。ということは、だ。まずここでの行動に何かしら意味があるのではないか?
闇の中でそう考えた私は、その案に非常に納得してしまった。
なるほど、つまり最初から間違えていたということか?
じゃあ泣き喚く、じっと耐える、以外の事をしよう。そう考えたところで詰まってしまった。
──何をすれば良いのだろう?
こんな狭い場所で、私はどうすれば良いのだろう? 何も見えないから絵を描くわけにもいかない。寝るのは……泣き喚いてた時は疲れて眠れたが、通常であればこんな狭い所で、膝を抱えて座り込んだまま眠れるわけもない。
さてどうしよう?
考えたが妙案が浮かぶわけもない。やはりジッと耐えるべきなのだろうか? だがいい加減、ただ待つのも飽きた。何度も同じ人生で、何度も同じことを経験していたら飽きるのは当然。恐いという感情はとうに消えたが、退屈という感情は消えないようだ。
「──♪」
何とはなしに、鼻歌が飛び出す。静かすぎるからか。狭い空間、私の声が反響して心地よいからか。
理由などどうでも良いと思った。ただ、歌いたいから歌う。
楽しくなってきた私は、鼻歌では飽き足らず、口を開いて歌を歌う。大きな声で、楽しく──実際楽しくて仕方なかった。
ああ、そう言えば……歌なんて歌ったのはいつぶりだったろう?
耳障りだ、やめろ。そう祖父に言われてやめてしまった歌。
勿体ない。
こんなにも歌は楽しいのに。
もし祖父の耳に届いたら、烈火のごとく怒り出して駆けつけるだろう。そして箱を開けて私を叱る。その一連の流れを予想しても歌う事を止められなかった。
だが。
予想は意外な事態に裏切られることとなる。
「~♪……え、な、何!?」
暗闇の中に響く歌声。その中に、突如点のように小さな光が生まれた。
驚き歌うのをやめた瞬間──
光が爆発し、箱は壊れた。
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