【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

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第三章 これが最後

13、

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 祖父の部屋に飾られている祖母の姿絵は、とても美しい。だが祖父いわく、その絵は祖母の美しさをまったく表現できてないらしい。それは父も否定せず、祖母は本当に美しい人だったのだと想像できた。兄が産まれる前に病で亡くなられてしまい、お会いしたことはないけれど。

 その祖母の姿絵によく似た、けれどそれ以上の輝く美しさをもつ姿で、私は立っている。

「ど、どういうことだ……?」
「呪いが解けたんですよ、お父様」

 瞬きすら忘れて私に見入る父に、私は説明してあげる。

「ミリスの魅了魔法は私の光魔法が防いでいたのですが、未熟さゆえそれ以外は防げてなかったのです」
「魅了魔法?」
「そうです」

 私はそう言って頷いた。ピッと人差し指を立てる。

「一つ、ミリスの魅了魔法によって、あなたたちは彼女の虜となっておりました。私には光魔法の防御壁があり、魅了は効かなかった。それに気づいたミリスが、私を虐げるようにあなた達の心を誘導したのです」
「な、なんだと?」
「その証拠に、今私に対して疎ましいといった感情はありますか?」
「それは……」

 言葉に詰まる父。それが答え。もう父の中に、私を疎ましく思う感情は無いはずだ。父や家族にまとわりついていた闇魔法のモヤはとうに消えている。

「二つ、ミリスの容姿は魅了魔法によるまやかし。つまりは偽物だったのです。今見えてる姿が真実の姿」
「え!?」

 驚きミリスを振り返る家族。構わず私は話し続ける。

「三つ、まやかし魔法の延長で、私の容姿もいじられていました。本当の私の姿は今のこれ……祖母によく似た姿。私の魔力の未熟さゆえ、闇魔法を防ぎきれていなかった結果です」
「なんと……」

 言葉を失う父に、私は続けた。

「四つ」
「ま、まだあるのか!?」
「これが最も恐ろしい魔法。命を奪う魔法です」
「なんだと!?」
「ですがこれは、そうと気付けたなら私が解呪できる呪い魔法です」

 そう言って、私は扉のほうを振り返った。
 そこに立っていたのは──

「ベントス殿?」
「メルビアス様!」

 父とミリスの声が重なる。
 そして。

「ち、父上!?」父が叫ぶ。

 ベントス様とメルビアス。その二人に支えられるように立っている人物。
 それは紛れもなく、祖父であった。

「そんな! 父上は亡くなったと──」

 そう、祖父は予定通りに、私が14歳の時に亡くなった。ということにしておいたのだ。

「リリアの光魔法が呪いを解いてくれたおかげで、私はこうして生きている。ただ、それまでに既に蝕まれていた体はなかなか回復せんがな」

 祖父の説明に、言葉を失う家族。父は膝から崩れ落ち、床に手をついた。

「そんな──ミリスが……? 私達に魔法を……呪いを……?」

 信じられないというようにミリスを見るのは、母だ。父も兄も弟も、ゆっくりとミリスを見る。そこにはすっかり元の姿に戻ったミリスがへたり込んでいた。
 みなの視線が集中して、慌てて彼女は手で顔を覆った。「見ないで!」と叫んで。

「いやよ、こんな姿はいや! これは本当の私じゃない! 私は、私は……見ないでえ!」

 泣き叫ぶミリス。
 そこに近付くのはメルビアスだ。ハッと気配を感じて顔を上げたミリスは、バッと彼に駆け寄った。
 そっとメルビアスの胸元に手を当てて、ミリスは彼を見上げる。目に涙を浮かべて。

「お願いですメルビアス様、姉が私に呪いをかけたのです! あの女は悪女、私を陥れようとするとんでもない悪女なのです! どうか、どうか私を助けて……」
「あれに光魔法の使い方を教えたのは俺だ」

 縋るように見上げてくるミリスに、氷のような冷たい目を向けるのはメルビアス。

「え……?」
「あいつがさっき師匠とか言ってだろ? あれは俺だ。お前がこの屋敷に招き入れてくれたおかげで、合間を見て、俺が知りうる限りの光魔法を教えてやった。俺は使えはせずとも知識は膨大にあるからな。そしてあれは見事に使いこなした」
「そんな……嘘でしょう?」
「何も嘘ではない。むしろお前の今までの姿が嘘だ。言っただろう? 俺は今までお前ほどに醜い女を見たことがないと。俺には見えていたんだよ、真実のお前の姿が。醜いお前が」
「嘘よ!」

 叫んでミリスはメルビアスから体を離して、一歩後退して距離をとる。

「嘘よ! 私は美しいの! 誰からも愛される女なのよ! 私が……私だけが……!」

 まるでその言葉が呪いのように、私がと呟き続けるミリス。

「私はねえ、公爵家の後継となるのよ! 美しい夫を手に入れ、優雅な暮らしを満喫するの! 男爵家なんかにおさまる女ではない! 私が、私こそが愛され幸せを手にするのよ!」

 ミリスはかつて男爵家の娘だった。なぜそんな家と祖父が親しかったのか昔は知らなかったが、どうやらミリスの祖父が私の祖父と魔法オタク仲間だったらしいのだ。祖父は認めた相手ならば身分を気にしない人だったから。
 その親友の息子夫婦が亡くなり、残された孫であるミリス。それを引き取ることに迷いは無かったらしい。

 だが……

「そうだな。お前はそうやって、両親を闇魔法で殺し、現在の状況を手に入れた。まんまと公爵家を乗っ取ったのだ。……まあ失敗したがな」

 それに気づいたのは、祖父の呪いを解いた時。祖父がひょっとしてと調べたのだ。そしてミリスの実の両親の死が、実に不自然な謎の病による突然死と分かる。

「お前は……お前だけは許さん」

 年老いたとはいえ、祖父の眼光の鋭さは衰えを知らない。ギロリと睨まれて、「ひっ」とミリスが喉の奥で悲鳴を上げる。

 焦ったようにミリスは周囲を見回した。まるで救いを求めるかのように。
 だが彼女の周囲──屋敷内と外を囲む民衆に、義理の両親兄弟は微動だにしない。静かに動向を見守っている。

 そばに立つメルビアスは、既に視線だけで殺しそうな目をミリスに向けている。
 ベントス様に祖父も言わずもがな。

 ──最後に私を見る。ミリスの目が、私を射抜いた。
 その瞬間、その顔がいびつに歪むのを私はハッキリと見た。

「お前……お前えぇっ! お前のせいだ、全部お前のせい!! お前さえいなければ、光魔法なんてなければ私は……!」

 それは本当に醜い姿だった。かつての美しい面影は微塵もなく、悪鬼のごとき顔の醜い女が一人。
 ミリスがバッと床に手を伸ばす。その先には、誰が落としたのか短刀があった。それを拾い上げるミリス。

「死ねっ!」

 その短刀を手に、私に駆け寄る。その切っ先を私に向けて。
 私を殺すという確固たる意志をもって、恐ろしいほどの殺気をまとって……ミリスは私にその刃を突き出した。
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