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第三章 これが最後
12、
しおりを挟む「な、なんだ、今なにが……ミリス大丈夫か? ……え……ミ、ミリス……?」
何かは分からないまでも、自身の体に変化が生じたのを感じたらしい。父はキョロキョロと周囲を見回してから、慌ててミリスを見て……直後、ギョッとした顔で言葉を失う。
「父上? なにが……え!?」
頭を庇うようにして民からの暴力に耐えていた兄が、同じくミリスを見て言葉を失う。母も、弟も。皆がボロボロになりながら向けた視線の先。そこには同じく体を抱えるようにして、義妹が床にへたり込んでいた。
「だ、誰だお前は!?」
しかしかけられる言葉は、気遣うものではない。
「……え? 何を言ってるの、お兄様?」
顔を上げる義妹。声は確かにミリスそのもの。
けれど。
美しかった金髪は見る影もなく、灰色に変化していた。黒味がかったダークグレー。
変化はそれだけではなかった。美しい目も鼻も唇も、顔の輪郭さえも……そして体型も。全てが変化している。
「お兄様だと? 僕にはお前のような醜い妹は居ない!」
「ええ!?」
兄の悲鳴のような叫びに驚いてミリスは兄を見た。兄を見て、それから両親や弟を見る。
「醜いですって? どうして? 私よ、ミリスよ。髪を引っ張られたりしてボサボサになっちゃったし、そりゃちょっとは見苦しくはなってるでしょうけど……みんなが愛してくれる、美しい私よ!」
訴えかけるも、誰もがシンと水を打ったように静まり返る。それは民衆も同じ。全員がポカンとした顔で動きを止めていた。
「ミリス、だと……?」
父の震える声だけが聞こえる。「お父様?」ミリスが怪訝な顔で問いかける。
「黙れ、私を父と呼ぶな! お前のどこがミリスだというんだ!? お前のような醜い娘は知らん!」
「な、なんですって!? お父様もお兄様も一体どうしちゃったの!? ねえお母様、ガルード、何か言ってちょうだい!」
父や兄に醜いと言われてショックを受けるミリス。慌てて母と弟を振り返るも、やはり二人とも青い顔で呆然としている。母はショックでフラフラと床に座り込んだ。
「みんな一体……」
「ミリス」
何が起きてるのか分からないと、焦って周囲を落ち着きなく見回すミリス。そんな義妹に、私は手鏡を渡した。こうなることを予期して用意しておいたのだ。
「え? な、なによ……」
「これで自分の顔を見てごらんなさい」
「は? 鏡なんか見なくても私は……」
美しいわ。
そう続くはずだった言葉は、けれどミリスの口から出ることはなかった。
「な、なによこれ! 誰よこれは!?」
代わりに出たのは、手鏡を持つ手を震わせての絶叫。
「こんな、こんな醜いのは……」
「紛れもなくミリス、それがあなたの顔」
「え!?」
私の言葉に目を見開くミリス。私はニコリと微笑んだ。
そんな私を見たミリスは、ますます目をこぼれんばかりに見開く。驚きの連続なのだろう、もう目が飛び出してしまいそうだ。
ミリスは震える手を上げて私の顔を指さした。
「待って、ちょっと待ってよ……なんなの、その顔。お姉様の顔が……なんで……どうして……」
驚きのあまり体全体を震わせて、ミリスは私を見る。
私はといえば、予期し分かっていたこととはいえ、それを見るのは初めてだからと自分の手足をマジマジと見る。
「ふうん、そっか。本当の私はこうだったのね」
言ってミリスから手鏡を奪って自分の顔を見る。
「……へえ……」
思わず自分の頬を撫でた。
呆然とミリスを見ていた家族が、そこでようやく一斉に私のほうを向く。
「え!?」
そう叫んだのは全員。家族全員。
驚愕に目を見張る家族の前に立つ私は……明らかに変化していた。
美しく輝く金の髪をパサリと払い、怪しげで妖艶さを兼ね備えた紫の瞳を細める。
形の良い、紅をささなくても赤く綺麗な唇で弧を描く。
醜くなったミリスに対し、美しくなった(自分で言うのもなんだけど)私。
悠然と微笑み立つ私に、家族は言葉を失った。その目は見惚れてるとも言える。
そんな中で、父が呆然としながら小声で呟いた。
「母様……」
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